先週までしばらくの間、検索エンジンであるGoogle Japanが自らが定める検索のガイドラインに違反してPageRank減点のペナルティを受けたことが話題となっていた。今回、皮肉にも対象がGoogle Japanだった故に改めて注目された「有料リンク(Paid Links)」「ペイパーポスト(Pay Per Post、Paid Posts)」の問題について整理しておこう。
有料リンクの問題は、5年ほど前からすでに問題が顕在化し、問題視されていた(SearchKing, KinterStartなど)。しかし当初は、検索各社がそれに対する明確なスタンスは示していなかったし、質問される度に時期や担当者によって回答がしばしば変わることが散見されたし、時として不可解な対応を行ったこともある(参考:GoogleはPageRank 7 のリンクを販売したと言えるのか?[サーチエンジン情報館])
しかし2007年以降、特に米Googleがウェブスパムチーム担当トップのMatt Cutts氏を中心に、有料リンク問題に対して明確なスタンスを示し、人気評価を得る(PageRankを上昇する)ことを目的としてリンク売買することは検索ガイドラインに違反するとの見解を示した。また、その根拠として、金銭によるリンク売買は、実力や関連性、権威などに基づかない、偽りの人気を作り出すという「不正確」と、経済的余裕があるサイトほど有利な検索順位を得ることになるという「不公平」という2つの理由を挙げている。
Googleとしては、あくまで自社の事業領域でありコア技術でもある「検索」の品質を維持するために自己防衛を行う必要があってのことで、テキストリンク広告を否定しようとしているわけではない。また「自然発生的に、当然行われうる経済活動を阻害しない、それがあることを前提にする」という制約条件もあることから、リンクを販売する側には rel属性にnofollowの値を入れるなどして、検索エンジンのリンク評価に影響が出ないような措置を行うように要請し、一方のリンク購入側に対しては先の理由により不正に検索順位を操作する行為をしないように要請をするに至った。
この話と前後して、近年問題になってきた口コミマーケティングという建前上の、実態は不特定多数のブログから特定アンカーテキストを持つリンクを多数集める手法についてもGoogleは見解を表明する。このペイパーポストについては、金銭的対価を得るためだけに記事を書くブロガーは、その話題について何の知識も正しい情報がないのに適当に記事を書いていることがしばしばあり、こうしたコンテンツの氾濫やそれを通じたリンクにより検索品質が歪められることは検索利用者の利益にならない、という理由を述べている。
ただし先述した通り、口コミマーケティングそのものを否定したいわけではなく、もし行いたいなら誰の依頼に基づいて金銭等の対価をもらって記事を書いているのかを明らかにすること、そして検索品質に影響を与えないように nofollow をつけることを要請している。ちなみにこのガイドラインは、米FTC(Federal Trade Commission、連邦取引委員会)が出した見解に基づき、それをウェブ(と検索)に適用したものだ。
以上のように、2007年を1つの区切り目として、Googleは「検索順位や品質に影響を与える有料リンク、ペイパーポストはダメ」というスタンスを明確に示したわけだ。繰り返すが、決してすべての有料リンクやペイパーポストが禁止といっているのではなく、"PageRankを渡すリンクを持つ"有料リンクやペイパーポストが禁止といっているに過ぎない。つまり、nofollow をつける等、何らかの方法でGoogleのアルゴリズムに影響がでない方法でやってくれ、ということだ(この態度が傲慢だという批判もあるが、今回はその話題には触れない)。
さて、Googleは上記のようなガイドラインを示したわけだが、ウェブマスターやネット広告の関係者から見ると、これほど曖昧なガイドラインもないのだ。というのは、金銭が絡むことで発生するリンクというのはウェブ上にはいくらでもある。たとえばYahoo!カテゴリへの登録※1(日本ならビジネスエクスプレス)、イエローページへの掲載、ペイドパブリシティ、自然保護団体などへの寄付※2など、別にSEOや検索順位の話題とは関係なしに、通常行われうる経済活動ながら、Googleという検索のガイドラインに触れるかもしれない、白黒はっきりつけられないものがいくらでもある。
