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Google、検索アルゴリズムの更新「Helpful Content Update」を実施 検索エンジンファーストで作成されたコンテンツを標的

人間ではなく検索エンジンのために作成された、役に立たないコンテンツや満足度が低いコンテンツの評価を調整することを目的とした検索アルゴリズム更新「Helpful Content Update」(HCU)の情報について随時更新していきます。

一般的な情報は本ページに、詳細解説は SEMリサーチ+(プラス、有料版)に掲載します。

目次

 

Helpful Content Update 概要

Search Engine Land によると、米Googleが新しい、大きな検索アルゴリズムの更新を行う予定。呼称は「Helpful Content Update」(HCU)。このアルゴリズム更新は、比較的大量の満足度の低い、あるいは助けにならないコンテンツを持つウェブサイトを標的としている。

We continually update Search to make sure we're helping you find high quality content. Next week, we'll launch the “helpful content update” to tackle content that seems to have been primarily created for ranking well in search engines rather than to help or inform people. This ranking update will help make sure that unoriginal, low quality content doesn’t rank highly in Search, and our testing has found it will especially improve results related to online education, as well as arts and entertainment, shopping and tech-related content. [Google公式ブログ "More content by people, for people in Search" より]

コンテンツ品質評価のアルゴリズムを更新する理由として、近年、ネットを中心に指摘されてきたGoogle検索結果品質の低下が挙げられる。日々、仕事やプライベートで検索を利用していて、内容のが薄っぺらで紋切り型のコンテンツを目にして不満を持った経験がある人もいるだろう。近年、インターネット上でGoogleの検索に対する批判的な意見を目にするようになった。HCUは、その問題に対処する Googleの回答と捉えられる。

アルゴリズム更新の実施時期

2022年8月18日時点で「来週ロールアウト」とのことなので、8月22日の週。更新完了まで約2週間ほど。

なお、HCUを事前告知した理由として John Mueller氏はサイトオーナーが検索面の露出変動を調査し、Googleが変更した可能性がある内容を確認できるようにするためと説明している。

2022年8月25日に全世界・英語圏を対象にロールアウトされました。

Released the August 2022 helpful content update. The rollout could take up to two weeks to complete.

こちらはJADE・長山さん。

8月25日にロールアウトされました。約2週間かかる見込みです。

 


対象検索エンジンと言語

検索エンジンは「Google」、種類は「ウェブ検索」、国・言語は「米国」。他言語向けは今後リリース予定とのこと。

今回は日本が含まれていない。最近のGoogleのグローバル展開の傾向を踏まえると、2022年10月~2023年3月くらい?(勝手な予想 訂正:@tsuj さんご指摘ありがとうございます。時間感覚がなく、いま8月下旬だったこと失念してました。年内はないと思う。来年のいつだろう?)。

また、Google Discover については不明。詳細判明次第ここに追記する。 は今回は対象外とのこと。ウェブ検索のみ(2022年8月21日時点)。


HCU 対象範囲

サイト単位(sitewide)。ページ単位ではない。おそらくサイト全体を見渡して比較的大量の、検索エンジンのために作成された低品質コンテンツを一定値以上抱えているサイトが標的になるということ。「一定値」の具体的数値はもちろん不明。

米GoogleのDanny Sullivan氏によると、HCUは原則としてサブドメインと主ドメインは別個のものとして判断するが、多くの要因に基づいて判断するためそれは保証されない。たとえば、あるサブドメインの低品質なコンテンツが影響するのはそのサブドメインの範囲に限られるかもしれないが、その限りではない。

HCUに関連するシグナルは重みづけされるので、サイトによってHCUの影響度合いが異なります。検索エンジンのために作成された役に立たないコンテンツが多ければ、より深刻に検索パフォーマンスに影響します。

HCUが標的とするコンテンツの種類

Google公式やSearch Engine Land に対象コンテンツの種類が記載されているので、引用する。

Online educational materials. (オンライン教育教材)
Arts and entertainment. (エンターテイメント)
Shopping. (ショッピング)
Tech-related. (テック関係)

・・・具体的な名称は書かないことにする。SEO関連のお仕事をされている方なら、日本語サイトで言えばどんな企業・サイトがアップデートの影響を受けそうか予想できると思う。あのサイトとか影響受けそうですよね!?

