はじめに
前職では最大限に活用したけれど現状は活用していない私のスキルのひとつがSEOの競合サイト分析です。このサイト分析手法をテーマにしたSEOの書籍が書けそうな気がするので、その検証のために書いた文章が本記事です。
この記事は、サイト分析を効率的かつ効果的に行うために必要な「目の付け所」をテーマに上級者向けに編集しています。
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サイト分析はSEO方針を決めるために欠かせないプロセス
SEOを実施するうえで必ず実施する業務のひとつがサイト分析です。担当するサイトの現状把握のための分析はもちろん、同業界の他のサイトの分析(競合サイト分析)も求められます。市場、自社、競合、この3つを理解することで適切な自社サイトのSEO施策方針を決めることができます。
このサイト分析は事業会社、代理店いずれの立場でも必須ですが、とりわけ後者は対応する件数が前者のそれとは桁違いの多さになります。寄せられたSEOのお問い合わせに回答するために都度分析は必要ですし、もし具体的な提案段階になればその相談者に加えて同業他者のサイト分析も行って的確な提案書を作成することになります。
私も昨年末まで勤めた前職(広告代理店)ではSEOのお問い合わせ一次対応(サイトの現状分析、相談内容への対応、検索順位低迷の原因特定、ざっくりとした方針の回答を営業向けに用意する)を10年以上行っていたので、この業務だけでも相当な数のサイト分析を経験したことになります。
サイト分析業務の課題(代理店の場合)
SEO会社や広告代理店にてSEO関連のお仕事されている方は、業務のひとつとしてサイト分析もされていると思います。
ところで、みなさんは相談1件あたりの分析を完了するまでに、どれくらいの時間を必要としますか?
たとえば SEO会社勤務の方であれば、以下の回答をテキストで用意するために、どれくらいの時間を要しますか?
- お問い合わせ企業のサイトの現状把握
- SEO 観点の課題(数点)の指摘
- 業界のトレンドおよび主な競合サイトの状況把握
- ざっくりとしたSEO施策方針
事業会社の方であれば、競合企業を1つ取り上げて、その企業のSEO実施状況、もしその競合がSEOに注力しているなら現在進行形のSEO施策の全体像を把握するのにどれくらいの時間を必要としますか?
前職の7〜8年ほど前に業務の生産性を定量評価する一環として、新卒入社1〜3年目程度のSEO担当者がサイト分析 1件にかける時間を計測したことがあります。担当するサイトの規模やSEOとしての難易度にも左右されますが、一定品質を満たす分析業務の完了までおおよそ5〜6営業日程度でした。まったくの未経験で入社後にSEOに触れた新卒1〜3年目の社員であれば、どの会社であれ平均的な時間だと思います。
サイト分析 1件あたり平均 23分
サイト分析時間を計測したのは、当時の私のサイト分析能力と、入社1〜3年目程度の人のそれとを定量的に比較するためでした。だから社内のメンバーにアサインした対象サイトを私自身もこっそり分析して、それにかかる時間を計測していました。
その結果がこちらです(数値はざっくり記載しています)。
タスク:お問い合わせ企業のサイト現状分析、SEOが上手くいかない原因指摘、競合の状況、SEOの大方針の提示、以上を営業担当者が把握できる程度にテキストでまとめる
計測したサイト分析件数 48件
平均分析完了時間 23分
最短分析時間 3分(4件)
最長分析時間 65分(1件)
あきらめ件数※ 1件
※ フィーを頂かないと割に合わない高難易度だったため、あきらめた
世間一般のSEOスペシャリストがサイト分析に要する平均的な時間がまったく見当つかないのですが、おそらく世間の平均よりはちょっとだけ速いのではないでしょうか。
この業務は私が現場の勘を鈍らせないために自発的に行っていただけなので、他の業務が優先です。だから最短の時間で最も効果的な課題指摘ができるように頭をフル回転させながら時間効率を追求していきました。
サイト分析を効率よく行うためのアドバイス(上級編)
有効性を損なわずにサイト分析を高速に実行するために、私なりにさまざまな工夫をしています。この記事では、私が特に意識している3つの視点について紹介します。
想定読者
数多くのサイト分析を行わなければならないSEO担当者(主にSEO会社や広告代理店勤務の方を想定)
目的
・分析精度は落とさずに、分析時間を短縮するための思考方法や着目点を学ぶ
難易度
上級者(「目の付け所がおかしい」とよく言われるため)
分析の視点(1):存在する課題の見当をつける
Webサイトをブラウザで開いた瞬間、「どこに課題がありそうか仮説をいくつも立てられる」ことが重要です。市場、事業構造、オーディエンス、検索行動特性 - 以上4つの情報を頭に浮かべることで、SEOの阻害要因が存在しそうな箇所の見当がつけられます。
SEOのサイト分析はいわば、広大な土地のどこかに埋められた10円玉サイズの宝物をノーヒントで探し当てるようなものです。そのままノーヒントで歩き始めても宝物を探し出すのは不可能でしょう。ところがSEO担当者の多くが、サイト分析を行うときにまさにこの状態 - どこに目をつけたらいいかわからずになんとなくサイトを見始める - で業務を続けるから分析に多大な時間を消費することになります。
