SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

47分間の検索の末、いったい何を購入したのか?

はじめに(おことわり)

ここに掲載するコラムは、『脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版]https://www.amazon.co.jp/dp/B09NYD8XB5』のために書いた文章のひとつで、最終的にボツにした原稿です

ユーザーの検索行動の理不尽さを示す好例で、私が好きな話のひとつを、自分の体験に基づいて記述しています。書籍の全体構想段階から言及することを決めていた話題です。

ところが、どうやっても書籍のなかに組み込めませんでした。いろいろな示唆に富む良い話ではあるのですが、悪く言えば、いかようにも解釈できる話です。書籍に入れてみたら、かえって論旨がズレたり、別章の主張と矛盾しているように受け取られる懸念が出てきました。

書籍全体を通しで読みながら検討を重ねた結果、最終的にボツにしました。

しかし、何かに使えそう。このまま闇に葬り去るのももったいない。そこで今朝、6時から原稿の編集に着手して、コラムとして成立させようと3時間ほど奮闘していました。

その結果、ふたたびボツにしました。

読んでいただくとわかりますが、題材があまりに特殊すぎて、マーケティングの話題に展開させることに無理があります。どの話題に触れようとしても、話が論理的に繋げられないのです。結論自体が問題ではなくて、話の流れがおかしいんです。

あきらめました。ここで公開することで供養したいと思います。結論部分は、複数の候補のなかから2つだけ掲載します。

 

脱キーワード思考のコンテンツマーケティング[2022年版]』は2021年12月27日発売です。電子書籍とペーパーバックが選択できます。

www.amazon.co.jp


47分間の検索の末、筆者は何を購入したのか?


筆者のある日の検索行動を表したデータがこちらです。Googleのマイアクティビティに記録されたデータを抜粋しました。

いったい、筆者が最終的に何を買ったのか予想しつつお読みください。


--- ある日の筆者の検索セッション記録 ここから---


参考:
抽出元:筆者のGoogleアカウント(Googleマイアクティビティ)
利用デバイス:Chromebook(ノート)
場所:自宅(都内)
検索エンジン:Google(日本)
検索時期:2021年9月頃のある日の夕方

 

訪問先ページの種類は、次のものを表します。。
ECサイト・・・通販、たとえばヨドバシドットコムやビックカメラ、ムラウチドットコム、Amazon.co.jpなど
価格比較サイト・・・価格コムなど
公式製品サイト・・・ニコンやケンコー・トキナー、カールツァイスなどの企業サイト
情報サイト・・・製品レビューや選び方などの記事を掲載しているサイト
その他Webページ・・・用語集など

 

 

[検索セッション開始]

[1]
17:11    ナイトビジョン 人気 フルカラー
[ECサイトにアクセス]
[価格比較サイトジにアクセス]
[ECサイトにアクセス]

[2]
17:12    サイオニクス
[公式製品サイトにアクセス]
[ECサイトにアクセス]

[3]
17:21    星座 双眼鏡
[情報サイトにアクセス]
[ECサイトにアクセス]
[その他Webページにアクセス]
[ECサイトにアクセス]

[4]
17:27    ツァイス 双眼鏡
[公式製品サイトにアクセス]
[価格比較サイトにアクセス]

[5]
17:28    nikon 双眼鏡
[公式製品サイトにアクセス]

[6]
17:32    ケンコー・トキナー 双眼鏡
[ECサイトにアクセス]
[ECサイトにアクセス]

[7]
17:33    terra conquest 違い
[情報サイトにアクセス]
[価格比較サイトにアクセス]

[8]
17:35    双眼鏡 選び方
[情報サイトにアクセス]
[企業公式サイトにアクセス]
[情報サイトにアクセス]
[ECサイトにアクセス]

[9]
17:37    双眼鏡 キャノン
[公式製品サイトにアクセス]

[10]
17:37    双眼鏡 ビクセン
[公式製品サイトにアクセス]

