SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

特定キーワードで1位を目指して、いったい何がしたいのか?

DIGIFULというデジタルマーケティングをテーマにしたメディアの運営に片足を突っ込んでいるのですが、先日こんな記事を書きました。これは、私の業務時間を削減するため、つまり自分のために記事として書きました。

digiful.irep.co.jp

 

新たに入社した方がSEOのセールス等に携わることがあるわけですが、やはり「1位にできないの?」は定番中の定番の相談になるわけです。あるいは、たまーに会社の偉い人から「〇〇〇でキーワード1位にできないの?」と相談されます。でも、その都度、説明をするのが正直とても面倒くさくなりました。こころのなかでは「もうちょっと勉強してから相談こいよ」と思っています。言いませんけど(書いちゃった)。ともかく、社内にこのトピックをまとめた文書が存在しなかったので、参照用の記事として公開しました。一般公開すれば外部の人にも必要に応じて紹介できますし、私と同じ悩みを抱えている人にも役立つと思ったからです。もし「この項目も(上司の説得用に)追加してくれ」などリクエストがありましたらお気軽にご連絡ください。

前置きはこれくらいにして、「なぜSEOで1位を目指すことが重要ではないのか」補足をしていきます。

データにもとづいて、1位は重要ではない

まず、私はSEOを始めた当初(1997年)は、1位が重要だと考えていました。しかし、サイト運営をしながら検索順位データやWeb解析データを毎日20時間あまり見る仕事を2年ほど続けてから、1位であることにこだわる意味はないことを学びました。

当時は Excite, Infoseek, Lycos, Hole-In-One, Fresheye, goo, Google, NAVER, AlltheWeb, Yahoo! JAPAN, MSNなど多数の検索エンジンが乱立していましたが、同じ順位でも検索エンジンごとの推定クリック率や流入数、検索数は全く違います。同じ検索語句でも、流入元の検索エンジンによってコンバージョン率/数も変わりました。みんなが検索する語句で1位になったからといって売上が増えるわけでもなく、逆に検索数が非常に少ないけれども目的が明確な検索語句であればコンバージョンに直結する傾向があることも学びました。検索順位が低くても11位や21位はむしろクリック率が上がることもありました。

結局、特定のキーワードで1位にすることではなく、取り扱う商材を探しているユーザーに、適切なタイミングで適切なコンテンツを提供し続けることが自社にとっての検索チャネルの有用性を高め、ビジネスにプラスに働くことを理解しました。話は脱線しますが、この後、私に必要なのはマーケティングの知識だという結論にたどり着いたので、その後、大学院(MBA)に進学することになります。

というわけで、「1位にしなくていいじゃないですか」というのは別にいい加減なことを言っているわけではありません。その検索語句で1位にする技術がないからという理由でもなく、本当に、成果の観点で意味がないか、コストパフォーマンスが悪いからやめたほうがいいんじゃないですかとアドバイスしているのです。

合理的な根拠もなく、1位に固執していないか

もちろん特定のケースにおいて、データに基づいて2位ではなく1位にしたほうが明らかにパフォーマンスが良いケースがあることは承知しています。たとえば競合他社と比較して圧倒的にブランド力のある企業のケースだと、1位と2位でのクリック率が無視できないレベルで差が生じていることがあります。

この場合、その2位を1位にするのに発生する費用と時間と、サイト全体の検索流入量を高める選択肢、あるいはコンバージョン率/数そのものを改善する他の施策の選択肢と比べた場合に、どれが最適解であるか検討することになります。その結果として1位にこだわるというビジネス的な判断をするのであれば私は理解します。しかし経験上、ビジネス合理性を考えてその結論に至っているケースが記憶にありません。あっても片手で数えられる程度でしょう。

むしろ大多数は、何の合理的根拠もなければ、もはや宗教的な理由で1位にこだわっていることのほうが多いのではないでしょうか。たとえば「社長(あるいは上司)から1位にしろという至上命題が出たので相談しました」という企業担当者は少なくありません。しかし、このパターンでまともな理由を聞けた経験はありません。現場の担当者には同情します。

「うちは〇〇業界で最大手だ、でもキーワード〇〇で1位にないのはけしからん」という理由でSEOに取り組むのもSEO業界でよくある話です。そのキーワードがWebサイトと関連性が高く妥当なものであればともかく、このケースも大抵、(検索利用者からみて)関連性が高いとは言えない語句であることが多いです。SEOで1位にしたいというのは、本来、Webサイトでの売上やコンバージョンを改善したいなどビジネス目標を達成するための手段であるはずです。しかし「SEO 1位」にこだわる人は、手段と目的をはき違えているのではないでしょうか。

なお、解決策がないので元記事で一切触れませんでしたが、「宗教的な理由」はどうしようもないと思います。たとえば、特定のSEO専門家の影響を強く受けていて、1位にしなければならないケースです。あまり詳細は書きませんが、Google Analytics や GSC 導入不可などの制限があるそうで、わかる人にはわかる例の社団法人です。

SEOの問題ではなくカウンセリングの話なので、相談が来てもお断りしています。

検索結果の1位とは、どこに表示されることを想定しているのか

検索エンジンは1990年代後半から2000年前半まで、「青い10本のリンク」を検索結果に表示していました。つまり検索あたり、10本のタイトル-リンク-説明文を羅列していただけです。この時代の1位とは、間違いなく検索結果画面の最上部、above the fold(ファーストビュー)の一番視線が集まる場所でした。この時代のSEO 1位なら、話はまだ分かります。

しかしGoogleがユニバーサル検索を導入して検索結果にテキストリンクだけでなく、ローカル検索、動画、画像など関連性にあわせて複合的に異なるフォーマットの情報が表示されるようになりました。2020年現在はスマホ検索が主流であり、ファーストビューはもちろんセカンドビュー(2画面目)までダイレクトアンサーなどのGoogle提供枠と広告枠で占められるようなこともある状況です。果たして「オーガニック1位」は何の意味を持つのか本当に理解しているのでしょうか。同じ自然検索1位であっても、検索結果の表示レイアウトによって流入トラフィックは大きく変化します。

検索サービスの機能や役割の変化にあわせて、SEOのアプローチもアップデートしなければならない

こうした検索サービスの変化も念頭におけば、SEOのストラテジーも特定の検索語句で上位に表示するのではなく、リーチしたいオーディエンスの行動分析にフォーカスして、彼らが情報を有益と感じるタイミングと順序を考えたり、彼らの意思決定を後押しするタイミングで適切に検索チャネルを通じて接触・アプローチすることを検討したほうが適切でしょう。

後日、別記事でいくつか指摘していく予定ですが、私は現在の(国内外含めて)SEOの悪いところは、検索エンジンが変化しているにもかかわらず、古い時代のフレームワークを前提にした施策がいつまでたってもアップデートされないことです。この「検索順位1位」も、いい加減に捨てるべき発想でしょう。もちろん順位が1位ですというのはSEOに疎い経営陣に伝える成果として(良くも悪くも)わかりやすい指標ですから、そういったインハウスSEO特有の事情のためのレポート方法として残すならともかく、SEO施策を実行する本人自体はKPIに1位をいれるべきか、本当にその意味があるのかよく考えなければなりません。

 

 

 

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