SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

Standard SEOシリーズ第二弾『脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版]』発売によせて

Standard SEOシリーズの二冊目を発売します

コンテンツマーケティングをテーマにした『脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版]』です。二冊目が出たから「シリーズ」を名乗る条件を満たせました、うれしい!!(喜ぶところがそこなのか)。

 

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脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版] 渡辺隆広

脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版] 渡辺隆広

 

この記事では、近年のコンテンツまわりを巡る私の問題意識、この書籍を通じて皆様に届けたいことについてまとめます。


文章が書ける人と書けない人の、意識の違い

私はアイレップに入社してから、社外に発信する情報の品質確認業務も行っていました。ネット広告代理店として間違った情報や、誰も内容を(日本語的に)理解できないような恥ずかしい記事を出すわけにはいきません。確認段階で文章を校正したり、時にはリライトを求めたり、理由を明示したうえで掲載を見送ったり。社員が執筆した数百もの記事を読んできました。

この経験を通じて気がついたことが1つあります。それは、文章が書ける社員は執筆依頼されたとき、トピックを選ぶと同時に、誰に、何を伝えるかを決めて文章を書き始めたに違いない傾向があること。一方、文章が書けない社員は、トピック選びそのものに集中して、伝える相手や伝える内容に考えを巡らせない傾向が強いことです。

なぜなら「この原稿、結局あなたは何を言いたいの?」と質問を投げかけたとき、例外なく前者の人は即答できるけれど、後者は答えられないんです。文章は誰かに何かを伝えるためのものなのに、後者は、会社から執筆しろと言われたから忙しいなか仕方なく「日本語書いてみました」という印象を受けます。


辻さんが楽しめるかどうか

私は記事を書くとき、いつも特定の誰かを思い浮かべながら、その人に何を伝えたら楽しんでもらえるかという基準で全体構成を考えています。

たとえば私のSEO関連の記事や書籍は、想定読者をSEOの神様である辻正浩*1さん1名に設定して、彼が楽しんで学んでくれるかどうかという、ただ一つの基準で執筆に取りかかります。よく知っている人物を想定して何をどのように伝えるか考えるほうが、ストーリー全体の流れも、話の順序も明確に決めやすいのです。辻さんにあわせるとSEO好きな人の需要は間違いなく満たせるから便利な尺度なんです*2

もちろん内容や難易度によって相手はさまざまです。新卒1年目の社員にSEOの基本的な考え方を学んでほしい場合、過去の新卒の誰かの状況を想定して執筆します。クライアント向けの内容であれば、特定の企業担当者の最近の発言を思い浮かべながら書きます。経営陣がSEOわからなくて推進が難しいというインハウスSEOのテーマを扱うなら、身近なそういうダメな人を想像します。

スキルや理解度、立場の異なる実在人物をペルソナデータとして蓄積しており、目的と届ける相手に応じて選択しているというイメージです。ちなみにこの記事は、新しい書籍発売にあわせて、私がこのテーマで書籍を執筆した背景や問題意識と解決案を伝えることで、現場での仕事に疑問を持っている人に書籍を手に取ってもらえたらいいなと考えています。

情報を発信するときは、何について、誰に、何を、どのように伝えたいかをセットで考えることが大切です。


SEOの手段としてのコンテンツは誰にも届かない

コンテンツを使ってマーケティングするという「コンテンツマーケティング」ではなく、単にSEOの手段として、かつての外部リンクと同じ感覚でコンテンツの大量生産に勤しんでいる組織も、根底にある意識は上記の話と同じなのです。

検索順位を見て、読者を認識していない。特に「コンテンツSEO」という言葉を好んでつかう企業は、アルバイトやインターンで大学生を雇い、コンテンツの大量生成している事例をよく見かけます。

「コンテンツ作ってよ、1記事1,000文字で5,000円くらいでお願い」

「え!5万円もするの?コンテンツにそんな高額払えないよ」

なんてことを真顔で伝えてくる企業もあるのですが、○ねばいいのに。

コンテンツが過小評価されすぎなんです。単なるSEOの手段ではなく、ブランドとユーザーの接点をつくる、オーディエンスを構築する、コミュニケーションを通して商品やサービスについての理解を深めてもらうなど、マーケティング活動としてできることは沢山あります。外部リンクのような扱いにするなんてもったいない!


『脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版]』の構成

こうした問題意識のもとコンテンツマーケティングの書籍執筆に取りかかりました。しかし、コンテンツマーケティングといっても領域が広すぎます。あれも書きたい、これも書きたい、でも全部を詰め込もうとしたら書籍は永遠に完成しません・・・*3

長年一緒に仕事している編集者の方と議論した末、今回の書籍は次の2つのトピックを選択しました。

  1. 検索キーワードを軸にコンテンツを作ることの問題点
  2. コンテンツデザインというフレームワーク(論理的思考の手順)の提案

前半は、世界中で蔓延っているSEOのためのゴミみたいなコンテンツを作り続けている人に向けた問題提起です。

私は、検索キーワードデータを使うこと自体は否定しません。ただし、検索キーワードデータを起点にコンテンツを考えることは反対です*4。検索結果画面の上位を分析してコンテンツを考える手法は滅びればいいし、ついでにこの手法を広めた人も一緒に消滅してほしい(暴言)。

Web解析ツールを使って検索リファラ情報*5とユーザーのサイト内行動データと結びつけることができた2010年より前の時代であればともかく、状況が大きく異なる2021年にその手法を踏襲しても誤った結論を導くだけです。仮説を立ててからデータで検証する --- つまりユーザーの仮説を立ててから検証の一つとして検索データを参照する --- という手順にすればいいところを、安価な労働力で効率的に生産するためにデータを見て仮説立ててしまっているんです。

さらに、「インデックスされたデータが、Googleが見ている世界のすべてである」という基本がわかれば、検索結果に必ず正解があるという前提も、それが唯一であり最高の回答であるという前提も成立しません。加えて、ビジネスだから他社を模倣したところで意味がありません。だったら、なぜGoogleのデータを出発地点にしているの?

このような切り口から、巷で見られるキーワード中心にコンテンツ作成することの問題点を指摘しています。それを踏まえて後半では、コンテンツ制作のプロセスをフレームワークを使って紹介しています。それがコンテンツデザインです。


コンテンツデザイン

本書で紹介しているフレームワークは、私がいつも頭の中で瞬時に行っている思考処理手順を言語化したものです。あるコンテンツマーケティングの専門家に私のアプローチ方法を説明したところ、「それはコンテンツデザイン(Content Design)というフレームワークだね」とアドバイスを頂いたので、そのままコンテンツデザインとしました。

簡単に説明すると、閲覧者が最終的に実現したいこと(ゴール)を定義して、そのプロセスのどの段階でコンテンツを閲覧しているのかという全体図を描きます。こうすると、ユーザーの状況や文脈が決まります。文脈が決まると、コンテンツの構成、形式(テキスト、動画、画像、4コママンガなど)、レイアウト(チェックリスト、一覧表など)、追加機能(PDFで印刷できる、など)、情報量も決められるんです。そういうお話です。

特に、有益なコンテンツなどという言葉の意味がよくわからない、どうやって書き始めたらいいのかわからないという方には少しは役立つはずです。

 

Standard SEOシリーズは毎年更新されるのか

書籍に年度を入れている目的は、情報の鮮度を表すとともに、毎年改訂しながら完成度を高めていきたいという願いです。基本的に、気分が乗らない限り本気で執筆しないタイプの人間なので確約は・・・。次に取り組むのはコアアップデートの2022年版か、第三弾としてエンタープライズSEOかな。もしリクエストがあればお寄せください。

 

シリーズ第一弾はこちらです

www.sem-r.com

2022年版に更新したいですね!*6

おまけ

みなさまTwitter などで応援のコメントありがとうございます。

強い言葉を使ってしまうこのような界隈在住を自称される人たちのアッピールに私は不快感があります。非常に。*7

年末のお忙しいなか、お気持ち表明のコメントありがとうございます、F社のウェブマーケティング部長Tさま。貴社とは合弁会社を設立したり、お取り扱いのツール契約で日頃から大変お世話になっています。他社同等製品と比較しても日本語ローカライズが素晴らしく、個人としても愛用しています。引き続きよろしくお願い致します*8

*1:https://twitter.com/tsuj

*2:こうやって辻さんネタをよく入れてくるのは、辻さんが読者設定ゆえの必然です。決して、辻さんをおもちゃとして遊んでいるわけではありません!

*3:米Airbnbや米Fanaticsのコンテンツマーケティング事例やNetflix配信のクイーンズ・ギャンビットの話題、コンテンツ編集カレンダー、コンテンツ配信、効果測定、コンテンツのリライト、情報量の決め方、オーディエンスビルディングやクリエイティブ関連 etc... といった話はスコープ外としました。今後予定する書籍で取り扱うかもしれません。

*4:例外はコンプレックス商材。これは検索語句だからこそ可視化される要素が強いので、データから考えたほうが仕事は早い

*5:2010年頃まではサーバログに検索リファラが記録された

*6:できたら時間を捻出して更新したい

*7:2021/12/23 15:00時点 https://archive.is/GemwN , https://b.hatena.ne.jp/prbaybe/20211222#bookmark-4712905167730523842

*8:機会あればぜひ情報交換させてください。将来の展望やロードマップなどお伺いしたいです。

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