SEMリサーチ

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2016年 SEO 予測と展望 テクニカルなSEOとユーザ体験の関係の歴史

SEO のトレンドについてマクロな視点で簡単に解説してみます。過去の歴史を紐解きつつ、2016年(以降)の SEO の予測・展望について触れていきます。

Google がインターネット検索市場で注目され始めたころ、そして SEO(検索エンジン最適化)という用語が米国で確立しはじめた2000年を起点に、この15年の間にウェブマスター視点から見た SEO のアプローチは、次のスライドのような変化をしてきたと私は捉えています。

テクニカルSEO と UX の関係(2000-2010)

UX とテクニカルSEO の関係 2000年代



テクニカルSEO と UX の関係(2011~201x)

UX とテクニカルSEO の関係 予測(2016-2020)

「Technical(テクニカル)SEO」と「UX」の2つの要素が、それぞれの時代(2000-2010年と、2011年以降~)においてどのような関係性にあるのか(円の配置)、SEO に対してどの程度の影響があったのか(円が大きいほど影響大)を表しています。

* テクニカルSEOとは、検索エンジン対策のための技術的な施策を指します。一方、UX はユーザーに優れたサイト体験を提供するための機能全般を指しています。前者はたとえば、HTMLマークアップや METAディスクリプション、canonical による正規化、ファセットナビゲーション、重複コンテンツ、多言語対応(hreflang)、リンク設計などが該当します。後者は、たとえばウェブデザインやコンテンツ、ユーザインターフェース、情報設計(IA)などが該当します。

「優れたコンテンツありき」の前提が忘れられてきた10年間

2000年当時における SEO というのは、「優れたウェブサイトを作ることを大前提として」、そのサイトをより多くの人に閲覧してもらう手段として SEO に取り組みましょうという文脈で語られていました。少なくとも、当時、私が一緒にお仕事をした Robin Nobles や John Alexander も、Jill Whalen も皆、口をそろえて優れたユーザー体験を提供するサイト運営ができていることが大前提だと教えていました。

にも関わらず、ユーザーのことなど考えずに、検索エンジンのほうばかりを見て、そのアルゴリズムを学び、うまく評価されるような様々なテクニックを駆使して順位を上げていくことが SEO だと理解され、それがウェブの世界に広まってしまいました。

スライドの右下にある小さな円の UX、たとえばトピックに基づく情報構造を設計すれば様々な種類の検索クエリで自然検索結果にランキングさせることも可能になり(いわゆるロングテール)、また検索ユーザーにとっても欲しい情報が見つけやすいサイト構造になるという点において当時でも重要な位置づけだったはずなのです(だから私が2003年に出版した SEO 書籍(検索にガンガンヒットするホームページの作り方)でも情報設計の説明のところでデパートの売り場をたとえ話に出してトピックの概念を説明していた)。あるいは、ユーザーにとって良いデザインは SEO にもプラスに働く要素は当時もあったのです。

しかし世界のウェブマスターの大半は、そういったユーザーではなく検索エンジンのほうを見て、大量の外部リンクを日々生産する道を選んできたわけです。もちろん、企業はマーケティングの1つとして SEO に取り組む以上、その施策に対する成果を求めることは当然であり、もしも労力をかけずに手軽に検索結果での露出度を上げることができる低リスクな手段が存在するのであれば、それを選択することはある意味、理にかなっています。もっとも検索サービス提供サイドはそれを許容できませんから、ウェブスパム撲滅のための技術開発にも力を入れるわけですが、当時の検索技術ではいたちごっこが続くだけでした。

本当に価値のあるサイトが評価されはじめた2010年代

直近の5年間で変化してきたことは、(1) ユーザー体験にかかわる要素がシグナル(検索順位を決定するために利用する手がかり、項目)として利用されるようになってきた、(2) ユーザーにとってプラスになる行いが、SEO 的にもプラスになる要素が増えた、ということです。そして2016年以降は、(3) スライドの「テクニカル」と「UX」の重なる部分が広がる、つまりユーザー中心の施策がそのまま自然検索順位にも有利に働く範囲が広がっていくだろうということです。一方で、(4) 純粋にテクニカルに解決しない SEO の領域も存在しており、それは引き続き重要である点も忘れてはいけません。

この時代から Google 中心の SEO 時代に入っているのですが、パンダアップデートやモバイルフレンドリーといった言葉に代表されるコンテンツやページの品質・有用性の評価に関連するアルゴリズムが導入されてきたこと、検索クエリに込められたユーザーの意図を上手にくみ取り、それを効果的に処理できるようになってきたこと(ハミングバードなど)、クエリデータの集計や検索結果画面でのユーザー行動データを活用して、検索クエリの意図や目的を踏まえながら自然検索順位に反映させるようになってきたこと、第三者の評価シグナルであるリンクやメンションの価値を算出するロジックが向上したことなど、様々な技術革新によって SEO が上手なだけのサイトよりもユーザーに価値を提供し続けるサイトをアルゴリズムで評価できるようになってきました。

インターネット検索というのは、検索ユーザーが抱えているタスク(課題)を解決するためのリソースへ瞬時にアクセスできるサービスを提供するものです。Google が検索結果に表示したいのは、検索クエリの意図に合致し、そのタスクを解決しうる回答を持ったウェブページです。残念ながら10年以上前の Google にはキーワードマッチで関連するページを表示することは何とかできても、そのページの有用性や価値までは十分に評価ができませんでした。それが15年の年月の間に、いくらかは可能になってきたということです。いいかえれば、Google は別に突拍子もない、ウェブマスターに特別な対応やテクニックを強いるアルゴリズムを開発しているわけではなく、純粋にユーザーにとって有益な情報を、コンピューターを駆使して自動的に発見できるようにしたい、ただそれだけです。それが実現できてくるほど、ユーザーのほうを向いてサイト運営に取り組むことで自然とSEOの要件が満たせる機会も増えてくるわけで、だからスライドの円が重なる部分は今後も増えていくでしょう。

とはいえ、残念ながら Google の検索技術は 100% 完璧ではありませんし、ユーザー中心のサイトデザイン設計が必ずしも検索エンジンフレンドリーにならないことも事実です。だからテクニカルにアプローチしなければいけない SEO の領域は残ります。

問題なのは、皆さん各自が運営するウェブサイトにおいて重要なテクニカルな事柄は何なのかを見分ける必要があることです。数千万ページ以上ものサイトであればサイト内部のリンク設計をクローラビリティを考えて十分に検討する必要があるかもしれません。同規模の通販サイトであれば、どうしても発生しがちな重複コンテンツをどのように処理するか、商品一覧ページの価値をどのようにスケーラブルに創り出していくのかは知恵が必要です。

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