リスティングを運用していて、競合と比較した CPC が高い低いという事象には、手段が目的化していると言える場合があることを説明したい。
もちろん、クリック数(≠PV 数)のみが運用の最終ゴールである場合は、CPC が高いことは間違った問題分析の方向ではない場合もあるだろう。ところが、コンバージョンを測定し、コンバージョン率(CVR)を目標にしている広告主にとって、CPC が高いといういうのは、一概に問題点と言い切れない場合がある。
ここで例えばの話をしよう。あるビジネスマンが、電車で一駅隣の駅まで行きたいと思っていたとする。電車で行けば130円の距離である。しかし、そのビジネスマンは、なんと初乗り710円もするタクシーに乗って隣駅まで行ったのである。つまり、約5.5倍のお金を払って隣駅まで行ったことになるが、このビジネスマンは間違った決断をしたと言えるのだろうか。
ここまで話せば察しがつくだろうが、もちろんそのビジネスマンは間違った決断をしていない。なぜなら、実はそのビジネスマンは10分後に隣駅の近くで重要な客人と待ち合わせしていたからである。しかも、その隣駅まで行く電車は15分に一本であり、3分前に電車が行ってしまっていたのである。そこで、この人は約5.5倍の金額を払って、“早く到着する”という付加価値を買ったというわけである。
さて、リスティングの話へ戻そう。CPC が高いというのは、上の例で背景を知らずにタクシーを使ったビジネスマンの判断を間違っていると言うのと同じように、ビジネスの最終的なゴールを考えず、目先の投下コストへのやや高い投資を気にしているに過ぎないといえないだろうか。
さらに言えば、この“競合の CPC”と比較する理論は、「同業界であれば全ての会社のコンバージョンレートが一律である」という前提がなければ成り立たない。なぜなら、CPC=成約単価(CPA)×CVR であるので、言うならば CPC は CPA を構成する1要素でしかないのだ。
つまり、CPA が高い場合に、はじめて CPC が高いのではないかという議論がなされるべきなのである。むしろ、CVR が良いキーワードであれば、逆に CPC が低すぎることが問題であることすらある。そうすると、競合の CPC と比較する議論が正しいとは言い切れない場合があるという事実に気づくのではないだろうか。
ただ、あえて言うならば、「CPC は高いままで良いのか?」というと、もちろんそうではない。リスティング運用を行う上で、同じかそれ以上のコンバージョンと CVR を維持しながら、CPA を下げるために、適切に CPC を下げる施策を行っていく必要があるのは間違いないだろう。
上述の理由で競合他社と比較するのはナンセンスではあるが、CPA が高い、または、コンバージョンが取れていないキーワードの CPC が高いことは問題視するべき点であるのは言うまでもない。
執筆:株式会社アイレップ リスティングサービスグループ 村上和也