これらに1つ1つ、理由を答えていくと実はガイドラインに違反するかどうか判断がつかないグレーゾーンが限りなく広がっていることが判明し、結局、Googleが本当に排除したい"有料リンク"や"ペイパーポスト"とは一体何なのかがわからなくなってしまうのだ。
検索利用者の立場としては、単純に捏造したリンクだけが排除されればいいはずで至極単純なルールに見えるかもしれない。しかし、ウェブを運営する立場の人間から見ると、対処に困るケースにたびたび遭遇することになってしまう。行き過ぎたSEO、検索エンジンスパムの有無は別として、とりあえず関連キーワードで自社のサイトがヒットする状態にしたいウェブマスターであっても、リンク1つ貼ってもらうのに怯えなければならない。
また、Googleはこれまでもガイドライン違反とはっきり言っているにもかかわらず、具体的な対抗措置(ペナルティ)を実施しないことも多々あるため、たとえガイドラインに違反しても実害がないという理由で、有料リンクやペイパーポストを行い続けるウェブマスターも後を絶たないのも実情だ。少なくとも、過去にGoogleがリンクの「買い手側」に対してペナルティを課す措置を講じたことがないことから、「リンクを買う側のリスクはフリー」という理由を根拠に、大量にリンクを購入し続けて検索順位を維持しているサイトも残念ながらいくらか存在している。
こうした状況の中で、今回のGoogle Japanの有料リンク&ペイパーポストの問題が起きた。この事件は、何の意義があるだろうか?それは、Googleの考えを知る上で手がかりとなる「判例」をもたらした点にある。
つまり、今回の「判例」が示したことは次の2点だ。1点目にリンクの買い手側に対してもペナルティを課すという姿勢を見せたこと、2点目に、少なくとも本件にかかわった種類の口コミマーケティング手法はGoogleにとってNGである、ということ。
これまで、リンクを購入し続けて検索順位を維持しても、少なくとも売り手側だけのペナルティなら投下したお金が無駄になっても自身の検索順位は下がらないという根拠に基づいてきたウェブマスターにとっては、リスクが存在することを改めて認識しなければならない。リスクを認識しているならまだよいが(いや、本当はよくないのだが)、SEOの業務全般をすべてアウトソースしている企業の担当者の中にはそういったリスクの存在すら知らないことがあるので、もし自分自身でどのようにリンクを構築しているか理解していない場合は、その担当者にきちんと説明を求めて、リスクの有無、リスクがあるならそれを評価する必要がある。
次に、口コミマーケティングの扱いであるが、その広告会社が自らのサービスをどのように定義しているかに関係なく、実態として行われている口コミマーケティングがGoogleのガイドラインに違反していれば、それはガイドライン違反だということだ。今後、口コミマーケティングを実施しようとするなら、その実施方法を検討しておく必要が出てくる。
もし違反していてもGoogleでのランキングに全く関心がないならそのまま続けてもかまわない。もしGoogleのランキングも意識しつつ口コミマーケティングも展開したいなら、どのように両者を共存させるかを検討する必要がある。SEOのために口コミマーケティングを使うのであれば、その実態はほぼ間違いなく「Googleが定義するペイパーポスト」に該当しているので、リスクを勘案して決定する必要があるだろう。
※1 後日、Matt Cutts氏は"Editorial Review"という基準に基づき、「人の目による審査が入るため、(Yahoo! Directoryは)問題ない」との見解を出している(SES London, 2007)
※2 募金・寄付をすると「協力してくれた人一覧」などの紹介ページにリンク付きで掲載されることがある。これは見方を変えれば「お金を払えば(寄付すれば)リンクがもらえる」わけで、PageRank上昇の意図の有無にかかわらず、"PageRankを渡すリンク"が生まれてしまう
執筆:株式会社アイレップ 取締役CSO SEM総合研究所 所長 渡辺隆広