SEMリサーチ

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SEO業務における「検索キーワード調査」関連のタスクは消滅する運命にあるのか

要約

  • SEOベテラン勢で最近議論している「検索キーワード調査関連のタスク」は消滅するかという議論を紹介する

  • 検索キーワード調査を行う必要性となる前提が崩れ去っているいま、ここに時間を費やすことは時間の無駄ではないかという主張

  • SEOは本格的に広がって20年あまりの月日が経過した。実はこの20年で意味を失ったタスクは他にも存在するかもしれない

次の5~10年で消滅するSEO関連タスクは何か

私は毎年数度、昔からSEOの仕事をしている海外の知人数人とインターネット検索の未来についてカジュアルに議論する場を設けている。この面子は皆、1990年代からSEOの仕事をしているので相応に業界を熟知しているつもりだ。この議論の場で最近話題になっているのが「次の5~10年で消滅するSEOの業務タスクは何か」という話だ。

たとえば2000年代は外部リンクの分析やその構築支援はSEOの業務におけるコアタスクだったが、2011年以後(Googleがパンダアップデートやペンギンアップデートを発表した時期)以後は縮小・消滅している。消滅は言い過ぎだが、単なるリンクではなくウェブのプレゼンス、評判構築にシフトしていることは皆様ご存じの通りだ。ウェブ技術の進化により「FlashやSilverlightの検索エンジン対策」といった知識も不要になった。

こういった流れを踏まえて、いま私(たち)が注目しているのは「検索キーワード調査」とそれの支援ツール技術市場の行方だ。

なぜ検索キーワード調査関連の業務や市場が縮小すると考えるのか

本記事では主な論点について概要をお伝えする(意外と文章が長いのだが、これでも私としては”概要”だ)。詳細は、2020年内に予定しているイベントで話すほか、SEMリサーチPlusにも詳細記事を掲載しているので興味がある方はそちらに顔を出していただきたい。

前提:なぜ検索キーワード調査があったのか

そもそもの話として、なぜSEOの仕事のなかで検索利用者が実際に使用している検索キーワードを分析する必要があったのか整理する。

前提1-1:完全一致の必要性

もともと希望する検索クエリで検索結果上位に表示するためには、クエリと完全一致する文字列をウェブページ内に記述する必要があった。例えば「中華料理の作り方」という検索クエリで上位に表示したいのであれば、「中華料理の方法」ではなく「うまい中華の料理法」でもなく、「中華料理の作り方」とそのまま記述する必要があったわけだ。引越なら「引越」「引っ越し」「引越し」は表記揺れで区別されるので全てタイトル要素に記述していた(1997~2005年頃)。こうした事情から、検索利用者が実際にどんな検索クエリを、どの形式で入力しているかを把握するために、Web解析の検索クエリ(リファラキーワード)から文字列データを観察する必要があった。2010年代は Googleがそのリファラ情報を渡さなくなったので代替として広告主向けに提供されているキーワードデータが活用されているに過ぎない。

前提1-2:2000年代のウェブトラフィック

検索エンジンとしてGoogleが台頭したこと、そして24時間常時接続可能なブロードバンド回線の普及が始まったのが2000年代。この時になると、皆が欲しい情報をネットで探すために検索エンジンを日常的に利用するようになった(だから2000年頃にSEOという用語が確立し、普及を始めたわけだ)。この時代はまだ、インターネット検索が最も重要な情報アクセスプラットフォームであり、「検索で探せなければ存在しないのも同じ」と言われ始めた頃だ。したがってそこからの集客を最大化することはマーケティング施策として理に適っているし、その成果を最大化するためにはキーワード分析も相応に重要になってくる。ちなみに2020年現在、日本で「コンテンツSEO」(笑)*1と称して行われている施策はこの2000年代に確立した業務プロセスがそのまま使われている。実はこのプロセスを2020年現在に適用すると重大な不都合があるのだが、それは別の機会に解説する。

 

検索キーワード調査関連タスクが消滅する可能性があると考える3つの理由

相対的に本業務に費やす時間が大きく減少するのか、あるいはほぼ消滅の運命にあるのかは正直わからない。私も、知人もそこまでは予測できない。ただ、さまざまな環境要因を考えると、少なくとも優先的に時間を費やすべきではないという点では間違いない。理由は次の通りだ。本記事では3点を紹介する。

 

  1. 検索キーワードの完全一致が必要不可欠ではなくなった
    Googleの検索クエリプロセスに関連する技術革新(BERT、ハミングバードなど)により、必ずしも検索利用者が入力した文字列・順序通りの言葉をウェブページに記述する必要がなくなった。口語や自然文、曖昧な語句を用いても現在のGoogleは適切なウェブページを検索結果として返せるようになっている。


  2. 検索意図の定義が変わった

    本論は以下の記事を参照頂きたい。検索サービスの役割が当時と変わった結果(当時は検索クエリに適合する情報提示機能、一方、今日はタスク完了支援)、検索意図という言葉の定義が2000年代と2020年現在では違うのだ。検索キーワードを読み解くのではなく、その先にある現実の利用者の体験を紐解くことにフォーカスすべき。ところが、ここにフォーカスするならなぜキーワードを分析しなくちゃならないのだ?という疑問と直面することになる。