[11]
17:40    ポロプリズム
[情報サイトにアクセス]

[12]
17:42    ダハプリズム式
[ECサイトにアクセス]
[企業公式サイトにアクセス]

[13]
17:44    双眼鏡 おすすめ
[ECサイトにアクセス]
[価格比較サイトにアクセス]

[14]
17:46    双眼鏡 旅行 おすすめ
[情報サイトにアクセス]
[情報サイトにアクセス]

[15]
17:47    デジタル双眼鏡
[企業公式サイトにアクセス]

[16]
17:48    デジタル双眼鏡 バレない
[その他Webページにアクセス]

[17]
17:48    デジタル双眼鏡
[企業公式サイトにアクセス]

[18]
17:50    双眼鏡 選び方
[ECサイトにアクセス]
[価格比較サイトにアクセス]
[情報サイトにアクセス]

[19]
17:54    双眼鏡    おすすめ
[ECサイトにアクセス]
[ECサイトにアクセス]

[20]
17:55    Amazon
[ECサイトにアクセス]

[21]
17:58    Amazon.co.jp *

* Amazon.co.jp である商品を購入、手続き完了
[検索セッション終了]

--- ある日の筆者の検索セッション記録 ここまで---

 

***

何を購入したかわかりましたか?少しだけ予想してから読み進めてください。

***

 

この表は、筆者のある日の検索セッションの記録を抜き出したものです。「Google マイアクティビティ」に記録された日時、使用した検索クエリ、そして訪問先ページを抽出して構成しています。なお、訪問先ページは筆者が種類に置き替えました。

検索行動の開始時間が17時11分、終了時間が17時58分。合計47分間、20種類の検索クエリを使用してあちこちのWebページを訪問していることがわかります。ある検索クエリのあとにWebページへの訪問が連続しているのは、リンクをクリックしたあとに再び検索結果画面に戻り、別のリンクをクリックしたためです。

一番最後の Amazon.co.jp はダイレクトアクセス(お気に入りに登録している)で、筆者はある商品の購入手続きを完了して、セッションを終了しました。参考情報として、使用していたデバイスと場所も記載しています。

検索セッション単位で眺めてみると、使用した検索語句と訪問先ページが時系列で関連付けられるため、ユーザーが何を求め、何に悩みながら調べ物をしていたのか想像することができます。

さて、17:58 のAmazon.co.jpにて、筆者はいったい、何を購入したのでしょうか? この一連の検索行動データから推理してみてください。また、余裕があれば各々の検索語句の検索意図もあわせて想像してみてください。


他人の検索行動など理解できない

多くの人は検索語句の時間軸とその内容から、筆者が双眼鏡の購入を検討していたと考えるかもしれません。セッション最初の語句「ナイトビジョン」はともかく、以後は一貫して双眼鏡について検索しています。「選び方」「おすすめ」「人気」といった検索語句の掛け合わせも出てきてECサイトにも頻繁にアクセスしていますから、定石に従えばその予想は間違っていません。最後にある商品を購入したことは明示されているわけですし、全体としてオンラインショッピングをしていたと考えるのが妥当でしょう。

実は、双眼鏡が欲しくて検索していたわけではありません。検索が始まった17:11から17:57まで、何かを購入するつもりは一切ありませんでした。まったく別の興味で検索していました。

ならば、一番最後のAmazon.co.jpで何を買ったか。

正解は、キッチンペーパータオルです。


この当時の私はいったい何を考えていたのか、解説します。

私はこの時、とあるニュースサイトでフルカラーのナイトビジョンという製品を知りました。ナイトビジョンという製品は業務用だと思っていたので、一般個人でも買える商品なんだと少し興味を持って調べ始めたのですが、いくつかのページの情報を読んでいるうちに、「別に夜しか使えないナイトビジョンじゃなくて双眼鏡でいいじゃない、なんでこんな製品が」と思って双眼鏡に興味を持ち始めたのです。検索のはじまりなど、何がトリガーになっているかよくわからない好例でしょう。