For example, if you search for information about a new movie, you might have previously seen articles that aggregated reviews from other sites without adding perspectives beyond what’s available elsewhere. [Google公式ブログ "More content by people, for people in Search" より]

ある商品やサービスについて他のクチコミサイトやTwitterから適当に引用しているだけで、そのコンテンツの著者自身の意見や考察がない --- つまりオリジナリティがない --- ページは検索エンジンのためのコンテンツの代表例であり、上記4領域で頻繁に見られるコンテンツでもある。

買い物するために検索すると、「2023年最新おすすめ~」や「【2022年】 おすすめ25選~」といったキャッチーなタイトルながら中身はどのサイトも似たり寄ったりなページが検索結果を占拠している。加えて、当該製品の利用経験がないばかりか興味すら持たないであろうライターが書いた、適当に商品説明と写真とネット上のレビューを切り貼りしただけのページばかりで、うんざりした経験があるだろう。

事実、こうしたページは、検索結果の上位に表示されていたページを元にリライトという名のもの、段落や言葉を入れ替えただけの実質コピーコンテンツであることが多い。

これらのページは検索エンジンファーストで作成されており、訪問者に何の価値も提供しない。Googleが具体的に挙げた4領域はとくに低品質なコンテンツが多い領域であり、ここにメスが入ることになる。

 

HCUがこうしたコンテンツをどこまで排除できるかにも注目。

John Mueller氏によると、最初のHCUではあらゆる種類の低品質なコンテンツが影響するわけではないとのこと。将来的に安心できるという意味ではない。

 

HCU 検出の仕組み

機械学習の活用。

(詳細判明次第追記)

This means that some people-first content on sites classified as having unhelpful content could still rank well, if there are other signals identifying that people-first content as helpful and relevant to a query. The signal is also weighted; sites with lots of unhelpful content may notice a stronger effect. In any case, for the best success, be sure you've removed unhelpful content and also are following all our guidelines. [Google Search Central Blog "What creators should know about Google's helpful content update" より]

今回は珍しく踏み込んで解説している。

(それくらい低品質コンテンツが問題であるというわけで・・・)

John Mueller氏による機械学習モデルのシンプルな回答。

 

 

「低品質」と判定されたときの影響範囲と期間

手動対策ではなく、アルゴリズム(機械学習モデル)で低品質と判定された場合に、サイト全体に適用される。この場合、仮に問題となるコンテンツを削除しても、再評価されて検索パフォーマンスが戻るまで数ヶ月かかるとのこと。

「うちは影響受けるかもしれない」と不安な方は、まず英語圏でのロールアウト後の情報を収集し、リスクが高いそうなものは事前に対応する検討をしてもいいかもしれない。

 

HCU に備えたウェブマスターの対応

HCU にそなえたウェブマスターの対応について。

ユーザーファーストのコンテンツ作成に注力する

The helpful content update aims to better reward content where visitors feel they've had a satisfying experience, while content that doesn't meet a visitor's expectations won't perform as well. [Google Search Central Blog "What creators should know about Google's helpful content update" より]

このあたりは昨年私が出版した書籍に記載している話なので、そちらを読んでいただけたらうれしいです。コンテンツデザインの思考方法が参考になるはずです。

コンテンツデザインとは「ユーザーがタスクを完遂するために必要充分な情報を、最適な形に整えて提供すること」です。このフレームワークに沿ってコンテンツ設計することで、自然と意識をユーザーに向けることができます。SEOのためのコンテンツ作成と決別したい方は、ぜひご覧下さい。

www.sem-r.com

以下の質問にすべて「はい」と自信を持って答えられるか

Googleは改めて"Focus on people-first content" を記載しているので、私の適当な日本語翻訳とあわせて紹介する。

Focus on people-first content
人のためのコンテンツに注力する

Do you have an existing or intended audience for your business or site that would find the content useful if they came directly to you?
事業やサイトに対する既存または意図した読者がいて、仮に彼らが直接アクセスしてきたとき、あなたのコンテンツが有用だとわかるか?

