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「SEO をインフラ」と位置づける米国企業に学ぶ SEO の活用法 - アイレップのSEOスタンダード

約半年にわたり連載してきた本コラムも最終回である。最後は「広告手法」とは異なる SEO の性質の理解と、海外企業の活用事例を紹介しつつ「インフラとしての SEO」について話を進めたい。

本コラムの主題である「SEO(検索エンジン最適化)」と検索連動型広告(スポンサードサーチ、アドワーズ広告など。以下、単に検索広告と表記する)は似て非なるものである、ということを十分に認識しよう。

「Yahoo! JAPAN や Google の検索結果画面に表示される」「キーワードに連動して自社のリンクを掲載できる」「キーワード、すなわち人々のインテント(検索意図)にターゲティングできるから他のネット広告より効果が高いらしい」などの観点から、検索広告も SEO も、掲載位置がちょっと違うだけの同じ(集客)広告的手法のように見えるのも不思議ではないし、掲載内容、期間、予算でキチンと決められる検索連動型広告の方がわかりやすい、SEO もとりあえず検索回数が多いキーワードできっちり抑えておけばいいじゃないか、という結論にたどり着くこともよく理解できる。しかし、SEO は自然検索(Natural Search)枠内を対象としたもので、予算の大小ではなく、キーワードと自社コンテンツとの関連性(Relevancy、レリバンシー)の高さによって検索順位が決まるものだ。

また、そのレリバンシーとは Web サイト全体のアーキテクチャや Web ページのソースコード、サイト内外のリンクの状況など、金銭的なものではなく、デジタル資産の蓄積度合いによって決定されるものなので、個人や中小企業であっても人気キーワードで検索上位に表示されることもあれば、大企業でも自社の商品やサービス名、会社名ですら1位に表示されないという事態もある性質のものだ。

検索広告は「広告」という商品に対し、SEO は本質的には Web サイト構築や運営の技術的手法であるという特性を認識した上で、かつ、今日の私たちの生活環境における検索サービスの存在意義や重要性を理解したうえで、検索エンジンを使ってどのように集客やブランディングを図るか考えていく必要がある。

たとえば米 IBM や Intel や韓サムスンなどの企業は、SEO を単なる集客的機能ではなく、マーケティングコミュニケーションにおけるインフラ的な役割と位置づけた上での検索エンジン対策を行っている。これは、今日の消費者が様々な場面で興味・関心を抱いたとき「検索」という行動を通じて目的の情報に到達しようとすること、そして経営者層レベルでの検索エンジンに対する意識の高さと関係がある。

つまり、先にあげたグローバル企業は、ネットはもちろんテレビや雑誌、新聞、ラジオ、交通広告など様々なメディア・媒体を利用して消費者とのタッチポイントを持つ。これらと接触した消費者の中には、彼らの扱うソリューションに興味を持つ人もいるだろうが、彼・彼女らは興味を持ったとき「検索行動」を通じてより深く接触しようとする。

従って、様々な場面でのタッチポイントから生まれた、様々なクエリによる検索行動に対し、適合する情報をきちんと検索エンジンを通じて提供するためには、単純に特定キーワードでリンクを集めるといった手法ではなく、サイトをインフラとして捉え、あらゆる検索ニーズに対して適切なあらゆる答えを提示する、というアプローチが必然的に求められる。こうした対応をしないと、たとえばテレビ CM を見て認知した消費者が検索エンジンを使ってその企業の商品をもっと詳しく知ろうと思ったのに情報が見つけられず興味を失ってしまうという損失が発生する。

また、自社に関連する検索は、すべてが商品やサービスなど直接的に売上に貢献する類のクエリばかりではない。CSR・環境活動への取り組みについて、10 年以上前に購入した商品の修理先の問い合わせ窓口のこと、1年前に就任した新会長のプロフィールなどのクエリも当然ある。もし自社サイトのどこかに答えとなるコンテンツを持っている場合、検索エンジンを通じてこれら「答え」を提示すべきかどうかという課題に対し、先にあげた企業は YES の考えのもとで対応を行っている。

これはステークホルダーを大切に扱う、消費者と誠実に対話するなどの理念など、長期的な企業価値向上の観点によるものだ。こうしたクエリに対しきちんと答えを提示できる、つまり検索エンジンを通じて消費者やステークホルダーとコミュニケーションをとるためにも、やはり SEO は「基本的なインフラ」と定義して対応しないと意味がない、という結論に必然的にたどり着く。

もちろん、短期的な売上を獲得するために、あくまで売上貢献にフォーカスした SEO という選択肢もありなのだが、広告手法ではないのでインフラとして捉える、検索エンジンをコミュニケーションツールとして捉えることで、もっと様々な活用方法ができるということも是非知っておいていただきたい。そうした活用方法を理解した上で売上改善にフォーカスした SEO をするのと、知らないでいるのとは大きな違いだからだ。広告とは違う性質ゆえに、広告とは違うことが実現できるのだ。

執筆:株式会社アイレップ 取締役 SEM 総合研究所所長 渡辺隆広

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