検索結果 UI の進化で SEM は何が変わるのか
過去に紹介した、ユニバーサル検索(ブレンド検索)やパーソナライズ検索、ソーシャル検索、リアルタイム検索(検索時点で最も新しく、かつ関連性の高い結果を表示)など検索技術の進化の例をあげつつ、SEOの効果測定における「ランキング指標を過剰に重視した効果測定の危険性」や「順位の相対的重要性の低下」について指摘してきた。
実際、Google のランキングシステムにおいては単に順位だけでなく、同時にトラフィック(流入数)やコンバージョン、滞在時間など複数の指標を組み合わせて評価しなければ、SEO の適切な効果測定や費用対効果の測定が難しいケース(たとえば一定規模以上のeコマースサイト、メディア)もでてきている。ランキングや表示内容が朝昼晩の時間帯や検索場所(e.g. 東京と大阪)によって変化することや、インターネットに慣れた人々の増加、検索タスクの複雑・多様化により、必ずしも順位が高いことだけが成果をもたらすわけではないためだ。
さて、今年は検索エンジンの進化、とりわけ「検索結果 UI の進化」が非常に進んだ年であったといえるのだが、その波は日本にも押し寄せてきている。今回は検索結果の UI がどのように変化しているのか、そして検索エンジンマーケティング担当者、とりわけ SEO にかかわるマーケッターは2010年に何を見据えなければいけないかについて説明したいと思う。
Google「リッチスニペット」「パンくずリスト表示」
今年を振り返ってみると「SearchWiki(サーチウィキ)日本版」「検索ツール(Searchh Options)」など様々な検索ツールを投入してきたGoogleだが、直近でもUIを進化する新機能をリリースしている。それが「URL のパンくずリスト」「リッチスニペット」を日本国内投入だ。
前者のパンくずリストとは、検索結果に表示されたページが、該当サイトにおいてどの位置に属する情報かを分析して、そのページが所属するカテゴリをパンくずリストとして URL 表示欄に示すものだ。
たとえば、Panasonic のデジタルカメラ、型番 XX-XXX という製品があったとしよう。この製品の情報を掲載したページを、サイト上の「製品」>「デジタルカメラ」>「コンパクトサイズ」というカテゴリ下においたと仮定する。すると、キーワード「XX-XXX」で検索して、該当ページが検索にヒットしたとき、その URL 欄に、デジタルカメラ>コンパクトサイズ、という文字列が表示されるのだ。
この文字列をクリックすると、検索利用者は該当カテゴリのページに直接アクセスすることができる。最近 Google が追加したサーチスニペット(Search Snippet) を拡張したようなイメージだが、単にクエリとぴったり一致するページだけでなく、その関連ページにも直接アクセス可能にすることで、検索体験の全体的な改善を図ろうというものだ。とりわけ過去に当該サイトを訪問した経験があり、おおよそのサイトの情報構造を把握しているユーザ(つまり再訪問クエリ)にとって便利だと感じられることもあるだろう。
後者のリッチスニペットは、検索結果のスニペット(説明文)欄に、レビューの件数や評価(☆マーク)、レビュー投稿者や製品の価格帯など、ユーザーに便利で有益な情報を表示する拡張機能だ。Web サイト運営者は、microformats や RDFa などのセマンティックマークアップを用いて構造化データを作成し、それを該当ページ内に埋め込むことで対応できる。※
※ リッチスニペットの表示はランキングアルゴリズムで決定するため、構造化データに対応しても必ず表示されるとは限らない。
商品購入の意志決定時に、当該商品やサービスを購入した他の消費者の声を参考にしたいという人は少なくない。検索結果上にあらかじめレビューの概略情報を表示することで、購入判断の材料になる情報がリンク先にあることを明示することが可能となるため、クリックスルーの向上が期待できるケースもあるだろう。
Bing 日本版もクラスタリング検索機能を実装
日本国内で現時点で検索シェアは小さいものの、Yahoo! との検索事業提携によって注目を集める Bing(ビング) 日本版も、米国ですでに提供していたウェブグループ(Web Groups、いわゆるクラスタリング検索)に一部対応することで、私たちが当たり前に考えていた「検索結果1ページあたり10件表示」の概念が崩されようとしている。
たとえば「相武紗季」と検索すると(2009年11月20日15時時点)、検索結果の左側には「CM」「ブログ」「水着」「掲示板」「壁紙」「ニュース」といったカテゴリが表示され、これをクリックすると検索結果はリスティング広告枠と自然検索枠含めて変化する。これは現時点で都市名や人物名、イベントなどのクエリに対応している模様で、「沖縄」と検索すると「旅行」「天気」「ダイビング」「ホテル」「土産」などのカテゴリが表示される。
