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ユーザーの好みで変わる「パーソナライズド検索」

人によって検索結果が変わる、パーソナライズド検索

ある同じ時間に、同じキーワードを使って検索をした時、北海道に住んでいるAさんも、埼玉に住んでいるBさんも、そして大分に住んでいるCさんも皆、全く同じ検索結果を見ています。これに対して、同じキーワードを使ってもAさん、Bさん、Cさんそれぞれ異なる検索結果を見ることになる可能性を持つのがパーソナライズド検索(Personalized Search)と呼ばれる検索サービスです。

パーソナライズド検索とは、各々のユーザーの興味や関心を反映して、検索結果を最適にする技術です。たとえば、「ボール」と検索した時、野球好きなAさんが目にする検索結果は野球関連のボールの情報が多くなるのに、サッカー好きなBさんが目にする検索結果はサッカー関連のボールの情報が多くなる、といった具合です。

過去の検索履歴であなたの関心事を類推する

ところで「あなたの興味や関心事にあわせて~」といっても、検索エンジンが日常ストーカーの如くあなたの生活を監視しているわけではありません。ただ、検索エンジンはあなたの過去の「検索履歴」や「検索行動」を記録し、そこから興味・関心を類推するのです。

たとえば、カレー好きで毎週、いろいろなカレー屋さんに足を運ぶエリさんは、毎日のように仕事が終わると検索エンジンを使い、あちこちの店舗情報やクチコミサイトを見ておいしいカレー屋さん情報を集めています。すると、エリさんが過去に利用したキーワードや、訪問したサイトの多くが、カレー屋さんやカレーのクチコミサイトといった「カレー店舗に関するリンク」が多くなってきます。すると検索エンジンは、「この人はカレーに関心があるんだな」ということを学習してきますので、ある日、エリさんが「香辛料」と検索した時、検索結果には一般的な香辛料のリンクではなく、カレーに使う香辛料に関するリンクをより多く表示するようにします。

以上の話のように、人はそれぞれユニークな興味や関心事を持っており、それは過去の検索履歴を追っていくと少なからず反映されています。検索エンジンはその過去の情報を見て、ユーザーの関心を探り、それを検索結果に反映するのです。

一般キーワードでの検索結果に威力を発揮

パーソナライズド検索が威力を発揮するのは、検索行動を起こすコンテクスト(状況、文脈)によって様々な解釈ができるキーワードに対する検索結果の改善です。先ほどあげた「香辛料」を例にとると、単に香辛料と検索されただけでは、インド料理の香辛料か、カレーの香辛料か、あるいは香辛料の作り方なのか、香辛料の歴史なのか、ユーザーが一体何の意味の「香辛料」の情報を求めているのか判断のしようがありません。従って、ユーザーの大多数が満足できうる、一般的な「香辛料」の検索結果を表示せざるを得ません。

しかし、ユーザーの興味や関心を分析し、エリさんがカレー好きとわかっていれば、香辛料と検索した時に一般的な香辛料やインド料理の香辛料よりも、カレーの香辛料のリンクを表示した方が、相対的に検索結果に対する満足度は高まるでしょう。

同様に「apple」と検索した時に Mac のAppleなのか、それとも文字通りリンゴのAppleなのか、あるいは「マット」と検索した時にヨガのマットなのか、あるいはフロアのマットなのか。パーソナライズド検索によって、それぞれ最適な検索結果を表示できるようになるのです。

パーソナライズド検索は、ログインしたユーザーが対象

パーソナライズド検索を機能させるためには、過去の検索履歴情報を十分に蓄積する必要があります。でも、検索履歴を集めるということは、いわば日常生活で24時間あなたの生活を監視されているようなもので気持ちの良いものではありません。プライバシーの侵害だと感じる方もいるでしょう。

検索エンジンもそのあたりの事情は十分に理解しており、パーソナライズド検索はログインして、かつパーソナライズド検索を有効にしているユーザーだけが対象となります。ログインしている間に検索した履歴情報が蓄積され、ログインしている間だけ検索結果はカスタマイズされます。

