SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

Web制作会社はSEO会社からの提案をどう扱えば良いのか

昨日、「Web制作会社の言うSEOは、顧客が望むSEOではないかもしれない」という記事を公開しましたが、今日は Web制作会社の立場から考えてみましょう。お客様とSEO会社、そしてWeb制作会社の3者が一緒にSEOを推進していくケースにおいて、Web制作会社は SEO会社が時折提案してくるだろう無理難題をどのように処理していくのかを考えます。

※ 以下、顧客,SEO会社,Web制作会社の三者でSEOのプロジェクトを進めていく場合を想定

顧客にとって何がベストかを考える

前回の記事で「知ったかぶりのSEO担当者」が面倒くさいと書きましたが、こういうタイプの人は大抵、自分の意見を押し通す、あるいはプライドを守ること自体が目的化していて、顧客のために最善のことを行おうという姿勢が見えないのです。だから大前提として、そのプロジェクトに参加するWeb制作会社もSEO会社も、その顧客のビジネスの目的にあわせて、ベストな施策を一緒に考えましょうという意識を持たなければ結局上手くいかないですよね、という前置きをした上で本題に入ります。

Web制作会社も、SEO会社も、顧客の方を向いて議論するという意識がないと以下の話は全く意味がないことをあらかじめお断りしておきます。

原則1:SEOの課題を解決する方法は、たくさんある(かもしれない)

仮にみなさんが東京都内にいたとしましょう。これから大阪に向かいます。どうやって大阪まで移動しますか?飛行機、新幹線、バス、車、バイク、自転車、徒歩、海を泳ぐ、瞬間移動、etc... いろいろな移動手段があります。どの手段を用いても、移動コストや手間、実現可能性は異なれど、大阪に到着するという目標自体は達成できますね。

SEO も同じです。検索性における課題を解決するための方法は1つとは限りません。たとえば「キーワード○○○のファインダビリティを改善する」という目標を達成するための改善施策アプローチは5つ存在するかもしれません。それぞれ具体的な手法、改善対象範囲、完了までの時間、コストは違いますが、いずれの方法を選んでも、最終的な課題解決を達成できることがあります。

ところでSEO会社はこうした場合、(仮に5つの選択肢があったとして)5つの選択肢をすべて提示することはあまりしないと思います。私ならば、(相手によりますが原則)一番ベストな施策を1つ提示しておいて、それは難しいと言われたら詳しく社内事情を伺った上で次善策を提示します。それまたダメなら次を~といった具合に、会議でお話をしながら、その会社の事情を理解していきます。全貌がわかってきたら、次回の会議からは「そのお客様にとって一番実現可能性が高そうな施策」を考えて(でもそれがダメだった時のための次善策も考えつつ・・・)1つ提示します。最初に1つしか出さないのは、複数出したところで「どれがお勧め?」とお答え頂くことが多いからです。

ここでは「SEO会社がある改善施策を提示してきても、実は『それ以外の実現可能な代替手段があるかもしれない』」という点が重要です。

原則2:SEOの課題を解決する方法は、1つだけの場合もある

ある検索エンジン対策上の課題を解決するための方法が、たった1つしか存在しない、それを実装しない限り解決できないという事柄もあることもまた事実です。

これは特に致命的な課題を抱えているケース、例えば動的URLの設計に問題がありクローラビリティ(googlebot のサイト内回遊性)が悪い問題を解決するためには、XMLサイトマップやRSSフィード、Ping など更新通知を伝える方法は数あれど、結局のところ動的URLの生成方法そのものに手を加えない限り根本的な解決にはならない場合。あるいは、サイトのトピカリティ(※ トピック、テーマ)と直接的にかかわるテキストの大半がクロールできない仕様になっており、どこにテキストを埋め込んでもデザイン性が大きく損なわれるけれども検索性を改善するためにはテキストを記述する方法を模索する以外にない場合。こうした検索エンジンのクローラビリティやアクセシビリティ(※ コンピュータによるコンテンツの理解・解釈のしやすさ)に直接影響する問題を解決するためには、実質的に選択肢が1つしかない場合もあります。

原則1で、改善施策の代替アプローチが存在するかもしれないと書きましたが、一方で、「改善するための方法は1つしかない、それが実現できないならばSEOをあきらめるしかない」場合が存在することもまた事実です。言い換えるなら、もしもサイトの根幹にかかわる開発に新たに取り組む時には、事前にSEO的な観点のレビューをしてもらった方が、あとになって無駄な作業を受けるリスクを減らすことにもつながります。