Does your content clearly demonstrate first-hand expertise and a depth of knowledge (for example, expertise that comes from having actually used a product or service, or visiting a place)?
コンテンツは、専門性や知識の深さが明確であるか。たとえば、製品を実際に使用したり、ある場所を訪問したことで得た専門性を示しているか。

Does your site have a primary purpose or focus? 
あなたのサイトは、主な目的や注力(領域)があるか。

After reading your content, will someone leave feeling they've learned enough about a topic to help achieve their goal?
コンテンツを読んだあとに、目的を達成するためにそのトピックについて十分に学べたと感じられるか。

Will someone reading your content leave feeling like they've had a satisfying experience? 
コンテンツを読んだ人は、満足のいく体験ができたと感じられるか。

Are you keeping in mind our guidance for core updates and for product reviews?
Googleのコアアップデートと製品レビューのガイダンスに留意しているか。

[Google Search Central Blog "What creators should know about Google's helpful content update" より]

参考までに、私が広告代理店時代にクライアント様とSEOのお仕事する時に使っていた3つの基準も紹介しておく。

  • 「あなたが抱えていた疑問を解決してくれるページですか?」
  • 「将来不安を持ったとき、再びこのページに訪問したいと思いますか?」
  • 「知人が自分と同じ悩みを抱えていたとき、あなたはこのページを共有したいと思いますか?」

つまり、役に立つサイト、良い体験をしたと思ったサイトは将来も再び訪問したくなるものですし、知人にも共有したいと考えるもの。だから、自分が役にたったかどうかはもちろん、再び訪問したいか、知人に共有したいか。この3点で有用性を判断するといい。

HCU に関する注意事項 (2022.08.20更新)

テクニカルな”抜け道”を探そうという発想が生まれた人こそ要注意

HCUの発表を受けて、検索アルゴリズムの不備を逆手にとって技術的な抜け道を探そうという発想をしてしまった人は、考えを改めて欲しい。その発想自体が、Googleが求めているユーザーファーストと真逆にある。

これはサブドメインと主(ルート)ドメインは基本別個扱いだという John Mueller氏の回答に対して「サブドメインとサブフォルダは同じじゃないの?」という返信をしたTwitterユーザーに対する米Google社員・Danny Sullivan氏のコメントだ。私も正直、その反応をしたユーザーの思考回路が全然理解できなかった。

HCU更新予告を受けて慌ててコンテンツを削除しても間に合わない

HCUは更新に数ヶ月を要する。つまり長期間に渡りデータを蓄積して、それを更新タイミングで検索に適用する仕組みだ。だからGoogleからの更新実施事前告知が直前の場合、そのお知らせをうけて慌てて低品質の疑いがあるコンテンツを削除しても、その作業が反映されるのは次々回のHCU更新時ということになる。

たとえば2022年8月下旬実施のHCUは、直前の8月19日(日本時間)に発表された。この発表を受けて一部の英語圏のウェブマスターが低品質なコンテンツを消し始めたものの、この成果が反映されるのは8月下旬のHCU(1回目)ではなく、数ヶ月後になるであろうHCU(2回目)となる。

本項目を執筆している2022年8月20日時点で、HCUの日本語適用がいつになるかわからない。しかし、日本語への適用が発表された時点で動き始めたら(おそらく)日本向け第1回のHCU更新には間に合わないことになる。

もし過度に検索エンジンを最優先したコンテンツを大量生成してきた覚えがあるならば、8月下旬の英語圏の様子を観察したあとに、問題になりそうなコンテンツを見直すなどの事前対応を早めに実施することを考慮しても良いと考えられる。

低品質の判断を勝手な価値観で判断してはいけない

経験上、コンテンツ品質を個人の勝手な(偏った)価値観で判断して、価値のある情報まで削除してしまう事例を数多く見てきたので注意喚起を兼ねて説明する。

コンテンツの品質判断を客観的に行う作業は、実は難しい。理由は2点ある。第1に検索エンジンが考える理想を考えなければいけないこと。第2に、サイト運営の目的や、数々の発信情報を通じてユーザーに届けたい価値を定義できていなければ品質の判断は行えないことだ。一つずつ説明していこう。

1点目。検索アルゴリズムは、人間の制御を受けずに完全独立・自由に検索意図とコンテンツの関連性を判断しているわけではない。検索エンジンは人間の手により開発されたものであり、彼らが考える検索の理念や理想が検索結果に反映されるようにプログラムされている。

つまり、「低品質」「有用性が低い」「役に立たない」を考える時には、あくまで「検索各社(組織)が、どんな要件を満たすコンテンツがユーザーに役立つ・役立たないと考えているのか」という基準で検討しなければならない。自分の勝手な価値観でコンテンツの切り捨てを行ってはならない。私たちは程度の差はあれど皆バイアスを持っているからだ。あるいは、単なる "Not for me"(自分には合わない)を低品質と混同してはならないと言い換えてもいいだろう。