繰り返しますが、最初に問題がありそうな場所の見当をつけることが、分析時間の短縮に必要です。見当をつけるためには、たとえば次の情報を頭のなかで整理することから始めます。
・取り扱い商材を理解する
取り扱うアイテムの内容と数量を把握します。たとえば「クレジットカード」であればYMYLサイトに該当するため厳しくE-A-T の視点で診断する必要がありますし、「レンタルWiFi」であれば競合のなかには少々やんちゃな会社が存在する前提で技術手法を詳細に把握するという視点が生まれます。取り扱い件数が数十万件のアイテムであればDB型ですからカテゴリページや商品一覧ページの設計や情報設計(IA)に注意して分析する、求人情報ならページの賞味期限が存在する --- こんなふうに、取り扱い商材から重点分析範囲を決められます。
・事業構造を理解する
ユーザーとの接触点からサービス(販売)完了までのフローやビジネスモデルを把握します。同じ商材を扱っていても「販売」「買取」「レンタル」「ダウンロード」といったトランザクションを把握できればアイテムページ(個別詳細ページ)に求められる構成要件も変わるので、必然的に注目すべき範囲が決められます。
・ユーザーと検索行動特性を理解する
商材それぞれに特有の検索行動を把握します。たとえば旅行関係であれば「旅行 沖縄」「羽田 那覇」「ANA 那覇」それぞれの検索は、まったく異なるタイミングで検索されます。家具やリフォームは検索クエリデータで見ても現実のオンラインユーザーの行動がまったくわからないことを知っていれば、分析の方法も変わります。こうした予備知識も、課題の検討をつける参考になります。
分析の視点(2):「SEOのやる気度」を計測する
これは競合サイト分析において私がSEOキャリアを通じて心がけていることです。あるサイトを分析するときに、その企業がどれだけSEOを重視しているか、力の入れ方を推し測るようにしています。つまり、全然やる気がない会社のサイトであればあちこちに基本的なSEOの問題が存在するでしょう。一方、SEO激戦区として有名な業界で、その企業も明らかにSEOに力を入れている兆候があるなら、基本的なSEOはすべて実施されているという前提で、よりテクニカルな改善点に意識を向けながら分析をすることになります。
初心者でも真似できるSEOのやる気を見分けるポイントは、たとえばタイトル要素の設計、カテゴリページや商品一覧ページのファーストビューの構成、ページのヘッダー左上とフッター中央に配置された情報を確認することです。
ちなみに私は、分析対象サイトのSEO担当者の有無、担当がいる場合は担当者名、役員にSEO好きがいるか、SEOを外注しているなら請け負っている代理店名などの情報も参考にしていました。SEO業界は案外狭いので、会社ごとのインハウスSEOチームの有無や外注先SEO会社名など案外簡単に知ることができます(実際、代理店を離れてからこういった情報と接する機会は減りました)。
分析の視点(3):SEOツールを使わないで分析する
「とりあえず SEMrushやAhrefsといったツールに分析対象サイトのURLをいれる」というSEO担当者は少なくないでしょう。しかし、私はこの方法を採用しません。
理由は、何の仮説も持たずにSEOツールが表示するデータを見ても時間の無駄だからです。初期分析程度に必要なデータであればSEOツールを使う必要性すらありません。
サイト分析の段階では、検索順位を把握したければ順位取得ツールを使うのではなく自分で検索して検索結果画面を見て確認します。外部リンクもツールを使うのではなく、次の検索式で検索結果画面を見ながら探します。
検索式:"分析対象のURL" -site:"分析対象のURL"
※ この検索式を使うと、外部からのリンクや言及しているページを表示できる
初期段階は「ツールを使わずに検索結果画面を自分で見る」ことがポイントです。検索結果画面を実際に見ているほうが、SEOの課題にたどり着くヒントが見つけやすいからです。一方、順位取得ツールを使うと自社・競合関係を数値でしか把握できず、分析のための糸口がかえって見つかりにくいのです。Ahrefs や SEMrush は仮説も持たずに膨大なデータを目にしても非効率です。
決して最初から最後までSEOツールを使わずに分析せよという話ではありません。提案書を作成する段階になったら、相応のデータをクライアントに提案したほうが望ましいでしょうからツールを使って業務を効率化します。あくまでサイト分析業務の生産性を最大限に高めるという目的を達成するうえでツールは必須ではないという話です。
ちなみに前半で紹介した私の計測対象とした分析件数 48件のうち、ツール(Ahrefs)を利用したのは1件です。それ以外は、上記の検索式で検索結果を深掘りしながら分析の手がかりを発見してアウトプットを作っています。
最後に
サイト分析は、ただ闇雲にソースコードを見たり、SEMrushやAhrefsといったツールで取得したデータを眺めても課題は見つけられません。トップページから順番にページを開いてもダメなのです。市場、事業、ユーザー、検索行動、この4点を踏まえて「SEOの問題がありがちなところはどこか」と対象範囲を最初から絞ることが分析業務の効率化で欠かせません。仮に見当が外れたら振り出しに戻るわけですが、それも分析で得られた結果の一つです。そこから仮説を立て直していきます。