SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

SEO業界23年目

大学を卒業した後に生きていくための手段としてSEOの仕事を始めてから2019年7月1日で23年を迎えることになりました。子どもが生まれてから大学卒業して働きはじめるくらいの時間です。先日、米国西海岸で開かれたSEOベテラン勢が集う小規模ミートアップでも最長23年でしたので、世界的に見ても業界歴が最も長い人間の一人だと思います(※ 名前を存じ上げないのですが、24年の人が米国か英国に数名いるはず)。

 

 

正直に言うと、私は現在の、とりわけ日本のSEO業界に辟易しています。なぜなら、私が駆け出しのころお世話になった、米国の二人の専門家から繰り返し教えられたことが次の2つの事だからです。

 

  • SEOは、優れたコンテンツを、必要な人に届けるために行うマーケティングである。つまり優れたコンテンツを持っていることは大前提であり、そのコンテンツが発見されにくい課題を解決するために SEOがあるのだ。

 

  • SEOの仕事をするうえで最も重要なことは、キーワードを理解することだ。自然検索キーワードを参照できるあらゆるデータソースを深く読み解き、理解して、検索利用者の気持ちを理解することだ。

 

上記のSEO大原則は、1999~2000年頃に教えられました。あれ?近年日本でよく聞くような話ですよね?記憶する限り、遅くとも2001年の時点ですでに(まともな)SEO初心者向けコースの大半で上記のことが「最初に学ぶべき事」として盛り込まれています。

 

2019年を迎えて「SEOはコンテンツが重要なんです、これからはコンテンツSEOですよ」「検索意図を読み解きましょう」といった営業文句を耳にしても、正直20年以上当たり前のようにそれを実践して、普段の社内外研修でも言及してきた立場から言うと○○○○○○(自粛)です。外部リンクだけでどうにかなった時代が日本は長かったという背景もあるとはいえ、がっかりです。

 

交流する人と場所を変えてみた

 

SEOは何年かの周期で同じ話が繰り返されるのですが、私はもう4~5周繰り返している気分です。SEOは飽きました。しかし、私のスキル程度ごとき、まだまた辻神様の足元にも及びません。この神様を乗り越え、前に進む、より高みを目指すためにどうするか考えた結果、3年ほど前から次のように行動を変えてみました。

 

てみじかに言うと、交流する人と場をごっそり変更しました。

 

日本国内のカンファレンス関連の参加をすべて取りやめる

まず、日本国内で開催されるSEO系を含むすべてのカンファレンスへの参加を取りやめました。実質的に単なる同窓会だったり、なれ合い故に仕事の話はしないのは論外で、仕事に関しても同じ顔触れだと同じ視点・同じ価値観の情報ばかりになってしまいがちです。私はもっと多様な人の意見から学びたい。正直これは必要か?と考えた結果、やめました。ついでに業界の人が集まる飲み会なども全部やめました。年に1~2回だけ顔を出すことはあるかもしれません。

 

海外のSEO系カンファレンス参加も取りやめた

海外のカンファレンスは、宿泊費用や参加費(10~30万円)、移動時間も考慮して、そのコストに見合う成果が得られないと判断したものは参加中止としました。その結果、SEO系のカンファレンスは原則的にすべてやめました。今後SMXやPubcon はたとえスピーカーとしても行くことはありません。

 

とりわけSMXというイベントがSEOサイドの人間にとって価値があった理由は次の2つだと考えています。第1に、2000年代において、ウェブマスターがGoogle社員にSEOについて質問ができる事実上唯一の場だったこと。第2に、GoogleがSMX Advanced(毎年シアトルで6月に開催)のキーノートが検索関連の新機能や新サービスの発表の場としても利用されていたこと。

 

現在、この2つの理由はいずれも失われています。2000年代はGoogleがSEO関連の情報発信やウェブマスターとのコミュニケーションに消極的でしたが、現在は方針が転換されています。世界各地でウェブマスターカンファレンスを開催したり、Hangoutで定期的に質問に答える場を用意したり、Twitterで質問したら答えてくれるなど、Googleの努力と貢献により、ずっと手軽に必要な情報を得たり、Google社員と直接会話ができるようになりました(Microsoft Bing もね)。

 

また、ウェブマスターとの窓口役となっていたマット・カッツ氏が退職されたこと、SMX Advanced のキーノートで新発表が行われなくなったこと、そしてカッツ氏退職後の SMX の AMA(Ask Me Anything)セッションは、毎回同じような、しょうもない質問と回答がやり取りされるだけの時間の無駄枠に成り下がってしまったことも、イベントの魅力を失わせることになりました。

 

上記の話はSMXに参加しなくなった理由ですが、他の類似イベントも (1) 全体的にスピーカーが固定化されている、(2) 微妙なスピーカーが増えている、(3) 参加者が多数のイベントほど初心者向けにコンテンツを調整せざるを得ず、上級者にとって物足りない、(4) 検索会社の人や経験豊富なエージェンシーの人が登壇しなくなった等々、いろいろな理由があります。仮に米国の近隣に住んでいたとしても、行かないでしょう。