検索エンジン開発者も私たちと同じ人間であり、最大公約数のユーザーを前提に考えている。だから到底受け入れがたいような価値基準を設定していることは決してないし、至極合理的な基準が設けられていることが大半だ。だから、コンテンツ精査にあたり、そのトピックの専門家であれば大抵のものは検索エンジンが求める基準で判断ができるだろう。

問題なのは、現状、多くの企業が非専門家に効率性優先でコンテンツを制作させているため、コンテンツの整理整頓をしようにも基本的な価値基準すら設定できず、適正に作業が進められないことだ。この場合は、そのトピックに明るい人材を抱える編集プロダクション会社や広告代理店など外部に支援を求めることも考えなければならない。

2点目。品質を判断したいなら、まず自分自身の基準を持たなければならない。たとえば私はこのサイト(www.sem-r.com)を次の目的で運営している。

事業会社のSEO担当者や、SEO の勉強をはじめたばかりの企業ウェブマスターに向けて、 SEO技能の教育・育成・啓蒙に貢献するコンテンツを提供し、自分自身で SEO の意思決定を行えるようにする(SEMリサーチのミッション・ステートメント)

サイト運営者が「サイトを通じてユーザーに届けたい価値は何なのか」「サイトを通じて来訪者にどうしてほしいのか」という理想がなければ品質を議論することはできない。言い換えれば、こうした目的が設定され、それを実現するために一貫性のあるコンテンツマーケティングが実施されていれば低品質なコンテンツ発信を自ずと食い止めることができる。

上記の例でいえば、私はあくまで事業会社で仕事するSEO担当者をターゲットとしていて、アフィリエイターは想定読者から除外している。また、SEOの教育・啓蒙が主目的であるので、中長期的に大切な思考方法を提供するが小手先のテクニックは言及しない。このように「自分がやるべきこと」と「自分がやらないこと」、「伝えたいこと」と「伝える必要性がないこと」を明確にすることでメディアでフォーカスすべき領域や品質水準が決められる。

現状、SEOドリブンで検索エンジンのためだけのコンテンツを作り続けている企業は、こうしたユーザー価値を軸とした目的を設定していないからゴミのようなコンテンツを延々と作成し続けている。「いや、私たちはSEOで集客するという目的をもっているぞ」と仰る方がいるかもしれないが、それは手段であって目的ではないし、ユーザー価値が何ら考慮されていない意味のないものであること自覚しなければならない。

 

総合解説

※ ロールアウト後の影響範囲や影響を受けたサイトの種類などの新しい情報は後日追加します

もはや広告代理店側の人間ではないのでこのイベントを気楽に楽しむことができます。まず、業界動向を踏まえた全体的なお話からこのアップデートを考えます。

Googleが10年以上取り組んでいる「コンテンツ品質評価」の一連の動きにすぎない

SEOの世界を26年以上見てきた私の目で見ると、HCUは後年振り返ったときには重要なイベントとして扱われると思います。しかし、個人的にはどうでもいい話とも考えています。

なぜなら、業界を激変させるかもといった意見を表明している一部のSEO専門家もいますが、そもそもコンテンツ品質評価の動きは10年以上前から継続していることです。加えて、検索およびSEO業界を巡る近年の動向を踏まえれば「予想できたGoogleの次の一手」だったとも言えます。

実際、私は約10年前に次の記事を書いています。

www.sem-r.com

近年も次の記事でSEOコンテンツと称するものを批判してきました。

www.sem-r.com
共起語に依存すると検索エンジンのためのコンテンツ作成に陥りがちであり本質を見失うからやめたほうがいい、という指摘もしてきました。

www.sem-r.com


検索エンジンのためのコンテンツ作成は当時からずっと続いています。2011年のパンダアップデート当時から何一つ変わっていません。ようやくGoogleが検索技術的にこの問題に対処する目処がついたということでしょう。

 

歴史を振り返ると、

(1) 2003年9月の「Florida Update」、2011年2月の「Panda Update」と約10年ごとに大規模なアルゴリズム更新が行われていること

(2) 著名ジャーナリストやインフルエンサーから検索品質の課題について指摘が相次ぐタイミング*1で(つまりSEO専門家じゃない人からも指摘されるような状況になる頃には)問題を解決するためのアルゴリズム変更が行われやすい傾向があること。

