ヤフー株式会社は2010年7月27日、日本における検索事業において米Googleと提携すると発表した。ヤフー同社ポータルサイト・Yahoo!JAPANで米Googleのアルゴリズムサイト検索技術と検索広告(アドワーズ広告)を採用する。契約期間は2年で、以後、Yahoo!JAPANが断らなければ2年延長される。
グーグルは2001年から2004年にヤフーに検索エンジンのライセンスを提供してきたが、米Yahoo!が独自の検索エンジンを2004年に開発、それを日本でも採用することが決定して、一度は終了した。今回、再びライセンスを供与し、Yahoo!JAPANでGoogleの検索エンジンが採用される。
米国でのYahoo!同様に、検索結果のUIはヤフーがコントロールし、バックエンドをGoogleが担当する。従って、自然検索結果はGoogleと同等になる一方で、外観はヤフー独自のものが採用されることになる。検索"サービス"はヤフーが開発、検索"エンジン"はグーグルが担当、という意味だ。同社の強みである、オークションやショッピング、知恵袋といった独自の編集コンテンツの結果は、Googleの検索結果に統合して表示されるようになる。
一方、グーグルは日本語検索インデックスで使用するコンテンツをYahoo!JAPANから受ける。クロールで行うよりも速くインデックスして検索結果に反映することが可能になる。
検索連動型広告「スポンサードサーチ」の広告配信システムも、米Googleのシステムを採用する。同社によると、広告配信の基礎技術の提供元が変更されるのみで、スポンサードサーチのマーケットプレース(キーワードの入札、価格)はヤフー独自のものとして維持される。名称も「スポンサードサーチ」のままでとなる。つまり、同じアドワーズの広告配信システムながら、グーグルとヤフーは日本市場で競合関係になるということだ。広告主やキーワード入札価格なども、両社で完全に分離されて運用される。興味関心連動型広告「インタレストマッチ」はYahoo!JAPAN独自のものであり、引き続き変更なくサービスが提供される。
検索エンジンおよび検索連動型広告配信サービスの移行時期は未定とのこと。
なぜマイクロソフトではなく、グーグルを選択したか
米Yahoo!と米Microsoftは2009年に検索事業提携を発表し、Yahoo!の検索技術と広告プラットフォームをMicrosoft(BingとMS adCenter)に切り替えることを決定した。合意に基づき、北米地域では今年のホリデーシーズン前の完全移行を目指した移行手続きを開始したほか、全世界でも2012年の完全移行を目指している。欧州や米国をはじめ、グローバル市場においてGoogleは圧倒的な地位を築いており、これを追撃し、競争力を維持するための決断としてYST(Yahoo! Search Technology)の事実上の放棄とBing / adCenter採用だったわけだが、ヤフーがその目の敵であるグーグルと手を組むのは奇妙に見えるかもしれない。
しかしヤフーはソフトバンクが約40%の株式を保有するという資本関係の違いがあり、米国の提携内容に縛られないという事情がある(これは中国・アリババグループも同様)。今回は、ヤフーが検索サービスのバックエンドに採用しているYSTの開発継続が望めないこと、日本市場という限られたマーケット向けに検索技術を開発・運用していくことは難しいことから、新たな検索パートナー探しを模索した。先述の理由によりマイクロソフトを選ぶ必然性はない。そこで日本で候補となる検索パートナーとしてマイクロソフト、グーグルが浮上する。
もちろん韓国最大手のネイバーや中国最大手のバイドゥといった検索エンジンも存在するが、検索ビジネスはアルゴリズムサイト検索技術と検索広告が同一のプラットフォーム上で動作する方が好ましいことから、両社の分離はあり得ない。候補はグーグルとマイクロソフトに限られ、そしてグーグルが選択された。
今回の決定は、ヤフーは約4,200万人の利用者がいる検索サービスを通じて広告収益を上げられればよい、検索そのものにこだわりを持っていないことの反映であろう。利用者を維持し、今後も優れた検索サービスを提供していくのであれば、アルゴリズムサイト検索技術は将来にわたり継続的な技術革新が望め、利用者ニーズに適うサービスを提供できるパートナーが望ましい。すると、十分に実績があり、近年は日本ローカライズ展開も加速しているグーグルが最適と判断したのだろう。
Bingは米国リリースから1年あまり経過しての正式版移行が象徴するように、スピーディな展開が望めないことと、日本語ローカライズという観点からも問題点が少なくない。将来化けるかもしれないBingよりも、現在ベストなグーグルを選ぶのも合理的だ。
マイクロソフトの対応は
2008年6月にGoogleとYahoo!が検索広告事業の提携を発表したものの、米政府の規制当局による、独占禁止法違反に関する懸念から最終的に断念した。日本でヤフーとグーグルが提携すると、市場の90%をGoogle1社が独占することになる。米国同様の動きを見せるだろうが、仮に認められた場合の懸念点は、検索市場の1社寡占化、Googleの影響力が強くなりすぎる点だ。
UPDATE:ヤフーのIR資料を見ると、日本の公正取引委員会に相談しており、問題がない旨を確認しているとのこと
検索マーケティングへの影響は?
