PPCを単純にネット広告の1選択肢として捉えるだけでは他のメディア媒体よりも高コストに終わることになる。SEM - 検索エンジンマーケティングという見地から活用する事が大切。ROIを重要視しよう。
オーバーチュアやアドワーズ広告といった広告型検索エンジン(ペイパークリック型検索エンジン、以下 PPC (Pay Per Click))が日本でも市場を広げつつある。2002年春より SEO (Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)という言葉が登場した当時は日本にはPPCは存在しなかった。先日は米FindWhat が日本進出を発表するなど、1年半の間に日本の検索エンジン市場は大きく様変わりした。
ただ、PPCというシステムを利用した検索エンジンマーケティング(以下、SEM (=Search Engine Marketing)を活用できる環境は整ったものの、PPCを最大限に生かし切れている企業はまだ少ない。多くの企業は PPC バナー広告やメール広告と同じように捉え、単に検索エンジン上に広告を「垂れ流している」だけである。
PPC はペイパークリック、つまりクリックされた回数分だけの広告費用を支払えばよいわけだが、いいかえれば費用対効果 (ROI)を明確に出す事ができるサービスでもある。それにも関わらず ROI を度外視した PPCキャンペーンを展開している広告主が圧倒的なのが現状だ。例えば PPCプロバイダーであるオーバーチュアはwEBサイト上で投資効果(ROI)測定ツール や広告投資効果測定ツールなど非常に便利な提供しているが、ほとんどの広告主は活用できていないだろう。
単に目新しい、バナー広告やメール広告に変わる代替媒体として PPC を選ぶだけでは PPC の効果を最大限に引き出す事はできない。単純に「検索結果の上位に表示させる事ができる」「SEOのような面倒なウェブサイトデザインの変更はいらない、検索エンジン対策の代替手段」というとらえ方では決して実りある効果を得ることはできないのだ。
PPCを利用するのであれば、その利用目的、目標(ゴール)を定める事だ。何の為にPPCを利用するのか?例えば会員の獲得なのか、メルマガの購読者数を増やすことなのか。あるいはセミナーへの参加登録を行いたいのか、サービスや商品の購買に結びつけたいのか。PPCにより集客した顧客に対して何のアクションを求めるのか、それを明確にしておく必要がある。
この目標が決まらなければ PPC で何のキーワードを登録すればよいのか、どのような広告を掲載する事が望ましいのか、そもそもPPCに対してどの程度の予算を割り当てるべきなのか、1クリックあたり最大いくらまで支払う事ができるか等、PPC運用における詳細を決定する事ができない。
なお、PPC の利用目的は一番最初、PPCプロバイダーの選択(オーバーチュアか?アドワーズか?)以前の段階で明確にする必要がある事も付け加えておく。メディア力の弱いズバケンネットはさておき、オーバーチュアもアドワーズも同じ Yahoo!ジャパンに掲載されるためどちらでも構わない(広告代理店の言うがまま)という広告主が多いが、ある特定利用用途においてはオーバーチュアのみを選択(アドワーズでは広告掲載しない)した方が望ましい事があるし、またある条件の下ではアドワーズのみを選択した方が費用対効果に優れている事があるからだ(この点については後日触れたいと思う)。
さて、PPC の利用目的を明確にした上で初めて次の段階に進む事ができる。次は PPC に配分する広告予算だ。PPC は実際にクリックされた分だけの支払いで済むが、PPC に対して最大いくらの予算を割り当てるのか、上限金額だけは決めておく必要がある。後日のコラムで触れるがPPCを初めて実施する段階では多くの「テスト」作業が発生する為、少しだけ予算を多めにとっておいた方がいいかもしれない。
PPC の利用目的と広告予算、この2つを決めておく事で次以降のステップをスムースに進めていくことができるようになる。例えば利用目的を明確にする事により PPC で利用すべきキーワード範囲を決める事ができる。また広告予算をあらかじめ決定しておくことでキーワードボリュームや最大CPCの値も求める事ができるようになるからだ。目的と予算を設定しておくことで一貫性ある PPCキャンペーンを展開できる前提が整うのである。
PPC実施のポイント
PPC の効果を上げていくためには PPCキャンペーン実施において次のような点をよく考えて運用していく必要がある。なお、多くの場合 PPCキャンペーン開始から暫くの間は「試行錯誤」の連続である。色々なキーワードや広告を試しながら、効果のないもの、効果のあるものを探し出していく。ここが PPC が広告主にとって負担になる部分であるが、同時にまたこの試行錯誤を行う時間を有意義に活用することでPPCキャンペーンの成果も大きく変わってくるだけに、少しでも時間とエネルギーを費やしたい部分でもある。
