SEMリサーチ

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これだけは知っておきたい中国 SEM 事情 Vol.1 - アイレップのSEMフロンティア

方言と文字による中国 Web マーケティングの地域区分

Web でも未曾有の記録ラッシュ

中国が威信を賭けてホストした北京オリンピックが先日閉幕した。各競技での熱戦はまだ記憶に新しいと思うが、開催期間中は中国の各ポータルサイトがオリンピック一色に染まり(図1)、ある特集ページでは開幕前に比べ時間当たりのアクセスが15倍以上を記録したほか、4大ポータルサイトの第2四半期広告収入が軒並み過去最高となるなど、Web 上でも連日、未曾有の新記録ラッシュとなっていたことはあまり知られていない。そこで、ここでは意外と知られていない中国インターネットの状況や常識、そして SEM 事情についてお伝えしていきたい。

中国SEM事情 - オリンピック色に染まった中国ポータルサイト

まず今回は、中国インターネット事情を理解するうえで避けて通れない、言葉の問題から。方言や地域ごとの違いから、ぜひ知っておきたい中国 Web マーケティングの基本まで触れてみたい。

方言による検索行動の違い

皆さんは、検索キーワードで方言を意識したことはあるだろうか?当然ながら関西弁で「おかん」と検索した場合と、標準語で「お母さん」と検索した場合では、検索結果が異なり、結果数では2,000万件以上の乖離が出てくる。数はともかく、ネットユーザーならほとんどの人が違いをある程度想像できるし、使い分けの必要性もご存知だろう。これは隣国、中国でも同様で、56の民族、7大方言、2種類の漢字が存在することから、一言で検索と言っても、より複雑化しているといえる。

では、具体的に中国語圏での検索行動において、どのようなことが起こっているのだろうか。一例を挙げると、北京オリンピックに訪れた観光客が競技場までの交通手段として「バス」をキーワードとして検索した場合、多くの中国人は、「公交車 (gong1 jiao1 che1※1)」と入力するが、香港からの観光客の中には「巴士(ba1si2)」と入力する人も多い。また「タクシー」なら前者は「出租車(chu1 zu1 che1)」、後者は「的士(dik1 si2)」となる。

「バス」の場合、前者は中国の検索エンジン「百度(Baidu)」で2,660万件もの検索結果から著名なバスルート検索サイト「全国公交査詢網」など目的のサイトを見つけることが出来るだろうが、後者は1,870万件をサーチするものの、上記サイトは上位表示されていない、といったことが頻繁に起こりうるのだ。同じ単語でも、方言や文字の違いによって、明らかに結果が異なってくることなどから、まず中国語圏における方言や文字の違いとその地域区分について理解しておきたい。

発音と文字から検索市場は3つの地域区分へ

中国語には7大方言※2があるといわれており、上海語や広東語などもそのうちのひとつ。方言による違いは主に発音やアクセントで、1つの単語で7通りの読み方があると考えると分かり易い。ただ、その違いの度合いは、日本の標準語と関西弁のような会話では支障が無いものから、双方で全く意思疎通が出来ない外国語のレベルまでさまざま。北京語(普通語)は台湾で問題なく通じるものの、広東語圏では、発音が全く異なる上に、前段のように単語や言い回しが違うものも多く、ほとんど会話が成り立たないのだ。

一方、検索キーワードで重要となる「文字(漢字)」も、中国では大きく分けて「簡体字」と「繁体字」の2種類が存在する。前者は中国政府により制定された簡略漢字として、主に中国大陸において13億人以上に広く利用されているのに対して、後者は日本における旧字体に相当する画数の多い漢字を指し、香港、マカオ、台湾にて約3,000万人に使われている。そして、この文字と、前述の方言の違いを組み合わせると、中国の検索市場は大きく分けて下記の3つの地域区分(図2)に分けることが出来る。

中国SEM事情 - 中国語の3つの地域区分

1.中国語圏(簡体字):北京、上海など中国大陸(広東省の一部を除く)

2.広東語圏(繁体字):香港、マカオ、広東省

3.台湾語圏(繁体字):台湾

この地域区分については、Google、Yahoo! などがそれぞれの地域において専用ドメインを用いた別のサイトを立ち上げていることなどからも、地域特性が強い正しい分け方と言える。

中国 Web マーケティングの基本

さらに各地域別の利用検索エンジンについてもう少し掘り下げてみたい。まず、もっともユーザーが多いとされる1の中国語圏で、シェア約70%を占めているのが「百度(Baidu)」。2番目は「谷歌(Google)中国」で20%強、「中国雅虎(Yahoo!)」、「捜捜(Soso)」、「捜狗(Sogou)」、「有道(Youdao)」などポータル系のエンジンがシェア5%以下で並ぶ。

次に2の広東語圏は、「Yahoo! 雅虎香港」が第1位。次に「Google 香港」、「百度(Baidu)」と続く。「百度(Baidu)」は繁体字やピンイン※3入力でも、自動的に簡体字に変換する機能を謳っているため、繁体字圏での利用も徐々に増えているようだ。

最後に3台湾語圏だが、こちらは「Yahoo! 奇摩」が60%以上を占め、「Google 台湾」、「MSN」と続くものの、ローカルサイトも根強く、「PC-home」、「Yam 天空」などの利用率も高い。

以上から、中国においての Web マーケティングには、少なくとも上記の3つの地域区分と、文字種をよく理解して、何処の誰をターゲットとするのかを明確にして進めることがポイントとなる。もう少し分かり易く言うと、

(1)中国大陸がターゲットなら、簡体字で「百度(Baidu)」

(2)香港・マカオなら、繁体字で「Yahoo! 雅虎香港」

(3)台湾なら、繁体字で「Yahoo! 奇摩」

(4)華僑含め全地域に幅広くなら、簡体字で「Google」

これだけ抑えていただければ、とりあえず北京や上海をターゲットに繁体字で広告を出稿するような見当違いは防ぐことが出来るはず。ただし、これは最低限の常識。2億5,300万人超の世界最大インターネット人口を抱える中国市場で、本当の意味で ROI(投資収益率)の高い Web マーケティングを行うためには、地域特性に合わせた LP の構築、中国独自のキーワード検閲、ICP 登録・ライセンス※4などを熟知し、中国語キーワードや入札ツール、管理ツールなどを駆使した本格的な SEM 戦略が必要となってくるのだ。

※1 ピンイン・四声:中国の発音をローマ字表記し、発声の抑揚を数字化したもの

※2 7大方言 :1. 北方語(官話方言)、2. 呉語(上海語など)、3. ガン語(南昌語など)、4. 湘語(長沙語など)、5. ミン語(台湾語など)、6. 客家語、7. 粤語(広東語)

※3 ピンイン:中国語の発音を表音文字(ローマ字)で表したもの。

※4 ICP 登録ライセンス:ICP は「Internet Content Provider」の略で、中国 Web サイトの登録、許可制度を指す。営利性と非営利性の ICP の2種類が有り、中国国内のサーバ上にある全ての Web サイトが登録する必要がある。正式名称「増値電信業務経営許可証」

※文中の文字表記は、日本の漢字に置き換えたため、一部中国の「簡体字」「繁体字」表記とは異なる場合あり

出典:CNNIC(中国ネットワークインフォメーションセンター)「中国互聯網絡発展状況統計報告」2008

comScore(コムスコア)「グローバルインターネットの動向と状況」2008

DCCI(中国インターネットデータセンター)

i-Research「2008年Q1中国インターネット広告市場観測報告」

執筆:株式会社アイレップ SEM 総合研究所 熊倉淳

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