 

ただし、海外出張の時間を削減したわけではありません。

 

SEOの人間がいないイベントへの参加を増やした

私は検索業界が長すぎるゆえに、さまざまな「当たり前」や「常識」を抱えています。これは前半で述べた「SEOはコンテンツがあることが大前提である」といった具合に、一貫した、普遍的な価値観の構築というポジティブな側面もあれば、その固定化した考えが邪魔する場面もあるでしょう。かつてWeb制作、Flash開発、Web解析、UI/UX設計・診断も並行して仕事していた頃は自然と視野が広がっていたのですが、最近は「SEO病」にかからないための工夫を怠っていました。

 

この自分自身の思考停止を壊して、視野を広げる、考える視点を増やすために、SEOの人間がいない場、異なる価値観や論理で動く人々が集う海外のイベントに積極的に参加するようにしてみました。日本でないのは、業務上の理由で海外滞在の時間が長いこともありますが、偶然知り合いと遭遇する可能性を排除することと、無駄な名刺交換を避ける狙いもあります。

 

小規模のSEOイベントで、スピーカーをやることにした

SMXのようなカンファレンスへの参加は見送る一方で、米国で時折開催されている、小規模なミートアップイベントに、スピーカーとして参加することにしました。参加者の多くがSEOのみならずデジタルマーケティング全般に理解があり、SEOの話をするにしても学べることが沢山ありました。テクニック系の質問をする人は皆無で、画像(カメラ)検索や音声検索、スマートディスプレイといった未来の検索について深く議論ができるのは、日本では決して得られない貴重な機会です。良い意味でマニアな人しかいないので(*辻神様が20体くらい集まって会話しているイメージ)、さまざまな裏話も聞けて本当に勉強になります。同時に「日本人は議論ができない」ということも心底よく理解できました。

 

 

交流する人と場を変更した結果

 

仕事は楽しくなりました。

  • 英語の能力が上がった:ネットワーキング主体のパーティーやイベントにもがんばって飛び込んでいったことで、1年前と比べたら英語力上がりました。非英語圏で講演するために、もう1つ外国語(フィンランド語かスウェーデン語)を学ぼうと計画しています。
  • SEOの限界が明確になった:今日のSEOは、検索(流入)という狭い範囲・視野の仕事だけではどうにもならないことがたくさんあります。それが改めて認識できました。今後、SEOを推進するためには、SEOの勉強に時間を割いてはいけないのでしょう。
  • 課題解決のための引き出しが増えた:改めてUX/UIやCRO (Conversion Rate Optimization)、ビデオマーケティング、ソーシャル、コンテンツ戦略など様々なことを学習しました。物事を観察・分析する視点を増やしたことで、SEOを考えるときに異業界のフレームワークを利用して戦略設計ができるようになりました。ただし、SEO担当者の責任範囲を超えることが多いため、対お客様との業務には活かされていません。
  • 検索キーワードを(あまり)見なくなった:コンテンツマーケティングのフレームワークに習熟してから検索キーワード関連のデータを見なくなりました。もちろん目的によってサーチコンソールのデータやGoogleトレンドは参照しますが、コンテンツデザイン(企画・制作など)時はまず参照しません。キーワードというのは「検索したとき」の行動の一部が可視化されているだけで、検索しない行動は知ることができません。キーワードはユーザー像の一部を解き明かすのに役立ちますが、万能ではありません。SEOという狭い視野で最適化をしても限界がある今日において、検索してくる -- しかも Google とは限らない -- ユーザーの意図を”中心に”コンテンツデザインをすることにどれだけの意味があるのか考えた結果、検索の存在は意識するけれどキーワードは見なくなりました。仕事に支障はありません。自分の常識を壊せて良かったです。
  • SEO関係のニュースを見なくなった:まったく見ないわけではありませんが、なんというか「もうわかった」という感じです。Google社員が何を言ったかなんて最早どうでもいいじゃないですか。SEMリサーチを稀に更新するのは、暇つぶしと自分のメモ代わりです。

 

これから、何するの?

私は「検索されやすいウェブが増えれば、検索はもっと便利になる」という理念でこの仕事をはじめました。日本でSEOという言葉が認知されるよりずっと前から、正しくSEOを行うための啓蒙活動を行ってきたつもりです。時折、各方面からさまざまな政治的圧力を受けながらも、間違っていることは「間違っている」と指摘してきたつもりですし(*最近は、その後の広報対応が面倒くさくなったので止めました)、何かのアルゴリズムや仕様変更があるたびに無駄に不安を煽るのではなく、どうでもいいことは「どうでもいい」とはっきり伝えてきたつもりです。

 

より多くの人に正しい知識、適切な SEO の運用方法を学んでもらいたいという願いは変わりません。今後も、他の誰かではなく、私がやらなければいけない仕事をしていくつもりです。SEO は飽きていますが、もうちょっとだけ続きます。

 

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