まずSEOにおいては、サイト管理者にとってうれしい知らせだろう。
なぜなら、最近のYahoo!検索は、
(1) rel=canonicalを指定した時の処理が適切に行われない
(2) 一般的な正規化処理が正常に行われない
(2) リダイレクト処理時の評価転送に不具合がある
(3) リダイレクト処理そのものの不具合
(4) 全般的にブラックハットな最適化手法に脆弱な検索アルゴリズム技術
(5) 明らかに検索システム側の不具合によると思われる、突然のインデックスからの消滅など、インデックスにかかわる問題(e.g. トップページが突然消滅する)
(6) インデックスが遅い。話題性の高いキーワード検索を行った際に、トピカルなページが表示されるまでの時間がGoogleと比較して数時間単位で遅れている(フレッシュネス(鮮度)の問題)
(7) 一部のキーワードにおいて順位が完全固定化されている
など、他社の検索エンジンではあまり見られない不具合が少なくない。検索技術がGoogleに変わることによって、上記の問題はいずれも解消されるため、しょうもないことに悩む時間も減りそうでうれしい限りだ。
なお、Googleにおいては、巷でいう「Yahoo!SEO対策」で話題に上るような、小手先のリンク構築テクニックの多くは通用しない。手段も選ばず、ブラックハット手法を中心に展開してきた一部のSEO業者にとってはつらいニュースかもしれない。
なお、今回の発表を見る限り、関連検索ワードやキーワード入力補助関連はYahoo!JAPANが開発を継続するように読める。つまり、これらをターゲットとした一部悪質業者によるスパム広告商品は消滅しないかもしれない。
Yahoo!検索プラグインの今後は?
2008年12月に日本展開が発表された、Yahoo!検索プラグイン。今年春には一般開放された同サービスだが、バックエンド技術が変更されることで今後の展開は不透明だ。
グーグルは検索プラグインと同様に、検索結果にリッチな詳細情報を表示する「リッチスニペット」という機能を正式に提供している。ヤフー同様、マイクロデータやRDFなど、いわゆるセマンティックウェブを活用した検索サービスだ。機能的にも検索プラグインと比べて劣る面もないばかりか、「検索アプリ」と呼ばれるプラグイン開発が不要な点、ユーザにそのプラグインをインストールしてもらう必要がない点においてリッチスニペットの方が仕様的にうれしい面もある。
以上の点から、検索結果に優れた詳細情報を表示する機能自体は残っても、それはリッチスニペットに置き換わる可能性が高いのではないだろうか(UPDATE:と書いてみたものの、外観をヤフーが管理するので、純粋にオーガニック検索のデータはGoogleから提供受けて、そこに検索プラグインを被せるという可能性もあるかもしれない。この点はわからない)。
ちなみに米国でもBingとの間で同様の問題が発生している。提携発表直後に、Microsoft・シニアバイスプレジデントのYusuf Mehdi氏が、Yahoo! SearchMonkey(米国名称)を取り入れる意向を発表したものの、未だに正式決定はなされていない。
モバイル検索エンジンの今後
今回のグーグルとの提携範囲は「ウェブ、画像、動画、モバイル」4領域の検索エンジンだ。したがって、Yahoo!モバイル検索のエンジンもグーグルにリプレースされる公算。デスクトップPC同様に、バックエンド技術はGoogleを採用するが、UIを含めたサービスはYahoo!がコントロールすることになるのだろう。
検索利用者に変化はあるか?
