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これだけは知っておきたい中国 SEM 事情 Vol.3――中国 No.1 検索エンジン「百度(baidu)」の人気に迫る

中国検索エンジン市場はまだまだ拡大途上

世界的な金融危機を受け、これまで急成長を続けていた中国でも徐々に影響が出始めている。しかし、そんな中国でもまだ元気な業界は存在する。それは、 2.98億人、まもなく3億の大台に達するという世界最多のネット人口を後ろ盾に、検索、EC、動画、オンラインゲームなど、各カテゴリで世界規模の企業を次々と輩出している中国ネット業界だ。

なかでも、その中核といえる中国検索エンジンの市場規模は、2008年Q3時点で約14.29億元(約214億円)。前年比70.5%増を記録(CNNIC:中国ネットワークインフォメーションセンター)したうえ、まだ天井が見えないほどマーケットは拡大中だ。個別で見ると、やはり「百度(Baidu)」が圧倒的で、Q3決算では前年比91%の増益、市場規模に対する売上シェアでダントツの65.1%を占めた。

今回は、中国 SEM で最低限知っておきたい「百度(baidu)」の人気の秘密を、現地ユーザーの声なども交えながらお伝えしたい。

中国ネット業界を牽引する“二人の「李」”

「百度一下,●就知道」(●=人偏に尓)。「百度(検索)してください、すぐに分かります」といった、百度=検索に喩えたキャッチコピーと、各種メディアを使ったブランディングで中国 No.1 検索エンジンの座を強固なものとした「百度(baidu)」。

そのトップ、李彦宏(Robin・Li)CEO は、2000年に「百度(baidu)」を設立し、わずか5年、30歳半ばという若さで米国 NASDAQ 上場を果たしたチャイニーズドリームの象徴として、幾度となく中国全国ネット(CCTV)に取り上げられた。

一方、検索業界の巨人「Google」も、2005年から本格的な中国戦略をスタート。元 Microsoft の副社長である李開復(Kaifu・Li)氏を中国戦略のトップとして招聘した。同氏は、徹底的なローカライズを目標に、現地権限を強化し、2006年からロゴも中国語の漢字併記の「谷歌(Google)」に変更して、シェア奪回に意気込んでいる。

こうして“二人の「李」”対決に火蓋が落とされた。

圧倒的な「百度(baidu)」検索シェア

i-Research(艾瑞市場コンサルティング)によると、2008年Q3の中国検索エンジン別、Web ページ請求数シェアは、「百度(baidu)」73.2%、「谷歌(Google)」20.8%、「捜捜(sosou)」3.8%、「捜狗(sogou)」1.4%、「雅虎(yahoo!)0.8%」といった状況で、百度が圧倒的な優位を保っている。

しかし、百度が他社と比較して、検索アルゴリズムやサーバー分散システム、ロボットなどで世界の「Google」に対してアドバンテージがあるとは思えない。

では、この強さの理由は何なのだろうか?長年使っている中国現地のユーザーに理由を尋ねることで、ヒントが見つかるのではと、現地の多くの業界関係者やユーザーに質問をぶつけてみた。

創業時の吸引力は「音楽検索」コンテンツ

百度人気の秘密として業界関係者がはじめに挙げた圧倒的な理由は、音楽(MP3)検索の存在だ。

中国ならではと言っては失礼だが、新旧、内外のあらゆるジャンルの音楽 MP3 ファイルがさまざまなサイトでアップロードされており、それをサーチする「百度 MP3」は依然、人気が高く利用者も多い。実際、CNNIC のデータでは、ネット人口の86%以上が音楽検索を利用したことがあるとのことで、創業当初の百度の吸引力となっていたことは間違いないだろう。

今の牽引要因はソーシャルメディア

2番目にその人気の要因として挙げられたのは、「百度知道」。中国語で“知道”を直訳すると“知る”、つまり、さまざまな問題をユーザー同士で教え合うことで“知る”ことができる「Q&A」コンテンツで、日本の OKWave や Yahoo! 知恵袋、はてなに相当するサービスだ。

日米の検索エンジンを利用していると、私たちは Wikipedia のリンクを頻繁に見かけるが、中国国内は事情が異なる。実は、中国では「Wikipedia」へのアクセスが制限されていることもあり、「百度百科(辞書)」や「百度知道」が検索結果でヒットすることが多いのだ。

例えば「NOKIA3250 は、WiFi で無線 LAN 接続できるの?」などの質問から、「バルサ対レアルのサッカー試合はいつ放送?」など、即答を期待する BBS やメッセンジャー的な使い方もされており、一種のソーシャルメディアといえる。そのさまざまなレイヤーとジャンルの質疑応答が、検索にインデックスされているため、検索結果として表示されやすいのだ。

