SEOの戦略方針の決定や目標の定量化を行う過程において、ターゲットとするキーワードそのものの難易度や競合各社のSEO実施状況を分析する「競合分析」を行う必要がある。競合各社のSEOへの予算の投下状況や戦略ポートフォリオ、マーケット固有の特性などの各種変数によって、自らが実施しなければいけないSEOのプランニングは変わるからだ。例えば同じ携帯事業者だからといって、NTTドコモとKDDI、ソフトバンクモバイルにとっての最適な SEOは全く異なるであろう。
さて、その競合分析であるが、幸いにもバックリンクやインデックス数、PageRankや掲載順位からホストIPといった、各種情報を簡単に取得できる無料ツールが出回っていることもあるおかげか、専門会社に頼まなくともそれなりに分析することは可能だ。しかしながら、あくまで取得したものは情報に過ぎず、その情報の読み方を誤ってしまえば正しい競合分析は行えない。そこで今回は、私の過去の経験から、ありがちな3つのポイントを「競合分析の落とし穴」として説明したい。
1. バックリンク数の大小やPageRankの高さは関係ない
検索エンジンは単純にWebページの被リンクの多寡でランキングを決めないし、アンカーテキストでも決めない。もっともっと複雑な要因を組み合わせて計算をしている。従ってバックリンク数の大小だけで自らと競合の差を判断しても仕方がないし、アンカーテキストのマッチ度だけ見ても仕方がない。
たとえばフィンランドの気温がマイナス30度、日本の気温がマイナス5度という数値を表していた時、単純に数字でみれば6倍の差があるが、だからといって実際の体感温度が6倍になるわけではない。これはほかの要因が影響しているからだ。同じように単一の数値を基準に競合サイトと自社を比較しても真の意味を読み取ることはできない。
無料ツールを通じて取得してくる表面的な数値情報を見るのではなく、複数のデータを組み合わせて、全体として競合と自社のサイトの傾向の差はどこにあるのかという定性的な観点からの分析が大事であることを覚えておこう。
2. KEIはキーワード有効性の目安にならない
日本では未だにKEI(キーワード有効性指標)と呼ばれる、米国で7年以上前に流行した指標を用いて議論しているのを時折見かける。KEIとはキーワードの人気度(=検索回数)をP、競合度(検索ヒット数)をCとした時、KEI = (P^2/C)の計算式で求められる。つまり人気度が高いほどKEIは高く、競合度が高いほどKEIは低くなるのだが、残念ながら有効性判断の指標としては有効とはいい難い。
理由は次の通り。KEIは、調査対象キーワードで検索した時にヒットする「すべてのページが等しく検索エンジン対策を考慮し、実行している」ことを前提としている。例えば、「検索エンジン最適化」とGoogleで検索すると184万件がヒットするが(2008年3月2日時点)、KEIはこの総数 184万件がすべて同程度のSEOを実施しているという前提に立っている。
しかし現実にすべてのページがSEOをしていることはありえないし、本当に問題なのは上位20位以内のSEOの対策具合であってそれ以下は関係がない。長距離マラソンに参加者が何人いようと上位入賞するために考慮しなければいけないのは先頭集団の実力であるように、SEOも考慮すべきは上位集団の状況であって全体ではない。
従って、全体が同程度の対策を実行しているという前提にたった計算を行うKEIがみちびきだす数字は有効性の判断にはならない。
3. 順位の差だけで判断しない
あるキーワードにおいて競合サイトと自社サイトの差がわずか2位の差であっても、CPC換算した時のコストやトラフィック量、コンバージョン貢献(直接コンバージョンを発生させた検索キーワードに貢献しているキーワードのこと)の価値がまったく異なる場合がある。これは順位指標を軸にした特定キーワードへのリンク集中型戦略をとった企業と、サイト全体の検索エンジンからの見つけやすさ(ビジビリティ、ファインダビリティ)を狙ったヘッドからテールまでのキーワードを包括的に抑える戦略をとる企業を比較した場合に観察されることがある。検索順位、ランキングというのはあくまでSEOのベンチマークの 1指標に過ぎず、マーケティング目標実現の手段としてのSEOのスコアカード作成の絶対的指標ではない。CPCやLTV、CVR(コンバージョン)、トラフィックなどの予測を立て、自社と競合との間で顧客獲得・誘導戦略においてどの程度の差があるのか?という観点から分析を試みる必要がある。
執筆:株式会社アイレップ 取締役 SEM総合研究所所長 渡辺隆広