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Google - 日本語の壁を乗り越え圧倒的シェアを守れるか?

NTT-X 及び Google との間でWeb検索に関する技術開発及び広告販売で提携を結んだ事が発表された。両社が目指すのは「日本語で最も検索しやすいエンジンの実現」ということだが、これは Google が日本市場で確固たる地位を安定させるための重要な布石になるかもしれない。

海外産ソフトウェアを日本に持ち込む際に常に問題になるのが日本語処理だ日本語という言語が持つ特有の問題を解決しなければならない。特に検索サービスという言語そのものを取り扱うサービスを提供すればなおさらのことだ。表記のゆれ、送りがなや略語の取り扱い、アルファベットと違い単語間にスペースのない「分かち書き」、それを解決する形態素解析の技術など高品質な検索サービスを提供する上では超えなければならない課題は多い。

過去、多くの日本国産のWeb検索エンジンが存在した。infoseek、Excite、goo、hole-in-one, Lycos、infonavigator, ODIN, Dragon, WAVE Search, NETPLAZA - しかし今でも存在するのは goo と infoseek のみだ。多くの検索エンジンが満足に日本語の問題を解決した高度な検索サービスを実現することは成し遂げられず、その間に Google や FAST、Inktomi といった海外製の検索エンジンが市場に参入し、そして Google によって駆逐されていった。

しかし日本市場で圧倒的なシェアを誇る Google でさえ、日本語の問題を解決しているわけではない。PageRank 技術や高度な検索アルゴリズムの採用により国産検索エンジンより遙かにクオリティの高い検索結果をユーザーに提供できるようになったものの、例えば「引っ越し」と「引越」といった検索ユーザーの求める情報は同じでも異なる検索結果を表示してしまう「送りがな」の問題や、「ルイビトン」と「ルイヴィトン」の違いを吸収して検索結果を提供する「表記揺れ」の問題には対処できていない。また検索ワードに限らず、検索アルゴリズムに実装されている機能そのものも欧米圏には十分に対応できる性能を持つのに日本語を上手に処理できない為、Webページの評価方法が満足な水準にならないといった問題もある。

米Yahoo! が 米Altavista、米FAST の Web検索技術部門、そして米Overture を買収し、米MSN も自社製のアルゴリズム検索エンジンの開発に膨大な費用を投資、そして米Amazon もeコマース検索技術開発の会社を設立するなど、検索業界における競争が激化している今、Google も全く安泰ではない。技術革新が進み変化の激しいネット業界において、現在の成功が数ヶ月先の地位を保証するわけではないのだ。それは日本市場でも例外ではない。日本国内ポータルサイトの場合、競合関係 - Yahoo!JAPAN との競争上、infoseek や goo、Excite といった主要ポータルサイトが Google 以外の検索エンジンに乗り換える可能性は極めて少ない。しかし、もし Yahoo!JAPAN が Inktomi に乗り換えを行った場合、Google は多くのシェアを失ってしまう。Yahoo!に集中する日本市場においては、他ポータルはともかく Yahoo!JAPAN に検索エンジンを提供するか否かは事業の死活問題にも関わる。

ただし、日本市場においてはどの会社も技術革新によってシェアを逆転できる可能性を秘めている。それは、日本市場においては日本語処理を解決したプレーヤーは存在せず、この「日本語処理問題」が検索技術市場における各社共通の制約要因となっているからだ。この制約要因を克服し、クオリティの面での検索サービスの向上を達成できた時、ユーザーの支持を集めて市場を固めることができる可能性が十分にある。 - Google はそこに目をつけた。

ZDNet Japan によると「12月1日からgooでサポートされる新規機能も、Googleが欲しがっている日本語による検索技術を利用しているが、当面はgooだけで使える独自機能として扱われる予定になっている。」という事で、当面の間 Google と goo の検索技術を組み合わせた新しい検索エンジンは goo のみの提供をなっているという。しかし、「NTT-Xの中嶋孝夫社長は「NTT-XとGoogleで共同開発した技術はGoogleの検索エンジンに反映されることもある」と認めている」(日経バイトより)とある通り、将来的に現在の提携関係が拡大され、NTT-X の日本語処理技術が Google 検索サービス本体に取り込まれる可能性は十分にある。

Google とすれば、NTT-X との技術提携により高度な日本語処理技術を取り入れて、それを日本国内市場に投入すれば今以上にユーザーの満足度を高める事ができるだろう。さらに、今後もし米Yahoo!の Inktomi検索技術が日本に本格投入されても、既に Google を採用している各種ポータルサイトに乗り換えられるリスクを減らす事もできる。Yahoo! については米Inktomi買収により採用するアルゴリズム検索を Google から Inktomi に切り替えるのではという話はあるが、検索エンジンの切り替えは最終的に各地域の Yahoo!にゆだねられているといい、「Inktomiに切り替えても現在と同等の検索サービスを提供できるのであれば」が基準だといわれている。これを日本市場に当てはめた時、少なくとも日本語Web検索サービスとして Inktomi/Overture の検索システムより高性能であることを実証できれば、Yahoo!JAPAN への検索エンジン提供を継続する実現性も高く、現在のポジションを守る事ができる。

一般にポータルサイトが検索サービスを提供する上での提携先検索エンジンを選択する基準は、検索サービスの質の高さだ。実際、9月の infoseekや Excite による Google 採用や、Lycos が WiseNut を採用した時、Yahoo! が goo をやめて Google を採用した時もすべてポータルサイト側の担当者はその採用基準として検索サービスの質 - つまり検索結果精度の高さをあげている。Google そのものの検索エンジンとしての性能の高さは認められているわけで、これに日本語処理技術を取り入れられれば「日本語で最も検索しやすいエンジンの実現」は夢ではない。

goo としても、独自に完全な検索エンジン開発の道はあきらめたものの、同社のいう「フロントエンド」と「バックエンド」のうち「フロントエンド」部分の技術開発会社としての生き残りを計ることができればという計算もあるだろう。Google が日本語処理問題を解決していないのは熟知しているし、また NTT-X は少なくとも日本語処理技術においては Google より遙かに高い技術を持っている。両者の弱みを違いに補完し「Googleのフロントエンド開発会社」としての地位を確保しつつ他社に対しても goo + Google の新検索エンジンを提供できるのであれば悪い話ではないはずだ。

NTT-X は 国産検索エンジン goo を諦めるとはいえビジネス的にはむしろ日本語処理技術と検索技術の融合により現在より前進することができ、また Google にとっても日本語処理技術の獲得ができ、両者にとって意義深い戦略的提携だといえよう。

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