同じジャンルであってもクエリの性質に応じてグルーピング項目も変化する。同じ山に属するクエリでも「富士山」と「阿蘇山」が、同じく場所でも「静波海岸」と「浜名湖」、アニメであれば「クリリン」「ヤムチャ」「ベジータ」など、他にも「札幌時計台」「東京タワー」「東京ディズニーシー」など、クエリのカテゴリや検索意図(Query Intent)ごとに適した項目を表示するようになっている。
さらに、Bing はこのウェブグループ機能を検索結果のランキング表示領域にも適用し、「リンクの一覧・羅列」を捨て、ユーザが必要な情報に迅速にアクセスできるような工夫を試みている。
たとえば検索クエリ「沖縄」を例にとると、自然検索1~5位は普通に並ぶが6件目以降は「沖縄 旅行」の見出しと該当結果3件、次に「沖縄 天気」と該当結果3件、「沖縄 ダイビング」と~(以下、略)といった具合に、入力したクエリ(この場合は沖縄)に対する結果を羅列するのではなく、該当クエリを検索した人が連続して再検索することが多い組み合わせキーワードの結果を表示するようになっているのだ。
Bing の ウェブグループについて、「Yahoo!JAPAN や Google の関連検索ワード」と同じではないか、あるいは検索業界に詳しい方であれば、かつて AlltheWeb や Vivisimo などが提供するクラスタリングと同じではないかという人がいるかもしれない。しかし、Bing の ウェブグループは、それらとは異なる。
Yahoo!JAPAN や Google の関連検索ワードは、クエリベースまたはクロールベースで、頻繁に組み合わせて出現される言葉を表示する方法を採用している。過去の検索エンジンのアプローチは、検索クエリにヒットする文書を集めて、その中に出現する言葉から組み合わせを自動的に抽出している。
このため、表示されるカテゴリが検索ユーザーにとって、すなわち、目的の情報に迅速にたどり着けるか?という基準から見ると必ずしも適切な分類表示が行われるわけではなかった。
対する Bing は、ユーザーの検索行動や検索クエリの属性、直前直後のクエリを分析して、ジャンルごとに代表的な、かつ情報探索に役立つカテゴリが表示されるように開発・整理・分類されている。
Bing 米国版は「自動車」「製品」「都市」「スポーツ」「人物」「エンターテイメント」「旅行」など、とりわけ検索タスク量が多いジャンルのクエリに対して、グルーピングが適切に行われるようにデザインされている。したがって「Wii」と検索すれば修理や販売店、周辺機器(アクセサリ)などのカテゴリを表示する一方、旅行クエリであれば観光地や天気など、旅行関連の検索実行時に同時に求めるであろうカテゴリが表示されるようにチューニングされている。
日本版はまだ「Bing ベータ版」と表記されているように開発中であるが、いずれ正式リリース時には Yahoo!JAPAN や Google と十分に競争できるレベルまで仕上げてくることが期待されよう。
リスティング広告、SEO にどんな影響が出てくるか?
さて、直近2か月だけを見ても、検索エンジンはこのように、検索エンジンマーケッターにとって影響が大きい変更(進化)を遂げている。こうした変化によって何が変わるのだろうか?
Bing は検索結果がグルーピング表示されること、グルーピングの見出し、あるいはカテゴリをクリックすることで検索結果が変わることになるので、リスティング広告のキーワード出稿戦略やクリエイティブはそれを意識した対応をする必要があるだろう。SEO の観点からは、過去に散々繰り返してきたので割愛するが、まさしく Bing のこの方式も、SEO の効果測定指標におけるランキングの意味を大きく下げることになる。※
※ 意味がないわけではない。ランキング“だけ”見るのは危険である、ということ。
いつまでも「SEO=リンク」ではない
Google の検索結果の進化は、いまだに一部の SEO 担当者が信じている「リンク張っておけばいい」の考えが時代遅れになることを意味する。
検索結果 UI に関する Google の最近の変更はいずれも、外部リンクをいくつ獲得するかという話ではなく、いかに Web サイトのアーキテクチャを整えるか、機械が読み取れるような構造化が行われているかに尽きる。
同じ検索意図を持つキーワードのバリエーションの中から数個のみを取り出し、そこに対して大量リンクを貼り付ければ SEO は十分、という時代がすでに過ぎ去ろうとしていることは、今回取り上げた技術の進化1つを見ても読み取れよう。
リッチスニペットについては、現時点でレビューと製品価格帯しか対応していないが、いずれ範囲が広がる。不動産やエンターテイメント、eコマースなどのメディアはいずれ対応が必須になってくるはずだ。
最近は Twitter などのストリーム Web やソーシャルメディアなどの興隆によっても SEO の戦略・戦術を再定義することが求められているが、検索技術そのものの進化も、SEO を実施するための領域が大きく拡大し、単に狭義の意味での SEO(いかにリンクを上手に活用するか)だけでは、たとえランキングが上位にあっても見込み顧客を呼び込むことは困難になってきているということを認識してほしい。
執筆:株式会社アイレップ SEM 総合研究所 所長 渡辺隆広