円滑にSEOを導入・実施するための組織体制を構築しよう、サイトの運営モデルで変わるSEOの実施方法 からの続き。最終回。
企業がスムーズにSEOを実施するにあたって、必要なポイントをまとめよう。
社内にSEO担当者を設置する
SEOをインハウスで行うにせよ、アウトソースするにせよ、必ずSEOを理解し、管理・統括できる人材を社内に配置しよう。検索連動型広告においても同様だが、アウトソースするからといって100%広告代理店に丸投げするのが最悪のやり方だ。
SEM や広告代理店は、SEO や検索連動型広告においてクライアント企業よりも当然、多くの知見やノウハウを有する一方、クライアントのビジネスモデルや社内事情を100%理解しているわけではないし、そのマーケット特有の事情も把握できているわけではない。過去に蓄積された彼らの SEM ノウハウに基づいてなされた提案が、100%あなたのマーケットや企業に適合するとは限らないのだ。同様に、具体的な外部リンク対策として提案されたものをそのまま実行できるとは限らないし、逆にマーケット特有の商慣習ゆえに実現可能なSEOの対策が存在しうるのに提案されないこともある。
たとえば、EC サイト運営支援関連の ASP サービスの場合、ASP を利用するネットショップのサイトは、安全な決済機能を提供していることを宣言するために「私たちは○○○○社の決済サービスを利用しています」といった文言を掲載していることがよくある。実はこの文言にリンクを設置し、ASP 提供企業に張り巡らせることにより、(ASP 運営企業は)利用者が増えれば増えるほど外部リンクを増やすスキームを構築することができる(実際、これをやっている ASP 提供会社は多い)。これは、米 Intel が PC メーカー向けに実施した「Intel Inside」キャンペーンの手法にSEO要件を追加した形式をとっている。このように、ビジネスモデルやマーケティング戦略によって、少しの工夫で活用できる方法はたくさんある。
こうした施策の可能性を創り出すには代理店だけでは不可能で、代理店の提案を受けつつ、社内調整を行い、その会社だからこそ実現できる手法を見いだしうる、SEO の基本を理解した担当者が求められる。
また、事業部ごとに運営サイトやコンテンツ管理の範囲が異なる場合は、コンテンツやデザイン設計時には常に一旦、SEO 担当者に集約して、その部署がジャッジをするという組織を作ることも必要だ。例えば米 Intel は、同じブランドでありながら個人、法人、教育市場担当で部署が異なる場合、同一キーワードでの順位を事業部間で争う「社内競合」が発生したり、事業部によってレイアウトやリンク設置要件が異なるためにサイト全体の資産を生かしたSEOを十分に実施できない問題を抱えていた。こうした問題を解決するために、全部署を統括する SEM 専門チームを設置し、サイト制作側や社内調整を行いながらSEOのベストプラクティスをまとめる手法を導入している。
社内全体にSEOの理解を求める
SEO は自分の管轄部署内の Web ページだけの変更によって成立するとは限らない。SEO のパフォーマンスを最大限に引き出すためには、広報・PR が管轄する IR/PR サイトに手を加える必要があるかも知れないし、もしかしたら全くかかわりのない別の事業部の管轄、あるいは子会社が運営するサイトに対する変更が必要な場合もある。
これは、ある1つの Web ページの変更や、ある特定範囲のナビゲーションの変更がサイト全体の最適化度合いに影響を与える場合がたびたびあるためだ。たとえば、あるカテゴリ配下のページのタイトルタグに適切なキーワードを設定することで、他の多数のキーワードの順位が上がることはあるからだ。
したがって、熱心なあなたの部署がSEOを導入しようと思っても、それを実現するには他事業部との折衝が必要なケースは往々にして出てくる。もしその事業部が全く関心なければきっと協力はしてくれないだろう。したがって、会社の経営層に対してSEOの理解を訴え、もし導入するなら単事業部でなく会社全体で取り組む、協力してもらえるよう理解を求めていく必要がある。
ベストプラクティスのガイドラインをまとめる
タイトルタグの変更は例外として、大抵の場合、SEO は特定のコードや内部リンクを変更したからといって必ずしも絶大に自然検索からの集客が増加するというものではないし、もしかしたら(ターゲットとした、特定の)キーワードの順位は全く変わらないかもしれない。したがって、1つ1つの変更要件と効果を数値化して費用対効果を算出するのが非常に困難な特性を持っている。それゆえに、大企業がSEOを実施したくても「変更コストに対する成果が明確でないからダメ」といわれ計画が頓挫することもたびたび耳にする。
この意思決定の導き方はSEOにおいて導入すべきではない。A~Z までの26の施策があった時、1つ1つの施策では目に見える効果はないかもしれないが、26の施策の積み重ねによりサイト全体が最適化され、検索エンジンからの流入が増えることもある。
つまり、SEO とは、検索エンジンが理解・評価されやすいサイト構築の技術であり、検索エンジンにとって適切なこと、ベストプラクティスを1つ1つ積み重ねることで実現するものだからだ。「継続して、はじめて効果を発揮する」ゆえに、1つ1つを切り出して費用対効果を求めようとしたら、SEO は何も実行することはできない。
こうしたSEOに対する考え方はもちろん、組織が大きければ大きいほど、担当者に対して検索エンジンの重要性や対策の方法を教育する必要があるし、彼・彼女らの日々の業務において守るべき項目を簡潔にまとめ、随時それを参照しながら作業してもらうスキームを整える必要もある。そこで、社内の関連担当者への教育と同時に、サイト運営において「守るべき事項、実施すべき事項」をまとめた社内用ガイドラインをまとめ、それに則ってサイト運営を行っていく仕組み作りが必要だ。例えばユーザビリティについて用件をまとめている企業は多いが、それと同じことをSEOでも実現する必要がある。
以上、組織が大きな企業がSEOに取り組むために最低限必要な事項をまとめた。これからSEOの導入を検討している企業の担当者がいれば、参考にして頂きたい。
執筆:株式会社アイレップ 取締役 SEM 総合研究所所長 渡辺隆広