以上2点から、米国在住の知人と「次に大きなアルゴリズム変更があるなら今年だよねー」と話していたところでした。

さて、今回の Helpful Content Update は検索業界の歴史を俯瞰すれば大したお話でもありません。Googleが10年前から何度も話している「高品質なコンテンツを検索しやすくする」(≒低品質なコンテンツの検索結果露出を抑制する)継続的な取り組みの一環です。でも「ユーザーのために役立つコンテンツを継続発信する」なんて SEO云々の問題じゃなくて、当たり前の話です。

SEOは1990年代に「せっかく優れたコンテンツを発信してもユーザーに発見してもらえない」という課題を解決するために生まれた発想です。ユーザーの役に立つコンテンツを作成することは前提に、どうやって適切なタイミングで、適切な人に検索プラットフォームを通じて届けるかを考えることがSEOの出発点だったのです。私自身が1997年にSEOを仕事として始めたときもこの発想ですし、その後お会いした世界中の当時の専門家からもそう学びました。

ところが現在は、SEOの手段としてコンテンツを作り、検索エンジンのためにコンテンツを大量生成している人ばかり。それが検索品質低下の一因にもなっている。役に立たない検索サービスなんて誰も使いたがりません。Googleの立場からすると、ただでさえ検索起点がAmazon や TikTok、InstagramやTwitter に奪われているのに、現状を放置すればユーザーの Google離れが加速します。それに対応するのが今回の Helpful Content Update です。

話を本題に戻します。残念ながら、検索エンジンのためのコンテンツを大量生産しているオペレーションを整備している企業は少なくありません。昨年末から今年にかけて私は転職活動をしており、さまざまな企業のSEO責任者の案内を受けました。しかし、その99%は即効で興味がない旨の返信をして終わりました。募集ポジション名がSEOなのに、実態はただの(高校生でもできそうな)単純文章作成作業*2だったからです。

日本に限った話ではなく、検索エンジンによる集客が意味を持つ国では「キーワード調査ツールを使ってコンテンツを作るオペレーション」でSEOをしている企業が非常に多く、同時にその大半が今回HCUが標的としている「検索エンジンのために作成された、ユーザーの助けにならないコンテンツ」を意図的に(あるいは無意識に)作成している現実があります。

この状況を招いたのは、「コンテンツSEO」といった言葉を掲げてあたかも大量に情報発信すれば検索順位が上がると営業活動してきた一部の悪質なSEOサービス提供事業者やコンサルタントにも責任があるし、SEOを投資ではなく単なるプロモーションと捉え、低い倫理観で何の疑問も持たずにユーザーではなく検索エンジンのためにコンテンツを作成することに集中してきた事業者側の双方に問題があると考えています。いずれも自分の都合や利益のことばかり考えて、検索利用者の利益を考えずに突き進んだ結果です。

もっとも「人のためのコンテンツを作れ」といわれてもお金にならないものに投資しない企業側の論理も理解できます(同意しませんが)。お金になる領域 --- 広告を通じてお金に変換しやすいトピック --- で検索集客強化のためにコンテンツを大量生産するインセンティブが働くのは仕方ありません。そこは事業会社のメディアの目的や使命に対する強いコミットメントでもって誘惑をはねのけなければいけないのですが・・・。

どこまで低品質コンテンツを排除するのか

HCUの影響範囲とされるコンテンツの種類として挙げられた「オンライン教育教材」「芸術と娯楽」「テック関連」「ショッピング」は、いずれも検索エンジンファーストな低品質コンテンツが氾濫している領域です。いずれも広告によってお金になりやすい、かつ、大量情報作成のオペレーションがしやすいという共通項があります。

普段のGoogle検索品質に大きな不満を持っている方なら、上記4領域に該当する具体的なサイト名称を挙げられると思います。名前と顔写真を掲載してあたかもそのトピックの専門家が解説しているように見せかけながら、実態はただの名義貸しで大学生が書いているサイトは少なくありません。転職活動の過程でそういった企業をいくつも見てきました*3。HCUが日本語展開されたら、こうしたサイトの検索順位が調整されるか注目しています。

個人的には「検索エンジンファーストで作成されたコンテンツ」のうち、具体的にどの範囲・種類のコンテンツの検索パフォーマンスが低下するかに興味があります。

検索エンジンファーストの低品質コンテンツといっても手法の幅が広いです。おそらく自動翻訳やGTP-3 を使ったAI生成コンテンツといった、英語圏で広く氾濫している低品質コンテンツは直接影響を受けると思います。