Yahoo!JAPANとGoogleが同じ検索エンジンを採用することで、どちらを利用しても同じ検索結果が得られるように思える。ならば、普段はYahoo!JAPANを使うけれど検索の時だけはGoogleを使うようなユーザは、これを契機にYahoo!JAPANに流れる可能性もあるのか。
しかし、提携内容やYahoo!JAPANの発表資料、それらから推測される検索サービスの形成を考慮すると、利用者に特段の変化はないだろうと予想する(CNET JAPAN のサーチエンジン情報館も参考に)。
理由は次の2点。
(1) 同じ検索技術を利用しても、同じ検索体験ができるわけではない
BIGLOBEサーチやgooは、Googleの検索エンジンを利用している。では、BIGLOBEサーチで検索して、Googleと同じ信頼感、関連性、体験ができるかというと、NOだ。おなじみのロゴがなく、レイアウトも、文字も、形式も異なる検索エンジンは、やはりGoogleであり、Googleではないのだ。
今回のYahoo!とGoogleの提携内容は、Yahoo!が独自コンテンツをGoogle自然検索に差し込む、検索体験にかかわるUIはYahoo!がコントロールするということから、今日、Googleを気に入って利用しているユーザが、異なるブランドで検索をして、今までどおりの体験を得られるかというと、疑問だ。
時折、海外で行われている検索エンジンのブラインド・テスト(検索ロゴを隠して自然検索結果だけを見せて検索品質や満足度を問う調査)が示しているように、検索結果が気に入るのは、そのブランドが表示された検索結果画面であるから、関連性とはきわめて主観的な評価である、という点が多分に影響している。よって、ブランド・サイトが異なる以上、Googleユーザは今まで通りGoogleを使い続けるであろう。 GoogleロゴがでないGoogleは、Googleではない。
(2) 同じ検索技術を利用しながらも、自然検索結果は異なる(可能性が高い)
Googleの検索パートナーの検索結果は、Google本家のサイトと検索結果が異なる。たとえば、米国であればGoogleとAOL Search は、微妙に異なる検索結果が表示される。日本であればgooやBIGLOBEサーチが該当する。。特にユニバーサル検索や、QDFによる検索結果のフレッシュネスの調整が行われていないため、話題性のあるキーワードでは検索結果が顕著に異なる場合もある。さらに、サイトリンクが表示されない、インデント表示の仕様が違う、リッチスニペット未対応、検索ツールがない、パーソナライズ検索が無効、ソーシャル検索もない、などなど、こうした細かな仕様の違いの積み重ねの結果、自然検索結果は「本家」と検索パートナーで変わってしまうのだ。
さて、問題は今回のYahoo!JAPANへのGoogle検索エンジン提供が、Googleのどこまでの検索結果セットを含むかが。これは公式発表資料を見ても、インタビューを見てもまったく言及されていないので真実は切り替えが始まってみないとわからない。
ただし、過去のGoogleの検索事業提携の事例を見る限り、Googleとまったく同一の検索結果がセットが提供されたことはないという事実はない。したがって、今回も「ウェブ、画像、動画の自然検索データ」が供給された上で、Yahoo!JAPANの数々のカスタマイズが施される結果、Googleとは実質的に異なる検索結果のセットが表示される可能性は高い。
結局のところ、(Yahoo!JAPANが主張するように)GoogleとYahoo!JAPANは同じ技術をベースにしながらも、独自性の強い、異なる検索サービスが並存することになる。このように、機能的にも異なるのであれば、(Yahoo!JAPAN検索ユーザがGoogleに流れないことはおいておいて)Google検索ユーザがYahoo!にこれを契機として流れる、とはいえないであろう。結局、大多数のユーザにとって影響がないという結論になりそうだ。
※ この記事は随時更新されます
公式発表 Yahoo! JAPAN のより良い検索と広告サービスのために
http://googlejapan.blogspot.com/2010/07/yahoo-japan.html
よくあるご質問: Yahoo! JAPANの検索サービスにおけるグーグルの検索エンジンと検索連動型広告配信システムの採用、ならびにYahoo! JAPANからグーグルへのデータ提供について (2010/7/27)
http://i.yimg.jp/images/docs/ir/release/2010/jp20100727_2.pdf
Yahoo! JAPAN の検索サービスにおけるグーグルの検索エンジンと検索連動型広告配信システムの採用、ならびにYahoo! JAPAN からグーグルへのデータ提供について (2010/7/27)
http://i.yimg.jp/images/docs/ir/release/2010/jp20100727.pdf
検索連動型広告「スポンサードサーチ」強化のための広告配信システム変更について
http://blogs.yahoo.co.jp/listing_ads/16807614.html
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