SEMリサーチ

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Google 検索結果を占領する Gift Services 社

ある特定の企業が”ずるい”SEOをすることで検索結果の上位を独占してしまって、同じ商品を取り扱う他の業者が泣いているというお話。New York Timesより。

ネットユーザーがオンラインでギフト購入するときの最も典型的な行動パターンは「検索エンジンにいくつかキーワードを入力して商品を探してそれを取り扱うオンライン小売店で購入する」 - 当然検索結果の上位に掲載されていることが非常に重要になってきます。オンライン消費者の33%は検索結果の1位に表示されているサイトで購入をするのに最も適切なサイトだと信じているという調査結果もあります(Search Engine Guide 2003)。また、70%のユーザーは検索結果の1ページ目しか見ていません(UniSci 2003)。

この「特等席」を確保するためにオンライン小売業者はSEO対策に必死になるわけですが、中にはちょっとずるい手を使う業者もいる、と。New York Times によると、米Gift Services社が gift basket (ギフトバスケット、贈り物の詰め合わせ)関連のキーワード検索時に、検索結果の上位を独占してしまい、今まで上位10位以内に表示されていた他のサイトが全部11位以降(つまり2ページ目以降)に追いやられてしまったというわけです。

具体的には、複数のドメインを使ってサイトを立ち上げ、それぞれに同一の商品を取り扱っているけれどもデザインやコンテンツ(情報)が異なるWebサイトを構築した上で検索エンジンに登録するのです。それぞれのWebサイトは同一のキーワードで最適化を施しておきます。

通常、検索エンジンは任意のキーワードで検索をした時、同一ドメイン内のページが検索結果画面を占拠しないように、1ドメイン下にあるWebページを2つ以上表示しないようにしています(クラスタリング)。しかし、複数ドメインにてWebを運営すればこのクラスタリングによる制約を回避することが可能になり、ある特定企業が運営するWebサイトが上位を独占することができるのです。

企業A社が、domainA.com, domainB.com、domainC.com、domainD.com・・・と複数のドメインを取得し、全てを同一キーワードでSEOすれば、1位から10位まで全部このA社のサイトが占めてしまう。もし同じことを、domainA.com/index1.html、domainA.com/index2.html、domainA.com/index3.html・・・と同一ドメイン下に多数ファイルを設置した上で同一キーワードで最適化を施しても、すべて domainA.com 以下にあるため先述した「クラスタリング」により最も関連性が高いと判断されたページ(URL)2つまでしか表示されない

Gift Services 社の主張としては、

"The most important thing is to ask, do people find what they are looking for?'' Mr. Bowen said. "I believe they do."

ということで、検索キーワードと、Webサイトで提供している情報は合致しているのだから、ユーザーにとって不利益はないだろう、と反論しています。

確かに、例えばアダルトサイトのように全然関係ないキーワードで上位を独占しているわけでもないですし、ユーザーが入力したキーワード - 探し求めている情報 - に合致したページを上位に出しているわけだから問題はないように思えます。ただ、たまたま同社が作った数多くのWebページが上位を独占してしまったわけです。

しかし、Google は次のようなガイドラインを規定しています。

But one of Google's guidelines, posted at its Web sites, says, "Don't create multiple pages, subdomains, or domains with substantially duplicate content." The company warns offenders that they can be removed from the search engine.

本質的に同一のコンテンツを複数ドメインにて運営するな、ということです。Google のこの規定には違反します。

Google の Sergei Brinn 氏はこの問題に対して次のように述べています。

Sergei Brinn, co-founder of Google, said in an interview that programmers would review the situation to determine if the system needed to be tweaked. "We'll look at these examples and say, where did our ranking go wrong here and what can we do to make it better?" Mr. Brinn said. "The fundamental principle is that the sites should not artificially game the system."

"should not artificially game the system" 、日本語でどう表現すればいいのかわからないのですが、そんなニュアンスです(笑)

※※※

SEO に関心がある企業の方の中には「検索結果の1位から10位まで全部自分のサイトで占められればいいのにな」と考えた方がいるのではないでしょうか。また、SEO会社の方なら、クライアントからこういうことを求められたことはあるでしょう(たぶん)。私も過去に何度か企業から「キーワード○○○○で検索した時に自社のサイトで独占したい。どうすればよいか」という相談を持ちかけられたことがあります。果たして、検索キーワードと関連性が高いWebページであるなら、Gift Services 社のような行為は正当化できるのか。

私は、Gift Services 社のように同一キーワード検索時に検索結果を占領することは「ユーザーの利益にはならない」ので検索エンジン会社としてスパムと判断するのは妥当だと考えます。なぜならユーザーは検索時に、ある特定の1つの情報源(ページ)で満足するのではなく、複数の情報源を閲覧し、比較・検討したいことが多々あるからです。特に「取引」あるいは「情報」目的の検索※1※2であれば、なおさらその傾向は高まります。

※1 取引の検索・・・「取引」を目的に行われる検索要求。例えばユーザーが商品やサービスについて「購入」「資料請求」「問い合わせ」など何らかの行動をすることを前提として行っている情報探索

※2 情報の検索・・・ある特定の興味・関心を満たすために情報の取得を目的に行われる検索要求。例えば「おれおれ詐欺グループ」の手口について知りたい、など

例えばある特定の商品について購入を検討している時、複数のオンライン小売業者を見て、価格や送料、FSPの有無、キャッシュバックキャンペーンなど様々な情報を比較・検討して購入意志決定の判断材料にしたいことは多いでしょう。情報目的の検索であれば、ある特定トピックのニュースについて複数の情報ソースを読みたいことは多いでしょう。

ユーザーは検索エンジンを利用する時に、ある情報について自分が持つ知識が不足しているという不満を抱えています。検索エンジンを利用して的確な情報を探し、その情報が妥当であり受け入れられた時点で満足します。ユーザーはこの不満を解消するためには、複数の発信者による異なる視点・見解・文章で記述された情報の中から自分の探し求めていた情報 - つまり満足できる情報を見つけていきます。

このようなユーザーの行動・嗜好パターンを踏まえれば、同一会社・団体が提供するWebページ情報によって検索結果を占領されることは望まれないのです。情報ソースとして複数の選択肢を提供された方が、ユーザーは情報の比較を行う点においてはるかに利便性が高まるのです。

そんなわけで、Google にスパムとみなされても致し方ないかな、と考えます。

[Source]

Retailers Rise in Google Rankings as Rivals Cry Foul [New York Times / November 20, 2003]

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