SEMリサーチ

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SEOのロングテール戦略とコンテンツマーケティングの話

SEO はWebサイトの発見性(Findability)を高めるもの

クリス・アンダーソン(Chris Anderson)によって提唱された「ロングテール」という言葉が注目を集めていた時代から、SEO の基本的な戦略は「検索回数が多いものから少ないものまで、メジャーなものからニッチなものまで多種類の検索クエリで集客できる Webサイトを構築すべし」です。ここではロングテール戦略としておきます。

なぜヘッドからテールキーワードまでカバーすべきかというと、それは検索ユーザーの検索行動は複雑で多種多様だから、つまり検索行動特性故に、SEO = ロングテール戦略がベースになっている「はず」なのです(日本市場は例外だよねという話は横に置いておいて)。大抵の場合、Webサイト運営者が想像するよりもずっと多種類の様々な検索クエリで来訪してくるユーザーが多数を占めているものです。

ともかく「この前提」なしにロングテールを考えてしまったために本来期待していた成果が得られないというケースを最近、いくつか目にしました。要因を分析していきますと、そのヘッドからテールまで様々な検索クエリで集客ができる Webサイトを構築したいと考えた時に、『それは一体、誰のために行うのか』をきちんと意識していたのでしょうか、というところに問題の本質があるのではないかと考えました。

SEO は三者の利益を考えるべし

あなたが公開している情報を、誰かが今まさに探しているのであれば、瞬時に検索エンジンという媒体を通じて届けてあげるに越したことはありません。つまり、検索を通じた見つけやすさ、発見性(ファインダビリティ、findability)を高めて、欲しい情報を、欲しいタイミングで何時でも検索から発見できれば、検索利用者も幸せですし、そのサイトを運営しているあなたも幸せでしょう。そして両者の橋渡しができる検索エンジン会社も幸せです。

検索エンジンが理解しやすい、正当な評価を与えやすい優れた Webサイトと、そこを通じて優れたコンテンツを継続的に発信すれば、その情報を受け取る検索ユーザーも、情報を発信する Webサイト運営者自身も、そして優れた情報マッチングを世の中に提供できる検索エンジン会社も、この三者全員の利益になります。だから SEO の戦略・戦術を考える上では、自らの利益だけでなく、検索のエコシステムに関与する人々の利益も考慮することが最終的に自らの利益になるということを覚えておくとよいでしょう。

検索行動とカスタマージャーニーとSEOの戦略

ところで「発見性」とは、検索回数が多い特定検索語句のみで順位を上げることで担保できることでしょうか。VPSサーバを提供している会社であれば、検索クエリ「VPS」で順位を上げることさえできれば、『あなたの潜在顧客にとって』あなたの Webサイトの発見性は高いと言えるのでしょうか。あるいは、IIJmio、mineo、OCN、ぷらら、So-net といったISP各社が提供する、三大キャリアと比較して低料金で利用できる通信サービスを望む人の全てが「格安スマホ」で検索して即座に申込や問い合わせをしているのでしょうか。

そんなことはありませんよね。

例えば、「格安スマホ」。繰り返しますが、皆が「格安スマホ」と検索して、そこに表示されたいくつかの会社を見て申込完了などという行動はしないのです。このあたりの知識がない人ほど、最終的な申込にたどりつくまでに、様々な検索を繰り返し、様々なウェブサイトの情報を見て学習し、いろいろな比較・検討・評価をして意思決定を詰めていきます(いわゆるカスタマージャーニーというやつ)。この過程では、「白ロムとは」「simカード nano micro」「mvno」「docomo 違い sim」「au sim 差せる」「白ロム [機種名] 中古」「[機種名] simフリー」「sim 料金 違い」 etc... カスタマージャーニーの過程で、様々な知りたいこと、調べたいことが頭の中に浮かび、それが検索クエリとして入力され、また情報へアクセスしていく…ということが繰り返されるわけです。

ヘッドからテールの検索クエリまでロングテールをカバーすべし…というSEOにおけるロングテール戦略は、こうしたカスタマージャーニーを俯瞰したうえで、彼らが検索を何度も繰り返し、その段階毎の情報接触点において、ブランドとの接触・交流機会を構築する(検索を通じていつでもあなたのサイトが発見され、必要な情報提供や教育・啓蒙・認知の機会をつくる)。そうすることにより、オンラインにおけるレピュテーションやブランドも構築できる、SEO を通じて事業を成長させることが可能になるのだ、というところが本質です。先の例でいえば、生活者は最終意思決定をするうえで悩むのですから、それぞれの悩みに応じた接触機会、対応するコンテンツを用意すればいいでしょうということです。