SEO会社が提案してきた改善施策を議論する

Web制作会社の担当者の立場だと、SEO関連の業務で「なんでこんな改修しなくちゃいけないんだよ」「SEOのためとはいえ、これ作業するの時間かかりすぎるよ」「実質的にゼロから作り直しじゃないか」という感情を抱かずにはいられない場面もきっとあるはずです。

こうした場合、まずSEO会社に「改善施策それぞれの重要度(優先度)をつけてもらうようお願いする」ことです。数多くの改善ポイントが提示された場合、検索エンジンへの影響度が高いものもあれば低いものもあるはずなので、作業の優先度と、それぞれの影響度合い※(高/中/低くらいならまともなSEO会社は出すはず)を出してもらいます。

※ SEOは「小さな改善施策の積み重ね」でもあるので、1つ1つの施策自体は効果がないけれども、それらが組み合わさることでサイト全体に波及する=>検索流入数増加に貢献するという側面があることも事実。ただ、作業する立場にたてば一度に全項目を修正することも難しいはずだから、優先順位を求めて良いし、求めるべき。

次に、項目を精査して「作業に時間を要するもの」があったら、その施策の目的と背景について尋ねるとともに、同じことを実現するための代替手段の有無を尋ねると良いでしょう。

(これは私もそうですしきっと多くの方はそうしていると思うのですが)SEO担当者は、いろいろな選択肢のなかから、作業工数や改修コストを無視して、理論上もっとも大きな成果を生み出せるであろう改善施策を提示するものです。つまり、実際の作業工数を(意図的に)無視して提示することは実際よくあります。なぜなら、経営層が十分にSEOを理解している方々で、成果最大化のためには力業で実現してくれることもありますし、あるいは、特に会社固有の特別な事情を理解していない段階においては選定基準がありませんから、むしろ最初は「ちょっと無理難題かな」と思いつつも提示した上でお客様や Web制作会社と話し合えば妥協点も見えてきますし、その過程で特別な事情も理解できるからです。

以上のような事情がありますから、Web制作会社側の立場であれば、どう考えてもコストかかりすぎるだろうと思ったら「これは代替手段がないでしょうか?」と絶対に聞くべきです。作業時間、改修費用、得られる成果のバランスを見て、一番良い(顧客が許容できるもの)を一緒に考えていくのが三者にとって幸せに違いありません。

ただ問題が2つあります。第1に、原則2で触れた通り、本当に解決策が1つしかないケースが存在すること。第2に、実は選択肢が数多く存在するにもかかわらず、譲歩しないSEO会社があることです。

前者については、説明をきちんと聞いて、妥当性を確認することです。後者については、まぁ、どうしようもないですね。

cf. 顧客が望むSEOの成果と、本質SEOで得られる成果の認識のズレ

おかしな改善施策は却下する

某検索エンジンの存在等さまざまな事情により、日本のSEO業界は長らくサイト内部施策は軽視され、外部リンクの力業のみでSEOを実施するという文化が続いてきました。ここ最近は Google がコンテンツやサイトの評判(レピュテーション)やトピカルオーソリティ(カテゴリごとの権威性評価)をアルゴリズムで計算するようになったことで、廃業するスパムSEO会社もあれば、事業内容を大きく変更する会社も出てきました。とはいえ、アルバイトスタッフとオートメーションツールを用意すれば容易に事業を始められる(スパム)SEOと異なり、普通の(欧米で一般的なコンサルティング型の)SEO事業をゼロから始めて適切な知識やノウハウを蓄積することは簡単ではありません。つまり、現状においては「中途半端に内部施策ノウハウを理解したつもりのSEO会社」が存在することも否定できない事実です。

つまり、「どう考えてもこれ意味ないだろ」的な改善施策が盛り込まれることがあります。Web制作会社側の立場であれば、意味不明な施策が提示されてきたら、背景をよく尋ねることもまた重要です。

COPYRIGHT © 1997-2021 渡辺隆広(わたなべ たかひろ) ALL RIGHTS RESERVED.

お問い合わせ(お仕事の相談、講演依頼など)

SEMリサーチ(www.sem-r.com)に掲載している文章及び図版の無断使用及び転載を禁じます。著作権侵害行為には厳正に対処します。

免責事項:SEMリサーチは、本記事中で触れている企業、商品、サービスの全て(情報)について、有用性、適合性、正確性、安全性、最新性、真実性に関する一切の保証をしておりません。各自の判断でご利用下さい。