一方、たとえば某メディアがやっている適当なオンライン投票に基づいた「○○○人気キャラクタートップ3」といった量産型の薄っぺらいシリーズ企画が影響するのか。某店舗の新作・人気商品を毎回紹介したり、スポーツ試合のある場面だけを切り取り、InstagramとTwitterの声をまとめながら事実だけを伝えるといった、いわゆる「こたつ記事」は影響するのか。あるいは、金融業界の某領域で観察される、大手から中小に至るまで取り組んでいる「ユーザーは絶対にそんな膨大な情報を求めていないだろう」というくらい何の役に立たない1万文字超の長文(Long-form content の質が悪いやつ)は影響を受けるのか。モバイル通信・端末系ではネットワーク知識のないド素人が記事を書いているために専門用語を使っているけれど間違いだらけの記事が検索上位を占めているけれど、果たしてこれらは一掃されるのか。

個人的には答えが記載されていない「いかがでしたか」系は影響あってほしい(願望)。

HCUで検索結果品質は改善されるのか

正直、短期的にはマシにはなるけど品質改善されないと考えています。理由は2つ。第1に、結局のところ高品質な情報を発信する人が増えなければ検索結果の品質も変わらないからです。第2に、Googleが効果的にAI生成コンテンツとそうでないコンテンツを見分けられるとは思えません。

残念ながら、高品質なコンテンツがそもそも存在しない領域やトピックが存在します。たとえば人事・労務・保険関連の一部の領域は、検索上位30件のほぼ全てがSEOのためだけに作成されたページで占拠されています。今回のアップデートでこうした検索の品質が改善するのでしょうか。もし改善されるのであれば、いったいGoogleはSEOのためのコンテンツとユーザーのためのコンテンツをどこで線引きするのでしょうか。

結局のところ、今回のアップデート予告はウェブマスターへの心理的不安を与えること、SEOドリブンなコンテンツ制作を抑止する意味もあるのでしょう。そして、アップデートが展開されたとき、人のためのコンテンツ作成に注力させるに十分なほど適切に低品質なコンテンツを排除できるかにかかっています。

SEO事業者やSEO向けコンテンツ制作事業者への影響

”コンテンツマーケティング” --- 文字通り、コンテンツを活用してマーケティングを支援する --- を生業としている企業は何の心配もいらないでしょう。影響を受けるのは、SEOドリブンなコンテンツ制作を請け負っている事業主です。

コンテンツマーケティング関係を請け負っている事業者でも、適切な専門家やプロのライターが社内にいる、あるいはパートナー人材(企業)として抱えており、綿密な調査に基づいて高品質なコンテンツを納品している企業は心配する必要はないと思います。あるいは、学生といってもそこそこ調査分析能力がある優秀な大学生あるいは大学院生を組織化しつつ、マネージャーが適切に管理できているような企業も影響は軽微でしょう。

もっとも、そんな会社はごく一部です。大多数のキーワード調査ツールで抽出したキーワードを含むコンテンツを素人ライターに執筆させて納品しているだけの企業は大打撃を受けると思います。

実際、誤字脱字だらけだったり、ネットの記事を継ぎ接ぎコピペした著作権を蔑ろにしたコンテンツを平気で納品してきたり、「いまのGoogleアルゴリズムはコンテンツ品質なんて気にしなくていいから」と提案の場で明確に言い放ったり、「他社が10件載せているから、15件載せましょう」といった何の論理的根拠もない施策を平気で提案してくるSEO会社(いずれも実話)は業務改善をする良いタイミングだと思います。

客観的に業界全体を見たとき、SEO関係者が大きな勘違いをしているのは次の点です。「Googleが考える『ユーザーにとって有益なコンテンツ』とは何か」は考慮すべき点なのですが、多くの人がこれを「Googleが考える『アルゴリズムが好むコンテンツ』とは何か」と誤った認識・解釈で仕事に取り組んでいることです。後者のように意識の対象をアルゴリズムに向けてしまうから無自覚にゴミコンテンツを量産することになるのです。