Googleはパーソナライズド検索を提供中

2008年5月現在、日本国内でパーソナライズド検索を提供しているのはGoogle 1社です。Yahoo!JAPANは提供していません。

ただ、Googleの国内検索シェアは30%強あること、そして2007年2月以降にGoogleアカウントを取得したユーザーは、デフォルトでパーソナライズド検索が有効になっています。Googleアカウントとは、WebメールのGmailやカスタマイズした自分だけのトップページが作れるiGoogleといった、Googleが提供する各種サービスを利用するユーザーなら取得しているアカウントですので、意識してなくても実は自分の検索結果はパーソナライズされている、というユーザーもいるでしょう。

パーソナライズド検索が進めば、「ランキング」の重要性が薄れる

2008年3月時点、Googleのエンジニア・Phil McDonnell氏は検索結果のパーソナライゼーションの影響について、「ランキングには軽微」だとし、特にSEOにおいて気にすることはないとの見解を出しています。しかし現実には、ユーザーの過去の検索履歴とキーワードによっては、パーソナライズの有無により大きく検索順位が変化するケースも確認しています。たとえば、筆者は普段、サーチマーケティングに関連する検索を多く実行しているユーザーですが、この領域のキーワードで検索すると、ログインしていないユーザーや他の検索履歴情報を持つユーザーの検索結果と比較すると、同じサイトの順位が7~10位ほど違うケースを複数確認しています。

この程度の違いをGoogleは「軽微」と認識しているかもしれませんが、同じ検索結果1ページ目でも、検索順位が1位と10位ではクリック率にして10%ほどの違いが出てきます。ユーザーの利用状況によって、あなたのサイトの順位は大きく変わる可能性があることは認識しておくと良いでしょう。

異なる検索結果が表示されるユーザーの割合はウェブサイトのトピックや領域によって変わるので一般論として説明することは難しいのですが、基本的に、人によってあなたのサイトの順位が変わる以上、「検索順位」という切り口でSEOの評価をしたり一喜一憂することの意味は薄れてくるということはいえるでしょう。人によって見る順位が違うのであれば、順位であれこれ言っても意味がありません。ただし、あなたがターゲットとするユーザー、つまりあなたのビジネスや話題に興味・関心のあるユーザー層において、何位に表示されているかは今まで通りの評価が行えるともいえます。

パーソナライズド検索が浸透する可能性は?

現時点でGoogleが提供する一方でYahoo!やその他の検索エンジンが提供していないのには理由があります。実は情報検索の研究において、パーソナライズド検索が果たしてどの程度、検索精度の改善に結ぶつけられるか不透明な面もあるためです。

たとえば、人の興味・関心は永続的なものではありません。大学卒業を控えた大学生が、3月に卒業旅行に出かけるために12月頃から旅行の計画を立てたとしましょう。このユーザーは12月~2月にかけてきっと多くの旅行関連のキーワードで検索をし、様々な旅行関連サイトを訪れるに違いありません。しかし、4月に入り就職したこのユーザーは、果たしてこの時点で旅行に強い興味を示しているでしょうか。4月に入ってからこのユーザーに対し、旅行に最適化した検索結果を提供することに、どれだけの意味があるでしょうか。

同様に、普段は釣り好きな人がある日、お風呂のことを調べたくて「バス」と検索することもあります。昼間は仕事でいつも保険関連のことばかりを検索していても、自宅に帰ったら趣味のガンプラに関する検索をするかも知れません。ユーザーは24時間365日、常にある1つのトピックに関する検索をしているわけではありません。仕事、プライベート、休日。1日の中でも仕事中の昼間とデート目前の夕方では違う検索をするでしょう。この時、過去の検索履歴にもとづいてカスタマイズすることは最適といえるでしょうか?

このように、パーソナライズド検索は様々な問題を抱えています。それ故にGoogleもランキングに与える影響は軽微になるように調整しています。とはいえ、将来有望な検索技術の1つではありますし、すでに2年以上運用しているGoogleにはノウハウや知見が蓄積されているでしょうから、将来これらを活用して本当にすばらしい検索サービスを実現するかもしれません。

いずれにしても、「現在、Googleはパーソナライズド検索を提供している」ことは認識し、それが検索結果に影響を与えうることを理解しておきましょう。

cf.

Google、サイトを優先表示するPreferred sites機能を追加 :: SEM R

執筆:渡辺隆広

このコラムは、2008年6月16日発売の『検索にガンガンヒットさせるSEOの教科書』に掲載した文章の一部です。

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