SEMリサーチ

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サイトの運営モデルで変わるSEOの実施方法 - アイレップのSEMフロンティア

(前回:円滑にSEOを導入・実施するための組織体制を構築しよう(1))改めて説明すると、コンテンツ数が多岐にわたること、事業部によって編集可能範囲が異なること、安易にソースコードの変更が行えないといった要素が企業が SEO を円滑に導入する際に障害となる要素だ。さらに、近年はコンテンツ制作者が企業側だけでなく消費者側(いわゆる CGM)が担う場合もあるので、企業の SEO はさらに複雑化する。

3つのパターンに分けて説明しよう。

SEO 担当者とサイト運営担当者が同一のケース

まず第1に、SEO 担当者とサイト制作担当者が同一のケース。小~中規模のサイトであればサイト管理担当者がすべてを実施していることもあるだろう。この場合、制作者は Web ページのコーディング段階において、ある程度検索エンジンに配慮したコーディングを行うことができるし、サイトのアーキテクチャもコントロールができる。

追加するコンテンツも、もし自分自身で書くのであれば適切にキーワードを盛り込んだ文章を作成すれば良い。もし別の担当者が原稿を書くのであれば、提出されたその原稿を Web 用に修正を加えて公開すれば良い。社内の SEO 担当者の努力次第で何とかなるのがこのケースだ。理想を言えば、コンテンツ制作者に SEO の概念を伝え、文章作成時に検索エンジンに配慮されることだろう。

コンテンツが複数の人間によって投稿されるケース

第2に、メディアサイトのように複数の人間がコンテンツを作成することによって成立するケースだ。例えば、asahi.com や毎日.jp といった新聞社や、Internet Watch や CNET Japan のようなメディアのケースだ。この場合、各記者は読者に対して有益な情報をわかりやすく伝達するために記事を執筆することを主たる目的とするし、普通は検索エンジンのことなど考慮されない。

しかし、そのサイトの事業運営の責任者やマーケティング担当者はできるだけトラフィックを増やすために、多くのユーザーが利用する検索エンジンからの集客も重要視するだろう。こうした場合、コンテンツの入れ物であるメディアサイトに対して、検索エンジンに評価されやすいしくみ(検索エンジンフレンドリーなプラットフォーム)の導入をする一方、記者に対して検索エンジンの重要性を説明し、文章を書く時に見出しの付け方やキーワードの使い方について、Web 向けの教育をする必要がある。

日々膨大な量のニュース記事が掲載されるオンラインニュースサイトの場合、もし SEO による自然検索からのトラフィック誘導を望むのであれば記者への教育も大切だ。たとえば米 New York Times は近年、検索エンジンからの集客を考慮した見出しの書き方について記者に教育を行っている。

コンテンツが不特定多数のユーザーによって投稿されるケース

第3は、ユーザー参加型のサイトの場合だ。例えば動画・画像投稿サイトやソーシャルニュースサイトやソーシャルブックマークサイト、あるいは無料 Blog サービスを提供している企業の場合だ。このケースは、コンテンツ作成者は実質的にコントロール不可能な不特定多数の一般ユーザーだ。

コンテンツ作成者が無限の不特定多数にわたるため、メディアサイトのケースのように投稿者に SEO の教育をするというのは非現実的だ。また、SEO のために記事投稿時に様々な条件を課せば自由度が失われユーザー離反を招く。このケースでは、受け皿である Web システムに検索エンジン用の要件を盛り込むのは無論、ユーザーが活動していくことが自然に SEO になるような、「どんなページを作成しても、自然検索から集客できるしくみ」を盛り込んでおくことが必要となる。

例えば情報交換や議論を行うフォーラム(掲示板)のシステムでも、ある期間に投稿された記事をまとめて1ページ上に出力するものとトピック単位(あるいは投稿単位)でログを保存するタイプがある。SEO という観点でいえば後者が望ましいが、これは別にユーザーが意識して実現するものではない。

「はてな」や「Buzzurl」といったソーシャルブックマークサービスは、ブックマークのコメント欄に書き込まれるメモの増加によってユニークなコンテンツが形成され、検索エンジンにヒットしやすくなるが、これも同様にユーザーはあくまで「後で閲覧したいページを保存する、あるいは一言言いたくてコメントをしている」という普通の行動をしているだけだが、結果として運営側は SEO を実現できているわけだ。このように、企業がいざ SEO を導入しようと思っても様々な柵や制約条件に阻まれて、思うように作業が実施できない事態は少なくない。

米 HP の SEO 組織体制から学ぶこと

SEO の本来の目的は、日々増加し続けるコンテンツが「検索エンジンにクロールされ、適切に評価され、その情報を探しているユーザーが関連キーワードで検索した時にきちんと検索上位に表示できる状態を作ること」である。

例えば米ヒューレット・パッカード(以下、HP 社)は社内全体のコンテンツをグローバルに統括する選任の SEO マネージャーを設置し、そのチームが HP の持つデジタルコンテンツの資産を利用して最大限に SEO のパフォーマンスが発揮できるような仕組みを整えている。米国の一部の企業はサイト運用管理とは別にサーチマーケティングチームを設置し、サーチの観点から社内調整を行う体制を整えている。

対する国内においてこのレベルまで実施できている企業は残念ながら少数であるし、また国内特有の事情として、特定キーワードでの上位表示することが SEO と捉えられている風潮も「企業組織レベルでの SEO 導入」の障害になっている。もちろん SEO を外部にアウトソースする場合、数多くのリンクを貼り付けることで特定キーワードでの上位表示を実現することは可能だ。しかしながら先述した通り、事業部、コンテンツが多岐に渡る企業の情報全てが、ロングテールに広がるキーワードにて検索可能な状態にするには残念ながら程遠い。

ユーザーと企業の情報マッチングを実現する検索エンジンの機能を十分に生かすためには、先ほど指摘した様々な制約を乗り越え、事業部/各部門からのニーズを汲み取り、それらの交通整理を行い、サイト全体に統一したガイドラインに基づく検索エンジンフレンドリーな仕組みを導入していくことが求められるのだ。

執筆:株式会社アイレップ 取締役 SEM 総合研究所所長 渡辺隆広

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