SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

マイクロソフト Bing 米国版 レビュー

ネイバーに続いて、今度は6月に正式リリースされたマイクロソフトの新検索エンジン「Bing」(ビング)です。こちらも箇条書きで簡単に書いていきますが、まとまったものは同じく後日、どこか他の媒体で掲載します。

・Bing日本語版を試して「これはダメだ」というレビューをしている人がちらほら見られるけど、残念ながらBing日本版は従来のLive Search (MSN Search)と同じものなので、それを使って"Bing"の評価をしても仕方がありません。

・まぁ、Live Search日本語版がダメダメじゃないの、時間経過しても目立った改良されないよねという議論はさておき、今回はBing米国版をレビュー。

・前置き。

いまさらGoogleやYahoo!に対抗して「うちの方がレリバンシーがいい!」とか「Googleより適切に情報探せます」といわれても、現在のところ多くの人がGoogleやYahoo!で満足されているわけで、スイッチングする説得材料にはなりません。検索精度はある意味、GoogleやYahoo!で"十分"なんですよ。

・ブラインドテストするとLive Searchの検索結果にGoogleロゴつけると満足度があがったり、逆にGoogle検索結果にYahoo!ロゴつけると満足度が下がるという調査結果がいくつかの機関から発表されているように、検索品質に対する違いは今の消費者は理解できなくて、むしろGoogleというブランドによってユーザが検索体験に満足している状態が出来上がってしまっている。

・そこでマイクロソフトは考えたわけです「いまのGoogle(Yahoo!)検索って、本当に十分なのか?」と。インターネットが普及し、人々が日常生活の様々な場面で検索を利用するようになった。「音楽をダウンロードする」「誕生日プレゼントを探す」「海外旅行どこに行こうか?」「1週間前からせきが止まらないんだけど何の病気?」「あんもくちってどういう意味だっけ」etc.様々なタスクを遂行するために検索をするようになったんだけど、Google(Yahoo!)の検索UIの基本部分は実は何年も前から変わっていない。実は、ブラウザで何度も「戻る」ボタンを押したり、検索キーワードを何度も入力しなおしたり、情報の比較するために何度も何度も何度もページを行ったり来たりする。検索エンジンを使ってすばやく課題・問題を解決したいわりには、実際に時間を図ると検索セッション平均時間を30分超えているのが46%もいたり。

・これって本当に『便利』『満足』なんだろうか?人々は不満と感じていない、いつもどおり行っている作業が、実はもっと省略したりシンプルにする、それを実現するためのイノベーションの可能性が秘められており、検索タスクをもっと簡単に完了させることができるんじゃないか? - ここに目をつけて、新しいコンセプト「Decision Engine」(ディシジョン・エンジン)を掲げたサービスを投入してきたわけです。

・従来のようにGoogle、Yahoo!対抗というよりも、「スムーズな意思決定が行える検索サイト」というメッセージを全面に出し、かつ具体的に「ショッピング」「健康」「地域情報」「旅行」という4分野を掲げて、ジェネリックサーチであるGoogleやYahoo!とは違う価値を示そうとしている。実際、今回はマーケティング戦略がかなり練られていて、これは私が検索領域の専門だからだろうけど、それでもロジックが明確でマイクロソフトがBingを通じて何を提供したいのかが明確に伝わってきている。コミュニティにも注力し、ブログ、Twitter、Facebook等などソーシャルメディアを活用して積極的なコミュニケーションをはかろうとしている。

・そのコンセプトの元に構築された肝心の検索機能だけれども、わかりにくいけど、細かい改良が施されており、使いやすくなっている。冒頭で述べたとおりあくまでこの記事はBing米国版のレビューです。米国版Bingですが、レリバンシーも問題ないレベル。もちろんあらを探せばおかしな検索結果はあるけれど、それはGoogleやYahoo!だって同じこと。でもBingは検索結果を単に羅列するだけでなく、検索クエリのインテントやカテゴリを識別して、それに適合する分類カテゴリを作成して探しやすさの工夫をしている

・たとえば「nintendo ds」で検索すると、画面左サイドバーのエクスプロールペイン(Explore Pane)が「Shopping」「Downloads」「Accessories」「Repair」「Controller」「Sale」「Images」が表示されるが、クエリを「kyoto」(京都)で検索すると、同じエクスプロールペインが「Images」「Restaurants」「Map」「Weather」「Resorts」「Attractions」に、今度は「mobile phone」(携帯電話)にすると「Brands」「Plans」「Buying Guide」と変わる。