キーワード選定
SEO でも PPC でも、SEM領域に属するマーケティングキャンペーンではキーワード選定というプロセスは非常に重要な意味を持つ。ある意味 PPC におけるキーワード選定は SEO以上にキャンペーンに影響を与える可能性がある。PPC市場の先進国である米国で1週間に50万以上をPPCに投じたのに利益が1円もでなかった、といった話が少なくない。これはキーワードの選定を誤った典型である。
PPC は人気キーワードのCPCは高くなってくる。複数の広告主がいればできるだけ上位に掲載されるように CPC 単価が上がってくるからだ。しかしそのキーワードを検索エンジンで利用するユーザーの要求と広告主が提供する情報がマッチしなければそのクリックは無駄となる。特に「単一キーワードの方がアクセスを集められるからいい」という誤った概念を持ったWebマーケティング担当者の多い日本の企業では既にオーバーチュアやアドワーズの利用で大きな損失を発生されているのではないだろうか。PPC におけるキーワード選定は SEO とは異なるプロセスで選定を行う。ターゲットユーザーにフォーカスする為に「広すぎず、狭すぎない」キーワード選定が必要となってくる。
広告の掲載場所と表示順位
PPCプロバイダーであるアドワーズとオーバーチュアは広告の配信先が異なる。両者とも Yahoo!ジャパンに掲載されるが、オーバーチュアは goo, インフォシーク、MSN、NIKKEI.NET、フレッシュアイにも掲載されるのに対してアドワーズは BIGLOBE、エキサイト、@NIFTY である。日本のサーチエンジントラフィックの状況を考慮すれば、Yahoo!ジャパンと Google を押さえる - つまり選択としてはアドワーズのみか、アドワーズとオーバーチュアの組み合わせとなろう。
表示順位は注意が必要だ。PPCプロバイダーの広告配信先サイトでは、1クリックあたりの支払金額の高い上位広告主のサイトしか検索エンジンの上位(上部に設置された広告枠)には表示されない。例えば Yahoo!Japan の上部に設置された広告枠にはCPCの高い上位4社のみ(上枠の場合)の掲載だ。
掲載内容(広告の見出し、説明文)
オフラインに出す広告と異なりオンライン広告においては掲載した広告以外にも情報はたくさんある。PPC であればアルゴリズム検索によって表示される検索結果の情報も画面上には表示される。配信先ポータルサイトによってはバナー広告やスカイスクレイパー広告もひしめくだろう。従ってPPCにおける広告はユーザーの関心や興味をひく - ユーザーに「クリックしたくなる」情報を掲載しなければならない。
広告のリンク先ページ
PPC においては掲載した広告をクリックした時のリンク先を自由に設定できる。掲載した広告の内容とリンク先の情報が一致する限り自由である。PPC によって誘導したユーザーに対してサイト内で求めるアクションによってリンク先ページをどこに設定するかを決定しなければならない。
クリック単価の設定
ユーザーの誘導に対して最大1クリックあたりどれだけの広告料金を支払うのか。ROI を考慮した時に赤字になるような CPC を設定するべきではない。自分が希望するキーワードの CPC が割にあわないのであればあきらめて他の周辺キーワードを探す手も考えなければならない。
広告効果を常に念頭に
PPC を運用しながら随時費用対効果やコンバージョン率の計算を行い、そのPPCキャンペーンが適切なものであるかを常に監視していく必要がある。上手くいかないのであれば、それはキーワードの選定に問題があるのか、掲載している広告の内容に問題があるのか、それともキーワードとそれに対応して表示する広告の組み合わせが悪いのか。あるいは誘導した後のサイト内でのアクションを求める為の導線に問題があるのか。原因を洗い出しながら修正を行っていく必要がある。明確なPPCの目標を持って行うことでこれらが可能となるのである。
※注 本文における略語はそれぞれ次の意味です。SEO = Search Engine Optimization 検索エンジン最適化。ロボット型検索エンジン対策の事を指します。PPC = Pay Per Click (Search Engine)。ペイパークリック検索エンジン、アドワーズやオーバーチュアといった広告料金を支払う事で検索エンジンの上位に表示できる広告システムを指します。SEM = Search Engine Marketing 検索エンジンマーケティング。検索エンジンを広告媒体の1つととらえ、検索エンジンからの集客を最大限にするための活動を指します。SEO も PPC も、 SEM を行うための1手段です。
(2003/03/15 執筆 / 2003/10/01 改訂 / 渡辺隆広)