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ペイドインクルージョンの課金モデルのあり方

米Jupiter Researchが12月に発行したレポート "Paid Inclusion Market Opportunity Assessment" の中で、ペイドインクルージョン(Paid Inclusion)の課金方法のあり方について提言しています。

同レポートは米Jupiter Researchのアナリスト、Niki Scevak氏ペイドインクルージョンが書いたものですが、次のように述べています。

"Paid inclusion programs that currently have a cost-per-click pricing component must eliminate it, as the model has a fundamental and inherent conflict of interest," the report said. For one, it continued, until paid inclusion programs are solely based on a time-based pricing model (i.e., an annual fee per URL), uncertainty and doubt will continue to cloud the industry.

ペイドインクルージョンが何かわからない方がいると思いますので簡単に説明しますと、ペイドインクルージョンは「利用者が一定料金を支払うことで、クローラーが指定されたURLを定期巡回してその都度インデックスに反映させることが保証されるサービス」です。つまり「クローラーが来ないよ」「なかなか更新されない」といった問題を解消するものです(ペイドインクルージョンについて詳しくは次の記事を参照:ペイドインクルージョン

さて、記事の解説をしましょう。といいつつも、このレポートの主張を理解するためには前提としてペイドインクルージョンの基本的な課金モデルと、ペイドインクルージョンの特徴をよく理解しておかないといけませんので、まずそれを説明します。

まずペイドインクルージョンの課金方法についてですが、主に2つに分類されます。それは(1)クリック課金型 と (2)期間購読型 です。。前者の課金モデルは検索結果画面から当該URLがクリックされるたびに料金が請求されるモデルです(オーバーチュアやアドワーズ広告をイメージして下さい)。一方後者は、例えば「1年間5000円」といったように定められた期間に対して一定料金を請求するモデルです。一般的に大規模サイトの場合は前者のクリック課金モデルを、その他の一般サイトは後者の期間購読モデルが一般的です。

現在あるペイドインクルージョンは上記2つのいずれか、または両方を採用している検索エンジンが一般的です。例えば Inktomi はIndex Connect(クリック課金)とSearch Submit(期間購読課金)の2つです。2003年8月から10月までペイドインクルージョンを提供していた NTT-X (goo) も同様に「インデックスコネクト」(クリック課金)と「サーチサブミット」(期間購読課金)でしたね。

次にペイドインクルージョンの特徴です。ポイントは1つ。「ペイドインクルージョンはクローラーが定期的に訪れてインデックスを更新することを保証するサービスであって、任意のキーワード検索時の順位は保証されない」点です。ペイドインクルージョンはあくまで「クローラーに定期的に巡回されインデックス登録されることが保証」されることに対して対価を支払うのであり、それによって表示順位に影響が与えられることはない、です。

ペイドインクルージョンの課金方法は2種類、そして順位保証はされない。この2つをふまえた上でJupiter Researchです。Jupiterが問題にしているのは「ペイドインクルージョン市場が今度も成長していくためには、その課金モデルを考え直さなければならない。つまりクリック課金モデルは問題あり」と主張しているのです。

なぜ問題か。それはペイドインクルージョンは表示順位に一切影響を与えないとする一方で、その課金方法がクリック課金型であれば、「検索エンジン会社は利益を得るためにクリック課金型の登録を利用している企業サイトの順位を優遇している、あるいはそう勘ぐられても仕方ないんじゃない?」というわけです。つまり、クリック課金型の有料登録を利用している企業サイトが本当に一切表示順位を操作されず、その他の無料登録をしているサイトと同じように検索アルゴリズムによって決められているかなんて、怪しくて信用できないじゃないか!といっているわけです。

Jupiter Research の同レポートでは次のように続けていますが、

"Under a cost-per-click model, claims that the rankings of paid inclusion customers are unaffected cannot be believed, as the search index has a clear financial incentive to promote rankings. Currently, paid inclusion programs are sold on the basis of providing publishers with a certainty that content will be crawled at a set frequency over time. Paid inclusion programs should be priced according to this premise as well."

クリック課金型であれば、お金払った方がよさそうだというインセンティブを与えることになるから、「ランキングに影響なし」は一切信用できない、と。

この議論はペイドインクルージョンが始まってから欧米の SEO関連フォーラムで何度も議論されてきた問題です。ペイドインクルージョンを提供しているどの企業も、公には「有料登録と無料登録の違いはクローラーの巡回だけで、任意のキーワード検索時の表示順位はすべてキーワードとの関連性によってのみ決められる」とはいっていても本当はお金払った方が順位あがるんじゃないかと。実際それを検証しようとした人もいるほどで、2003年10月BusinessWeekの調査では、無料登録より有料登録※を利用しているサイトの方が軒並み順位はよかったという結果を発表しています。

※ この調査では、クリック課金/定期購読の区別はない

検索エンジン会社が本当にランキングに一切影響ないというのなら、その課金方法自体が「いかにもお金払った方がよさそうな」ものは避けるべきでしょうね。あるいは、PPC広告モデルに移行した方がよいでしょう。

ちなみにペイドインクルージョンは日本では NTT-X (goo) が 2003年8月から開始したものの、その後検索の日本語処理技術において Google との提携が決まったため 10月にはペイドインクルージョンを停止してしまいました。

[Source]

Outlook: Paid Inclusion Needs to Change its Ways [internet.com]

[参考]

Jupiter: Tough Year Ahead for Paid Inclusion [DMNews]

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