・つまり、都市名クエリは同時にホテル、地図、アトラクション、天気、空港といったクエリと掛け合わせ検索されることが多い、映画クエリなら予告編、DVD、批評が

多いといった具合に、ある程度、ユーザが探している情報単位はカテゴリ化できるので、それを検索結果の分類にも使っている。「だから何?」と思える機能かもしれないけど、検索に慣れていないユーザにとってみればこういうちょっとした工夫は結構大事だったりする。たとえばGoogle(日本)だって、検索を便利にしている機能のかなりの部分が、実はリリースなどで公式に発表されていない、こまかな改良を続けたエンジニアの継続的な努力の成果によってもたらされている部分は多い。今回のBingは、一般のネット系メディアでは取り上げてもらえないような、でも使ってみると結構便利な機能が追加されている。

・Bing Travelはほとんど米国内のフライトしか対応していないのがとっても残念なんだけれども、空港とフライト日時を指定すると条件一致する航空機情報だけでなく、航空券をいつ買うのがお得なのかという、ユーザのチケット購入意思決定において重要な部分をサポートする部分が(ちょっとわかりにくいUIかもしれないけど)実現されている。

・商品購入なら、私たちは他の人のレビューを読んだり、価格を比較してどれを買おうか選ぶという行動をとることが多いけど、それをBing内である程度は行えるし、商品購入するときはBingキャッシュバックでちょっとお得なお買い物ができる。

・Bingが登場してから、私は英語圏の文献を探すときにできるだけBing米国版を使うようにしているのですが、今のところ特に不満はありません。Live Searchの時は「何これ?」というのが散見されたので結局google.comを使うことが圧倒的に多かったのですが、Bingはそういう不満は感じさせない。残念ながら私は日本在住だし米国サイトで商品購入するならeBayかAmazonしか(決済や配送の都合で)使わないのでBingをショッピングの検索タスクで利用する機会はないんだけれど、でも購入を想定して利用すると、まぁGoogleよりは便利だと感じるし、あまり検索に慣れていない人にはGoogleやYahoo!との違いはまぁわかってもらえるんだと思う。

・Live Searchが登場したときは正直いってガッカリだった印象しか残っていないのですが、今回のBingは検索サービス(ディシジョン・エンジン)としてそれなりに出来上がっているし、検索精度も不満ないし、特定領域ならそれなりに便利な検索体験を実現できているので、まぁいいんじゃないでしょうか。米国向けに用意されている、数々のBingの紹介ビデオやブログでも、同社の意気込みや実現したいことがわかるようになっている。米国の検索領域の専門家はBingをBing Is Not Google なんて揶揄しているけど、一般のユーザ目線で考えたら、これはありなんじゃないの?

・別にマイクロソフトもいきなりGoogleから検索シェア奪えるとは全然思っていないだろうし、彼らとしては、特定の検索タスク(=特に、ショッピング、健康、地域情報、旅行の4領域)の時にBingを候補に思い浮かべてもらえる、あるいはGoogleと併用してもらえるようになれば、反撃の第1歩を踏めるわけですし。

・comScoreのデータだと2週間経過してもまだシェアを落としていないということですが、今後は1億ドル(?)使うといわれている大規模なBingの広告キャンペーンの成否にかかっているのでしょう。検索技術ではない、マーケティングの勝負。Googleを使っている人に、もう1回、Bingを使ってもらう、使ってみたい、使ってみようと説得できるかどうか次第です。

・そんなわけで米国版Bingはよいと思う。問題はBing日本語版。いまの状態だったらブランド変更せずにLive Searchのままにしておいて、Bingらしい新機能を実装するタイミングでBingブランドに変更とかでもよかったんじゃないでしょうか。

COPYRIGHT © 1997-2021 渡辺隆広(わたなべ たかひろ) ALL RIGHTS RESERVED.

お問い合わせ(お仕事の相談、講演依頼など)

SEMリサーチ(www.sem-r.com)に掲載している文章及び図版の無断使用及び転載を禁じます。著作権侵害行為には厳正に対処します。

免責事項:SEMリサーチは、本記事中で触れている企業、商品、サービスの全て(情報)について、有用性、適合性、正確性、安全性、最新性、真実性に関する一切の保証をしておりません。各自の判断でご利用下さい。