検索ユーザーと検索クエリの分析をもとにロングテール戦略を考えるべき

繰り返しになりますが、検索利用者の検索意図もクエリも多様であり、ラストクリック(最終コンバージョンが発生する段階)に至るまでに何度も検索を行っているという「検索利用者の行動実態」があるからこそ、ラストクリックばかりに目を向けずに、もっと「前の段階」にいるユーザーとの接触機会を得る、そこにいるユーザーに検索を通じた価値を創り出すことが重要であると。そのためには、ロングテールの検索を意識した対応をすることが大事ですよね、というのが本来の話のはずです。

その上で、ロングテールの検索クエリ群を拾っていくためにはその検索意図を踏まえたコンテンツが用意されていなければならないけれど、せっかくなら(SEO だけじゃなくて広告や広報PR、ソーシャルも視野に入れて)戦略的に取り組みましょうよということで出てくるのがコンテンツマーケティングですよね。

それにもかかわらず、最近は「コンテンツマーケティングをすると、様々な検索クエリでの集客ができます(だからコンテンツ作りましょう)」という目的と手段と結果を混同した誤解をされている、その前提で相談をされる方が増えてきたように思えます(そういう営業しているところは単にコンテンツマーケティングでお金儲けしたいだけなのでしょうけれど)。流入検索クエリのバリエーションを増やすこと自体が目的ではないはずです(※ それ自体がKPIとして設定される場合はある)。

実際、ロングテールとSEOとコンテンツマーケティングの話題について書かれている方も、コンテンツの話とロングテールの話は出てくるのに、検索クエリや検索行動の話に言及していないことがあります。検索エンジンマーケティングにおいて検索利用者やクエリに言及せずにロングテールを語ってどうするのでしょうか。

※ コンテンツの企画・戦略の過程で検索クエリの分析も行われるから、結果として検索ユーザーの行動分析は行われているのではないか、と捉えることもできると思います。しかし、コンテンツ企画のためのクエリ分析と検索行動理解のクエリ分析は微妙に違います。また、その両者の違いを理解されている方なら、なおさら検索行動分析の重要性も理解されているはずで、そこへの言及なしに語らないでしょう。

この発想だと、コンテンツを増やすこと自体が目的で、その結果として流入検索クエリのバリエーションも増える(つまり自然集客増)となるのですが、そもそものオーディエンスの定義と彼らのカスタマージャーニーや購買行動の分析なきまま、単に文字数増加や確かに商品やサービスの説明だけれども「情報」以上の価値がないコンテンツ施策を行ってしまうために、せっかく取り組んだにも関わらず大した成果が得られないという問題を招いています。

事業分野やビジネスモデルによって、実は検索クエリのロングテールが存在しないものがあるので、そういったケースにおいて検索クエリのバリエーションを増やしても、やはり本当に欲しかった成果が手に入らないでしょう。

ビジネス一般に当てはまることですが(ここでは検索エンジンマーケティングを前提にする)、ターゲットとするユーザー、そのユーザーの検索行動、特性、クエリ、購買サイクル(カスタマージャーニー)、自社の製品、位置づけなど、市場を分析・理解して仮説をたてたうえで戦略を考えなければなりません。最近は Google のおかげ?でコンテンツに取り組まなければならないという意識を持ち始めた方が増えているものの、やはり、目的が明確になっていない、手段が目的化してしまっていることが多いように見受けられます。

おまけ:おもしろ事例

地方のとある知り合いがネットショップを運営しているのですが、その方がある業者にコンテンツマーケティングで順位を改善しますという業者に仕事を依頼したところ、取扱商材と全く、1ミリも関係ない妖怪ウォッチ関連のコンテンツが大量に納品されてきたそうです。なぜ妖怪ウォッチなのかと業者に問い合わせたら「皆が検索しているから上位に表示されれば流入も増える、さらに妖怪ウォッチ関連の情報はニーズがあるから Google にスパムと判断されない、妖怪ウォッチというニーズが高い情報を掲載すればサイトの価値があがる」という回答があったそうで、なるほどねー(困惑)と思った次第です。ここまで酷くなくても、「関係ありそうで全然関係ない」「ターゲットキーワードに関連する文字列の塊が納品されるだけ」というケースは時々目にするようになりました。

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