アルゴリズムに意識を向けたほうが頭を使わずに一連の工程を進められる(安価な大学生アルバイトや新卒社員で仕事が回せる、高スキル社員が不要*4)メリットがありますが、読者の満足度が下がるのは明らかです。だからSEOの仕事する上では各自のモラルが大切になってきます。

コンテンツマーケティングに取り組む事業会社への影響

先日のはてなさんでのウェビナーで解説しているので、こちらの記事を参照ください。

business.hatenastaff.com

誰でも作業ができる、オペレーション化したい気持ちはわかりますが、専門知識を有さない人たちを組織化してコンテンツを継続発信しても誰も幸せにならない。

ある分野の専門家が必ずしも優秀なライターであるとは限らないので、執筆者自体が専門家でないケースは許容してもいいでしょう。その場合、せめて発信情報の品質担保をする仕組みは社内で整えるべきです。

 

Helpful Content Update 詳細分析・解説は SEMリサーチ+ をご覧下さい

Google Helpful Content Updateについて詳細な分析記事をご覧になりたい方は、SEMリサーチ+を参照してください。

 

SEMリサーチ+ Google Helpful Contet Update詳細解説
https://plus.sem-r.com/entry/2022/08/19/121820

※ 「SEMリサーチ+」 はアクセスキーをお持ちの方のみ閲覧いただけます


参考:

HCU を学ぶための有用な他のオンラインリソースを紹介する。
Google’s new helpful content update targets sites creating content for search engines first
https://searchengineland.com/googles-new-helpful-content-update-targets-sites-creating-content-for-search-engines-first-387237

What creators should know about Google's helpful content update 
https://developers.google.com/search/blog/2022/08/helpful-content-update

More content by people, for people in Search
https://blog.google/products/search/more-content-by-people-for-people-in-search/

Google’s helpful content update – what you need to know
https://www.mariehaynes.com/googles-helpful-content-update/

Google’s Helpful Content Update Introduces A New Site-wide Ranking Signal Targeting “Search engine-first Content”, and It’s Always Running
https://www.gsqi.com/marketing-blog/google-helpful-content-update-new-ranking-signal/
Google’s Helpful Content Algorithm Update: Hypotheses from 23 Years of SEO Experience
https://www.seerinteractive.com/blog/helpful-content-google-algorithm-update/
Google 検索ランキングの更新
https://developers.google.com/search/updates/ranking

Google の Helpful Content Update って他のアップデートと何が違う?元 Googler に一問一答で聞いてみた。
https://blog.ja.dev/entry/blog/2022/08/22/helpful-content-update

 

*1:2000~2002年にPageRankの仕組みを踏まえたスパムリンクが問題になったところで2003年にFlorida Update、世界中のフリーランスを活用して毎日大量情報発信するDemand Mediaの登場など、検索品質問題が指摘されはじめた2008~2010年を経て2011年のPanda Updateなど、歴史を振り返るとみんなが声を上げ始める頃にはGoogleが動いている。今回は、2018年頃から自動翻訳やAIを悪用したコンテンツ生成、キーワード調査ツールから適当に作成される低品質コンテンツといった課題についてコンテンツマーケティング業界やSEO業界からも指摘が相次いでいた。検索エンジンの歴史を学んでおくと、こういった未来予想もそれなりの根拠でできるようになるので、是非みなさんも歴史を学んでください。

*2:ちなみに私は日本企業と外資両方のSEOポジションをいろいろ探していたのだが、日本企業のSEO人材募集が特に酷い。外資はテクニカルSEO系、コンテンツ編集系、総合系など幅広い募集があるのに日本企業はコンテンツ作成が大半を占める。言い換えれば、大半の日本企業はSEOの重要性も本質も何ら理解していないということだ。投資ではなく宣伝活動という表面的な理解しかないから戦略設計やテクニカルなアプローチできる人材の必要性がわからないのだろう。

*3:大学生が執筆すること自体が必ずしも悪いわけではない。20代の化粧品やファッション、高校受験や大学生活といったトピックや Everyday expertise な事柄であれば大学生は適当だろう。問題なのは、一度も体験したことがない商品やサービスのレビューをさせたり、専門性を有しないトピックについて学生に執筆させることだ

*4:実際にコンテンツ作成のアルバイトをしている大学生に話を聞くと「自宅で仕事ができるし生活費も必要だからやっているけれど、正直、読者の役に立つのか疑問に感じている」と答える学生の方もいます。学生バイトについては、それをオペレーションにしている企業の問題だと考えています。

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