「最近は困ったときは、ここで探してるよ」、「ここで聞けば、ほぼ答えが見つかるよ」などユーザーの支持も絶大。解答者にはポイント制度もあり、しっかりと評価されるシステムも整っている。

ちなみに、ページの左上には今日までの疑問総数が表示されており、すでに解決された疑問4,800万3,082件、まだ解答待ちが86万2,240件(2/5時点)と、その数は累計で5,000万件に迫る勢いだ。

完全なる中国大陸向け言語「簡体字」仕様

そして次はページ言語(ローカライズ)。本コラムの Vol.1でも言語について説明したが、「百度(baidu)」は、中国大陸でもっとも多く使われている漢字の1つ「簡体字」に最適化して、検索とページインデックスがされている。

ちなみに「簡体字」の利用者数と、香港、台湾などで使われる「繁体字」の利用者数の比較は、おおよそ13億人対3,000万人と雲泥の差だ。

「百度(baidu)」では「繁体字」で検索クエリを入力しても、それを「簡体字」に変換し、結果も「簡体字」(中国大陸で主に使われる漢字)で表示される。これはなんと日本語の漢字を入力しても同様で、また英語で検索した場合は、クエリは変換されないまでも、関連ワードとして意訳した漢字の結果や「百度百科」「百度知道」での英語の意味など、「簡体字」タイトルの結果が並ぶのだ。

一部の人はこの機能を活用して、IT 用語や英語辞書代わりとして使っているというのも頷ける。ビジネスで英語を活用する人など、IT リテラシーの高い人が「谷歌(Google)」を利用するといったデータや意見もあったが、まだまだ総数、頻度ともに「百度(baidu)」が圧倒的だ。

広範囲なサービス内容

「百度(baidu)」のサービスは、これに留まらない。中国ではメールよりもよく利用され、総アカウント数が13億を越えるといわれる IM(インスタント・メッセンジャー)。この80%超のシェアを持つのが「騰訊(Tencent)」の「QQ」だが、「百度(baidu)」は2008年 6月から、独自の IM「百度 Hi」をリリースし同市場にも進出した。

また、「阿里巴巴(alibaba)」グループの「淘宝網(taobao)」が圧倒的なシェアを保持していた CtoC 分野にも、同年10月から「百度(baidu)」が「有ア」をリリースして本格参戦。

このほか本格的なソーシャルメディア化が進められている SNS の「百度空間」、無料ゲームの「百度遊戯」、中国全土をカバーするマップサービス「百度地図」からモバイル検索、辞典などなど、非常に幅広いサービスラインアップを持っており、これらが今日までの「百度(baidu)」人気と、将来のシェア拡大の基盤となっていくのだろう。

行き着くところは「文化」と「政治」

そして最後はなんと言っても文化と政治の問題。この点については奥が深いため、元同僚である北京の友人や、上海人のエンジニア、現地のユーザーなどの意見の一部をそのまま引用させていただきたい。

A氏「漢語名が分かるものは百度で検索、洋楽など外来語、英語、漠然としたものは Google かな」

B氏「私達は中国人だから、百度を使いますよ。答えが出なければ、次に谷歌も使いますが」

C氏「小学校でも百度を使う。地方では Google の名前すら知らない人も多いですよ」

機能別に併用する人も増えているようだが、精神的、政治的な意見も多い。

そういえば、「百度(baidu)」は数年前から「愛知識也愛公益(知識が増せば、社会性も向上する)」と称して、全国の貧しい学校に本を配る運動を行なっていたこと思い出した。なるほど…。

テクノロジーと人の心

テクノロジーとは完全にかけ離れた内容となってしまったが、ハード面ではスピードを上げるためサーバーの SSD 化や、ソフト面では画像や動画などを複合的に表示する検索結果のブレンド化など、検索技術のイノベーションも日進月歩の業界だ。

ただ、「Google」が実践する「User Experience」も、「百度(baidu)」が目標とする「User First, User Friendly」も、目指すのはユーザーの心への最適化。56もの民族で成り立つ中国は、言語も文化も思想も異なるため、検索テクノロジーが完全に人の心を解析するには、まだまだ時間がかかりそうだ。

なお、年末年始にかけて新しいニュースがいくつか入ってきたので追記したい。「百度(baidu)」が景気後退による広告費の減少や、「競価排名」問題などで2008年度Q4業績の下方修正を発表したこと。もう1つは、兼ねてより噂されていた「百度(baidu)」の新しい検索技術開発「阿拉丁(Aladdin)」計画の発表だ。

業績については、業界に関わる人間としてこれが短期的なものであると願うばかりだが、「HiddenWeb」問題を解決できるという新たな検索技術の探求は、業界発展のための重要な要素。ユーザー重視の視点を忘れず、健全かつ斬新な“二人の「李」”の切磋琢磨に期待したい。

執筆:株式会社アイレップ SEM 総合研究所 熊倉淳

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