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  3. コンテンツはさまざまな文脈でさまざまなチャネルから閲覧されるようになった

    私たちはインターネットで情報閲覧する時、本当にいつもGoogleを使っているのだろうか?買い物なら楽天市場や Amazon.co.jp、自然災害や電車の遅延情報やニュース速報に関する情報なら Twitter、ファッションや家具ならInstagramやPinterest、暇つぶしやゲーム攻略なら YouTube、あるいは Facebook や Twitter のタイムラインに流れてくる情報に興味を持つなど、必ずしも「検索」を使って情報アクセスしているわけでもなければGoogleに完全依存しているわけでもない。ここに場所や文脈が加わるとデバイスはPCかもしれないしスマホかもしれないし、テレビかもしれない。私たちの情報アクセスチャネルは多様なのだ。

    その変化を踏まえてコンテンツ戦略を考える時、果たして「キーワード調査をして~」というステップは本当に正しいのだろうか?それは現実に目を背けて、Googleに最適化することが正しいと盲信していないだろうか?むしろ、オーディエンスをよく観察して、彼/彼女らに優れた体験を提供するために何をすべきか考えたら、少なくともキーワード調査から始めるというプロセスはむしろ排除した方が正しいだろう。特に今日のGoogleはSEO担当者の責任範囲では対処不能なシグナルをランキング決定に活用しているため、デジタルマーケティング全体施策のなかでSEOに間接的なプラス効果を及ぼすような設計が求められる。そういった全体の流れも考えたら、あらためて時間を割かなければならない業務ではないだろう。

この仕事は何のためにしているのか見直す時期

取り扱う商材やメディア特性によってもちろん例外があることは重々承知している。たとえば暗黙知の情報や、病気・悩みなど人間自身が感じた不愉快・不満をそのまま言語化される傾向がある領域では検索キーワード情報は重要かもしれない(※ もっとも、それを踏まえても広告主向けのキーワードデータを活用するのは注意が必要だが)。インターネット検索というものに全く理解のない方は、最低限の知識を備える意味でむしろ検索キーワード情報を見てもらったほうがいいということも当然理解している。インターネットで英会話を学習したいと考えている人が「オンライン英会話」という言葉を使うとか、ある地域の病院を探す時には地域名と掛け合わせをするといった程度の知識がないなら絶対キーワードデータは見たほうがいい。

この話はSEOのベテラン勢(この会話に参加していた人は皆、1990年代からSEOを仕事にしている人たち)で知り尽くしている故の見立ての過ちがあるかもしれないことも認識している。それでも、長く業界にいて、色々理解している私は中長期的な見通してとしてこのように考えているという1つの意見として捉えていただければと考えている。

実際、私はいま推進しているとある仕事のコンテンツ戦略・制作・運用案件において、検索キーワード調査・分析に関連するすべての業務を現場から排除している(その一方で関係者には検索流入は維持できることは説明している)。それで仕事が進むイメージが完璧にできているし問題も起きていない。

今回は検索キーワード調査を例にあげたが、実は今日のSEOの個々のタスクのなかには「これ、本当に必要なの?」というものが結構ある。昔はベストプラクティスとして推奨されてきた故に現在も皆当たり前のように行っているが、いや今日はもういらないんじゃないのというものが日常業務に潜んでいたりする。別の機会に触れるが検索順位レポートやその分析も事業会社にとって必要かと問われると、疑問がある。

私は最近「なんとなくSEOっぽい仕事に酔っていないだろうか、本当に必要なのだろうか」ということを自問自答している。自分が働く業界の環境が変化しているのに自分の業務が変わっていないのであれば、本質だから変わらないのか、思考停止して惰性でやっているのか見極める必要がある。仕事をやっている気分になっているだけなら、変えた方が良い。

1990年代後半に今日のSEOのコンセプトが生まれ、その言葉が確立したのが2000年。20年も月日が経過すれば、個々のタスクの意味も変わってくる。今一度、ご自身の業務の意味を考えてみてはどうだろうか。

※ 本記事は検索キーワード調査を巡る議論の概要です。詳細は、SEMリサーチPlusに掲載しています。https://plus.sem-r.com/

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*1:コンテンツSEOという言葉に(笑)つけてを半ばバカにして書いているが、実際、まともなSEOの専門家でこんな言葉を使う人も、この言葉が意味するコンセプトで仕事している人も、少なくとも私の周りや知人には一人もいない。「コンテンツを適切な人に、適切なタイミングで届ける手段」がSEOなのだから、有益なコンテンツを持っていることはSEOの大前提。そこはSEOの基本中の基本として最初に学ぶはず。厳しい言い方をするが「コンテンツSEO」を主張する人は、私はいままでスパムをしていました、コンテンツが重要だと考えていませんでしたと大声で叫んでいると思われていることは知って欲しい。自社の宣伝のためのバズワードとして利用している人がいるかもしれないが、その言葉は単に「コンテンツ」あるいは「SEO」と言い換えても意味が伝わることが大半で、コンテンツを作るだけで順位が上がるという業界に間違った認識を植えつける恐れがある用語は使わない方がいい。

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