さて、筆者は双眼鏡を購入・所有した経験がないのですが、通販サイトの価格を見て高いものだと何十万円もすることに驚きました。なぜそんなに高いのか。安価なものとの違いに興味を持ち始めました。

17:30前後にツァイスやニコンなどのブランドが出てきますが、高級ブランドの製品が欲しかったのではなくて、なぜ高いのかに興味を持っただけです。双眼鏡自体に興味がなかったので、安いものと高いものの機能の違いをまったく理解していません。ブランド代なのか。だから興味を持ちました。したがって、商品カテゴリとブランド掛け合わせは一般的に購入意欲がどちらかといえば高いと言われますが、その定石もこのケースでは当てはまりません。

17:40 あたりに出てくる「ポロプリズム」と「ダハプリズム式」は、その直前に見ていたページに記載があり、何が違うのか理解するために検索しました。

その後、「海外旅行でこれ持っていたら便利だったのかな」と、過去にドイツのノイシュバンシュタイン城を訪問したときに双眼鏡あったら便利だったかもと思い出して、おすすめ製品を検索しています。しかし「持っていたら、便利だったかも」という過去の仮定の話であり、やはり購入の意思は持ってません。

あるページを見ていて「旅行だとそのまま記録ができるデジタル双眼鏡が便利」という記述を見て、興味を持って「デジタル双眼鏡」(17:47)と検索、上位に出てきたソニーの公式ページを見たのですが販売終了していました。

この瞬間、デジタル双眼鏡は人気がないんだなと悟り、興味を失いました。ところが検索結果に戻ったとき、関連語句欄にあった「デジタル双眼鏡 バレない」という単語が目に留まりました。「バレない」って、いったい何を検索しているのか。単純な職業柄の興味でクリックして検索しています。結局、意図はよくわかりませんでした。

その後も、今時の双眼鏡に興味があっていろいろ検索していたのですが、ふと「キッチンペーパーを補充しないといけない」ことを思い出したので、Amazon.co.jpにアクセスして注文し、検索を終了したのです。

この日お昼、ご飯を準備しようと冷蔵庫を開けたとき、その近くにあるキッチンペーパータオルのボックスが空だったことに気づきました。「キッチンペーパータオルを補充しないと」と思ったけれど、そのままご飯食べて仕事してました。すっかり忘れていました。
筆者は電子機器や家電を買うときはヨドバシドットコムやビックカメラを使うのですが、日用品はAmazon.co.jpを使います。だから、17:55 に Amazon.co.jp にアクセスしたとき、画面に映ったお買い物履歴や過去に閲覧した商品情報が目に入り、キッチンペーパータオルを思い出したんでしょう。


結論バージョン1:

※ ボツにした理由:この話に繋げたいなら前半が冗長すぎる。もっとシンプルで良い題材があるはずだからボツにしました。


『検索行動は自然に発生するものではありません。かならず、その行動を誘発した要因が存在します。それはテレビ番組であるアイテムを見た瞬間かもしれないし、Instagram の友人の投稿写真に目が留まった瞬間かもしれないし。自転車のタイヤがパンクした瞬間、今日はマクドナルドがなんとなく食べたくなった瞬間かもしれない --- 日常のなんらかの事柄で生まれた興味関心が、検索行動を誘発しています。

したがって、企業がマーケティング活動の一環としてコンテンツを活用するなら、自社の商品やサービスに興味が向かう瞬間はどんな場面なのかを検討してみるとよいでしょう。そして、その場面および文脈で、どんなコンテンツを提示したら彼らに有用なのかを考えてみてください。一般的に、購買直前の段階にあるユーザーをターゲットにコンテンツを作ろうとしますが、それだけが唯一のコンテンツの使い方ではありません。自らが興味関心を掻き立てるコンテンツを作って需要を喚起する方法もあります。そして、それを実現できるのがコンテンツマーケティングです。

また、コンテンツを検索チャネル前提で考える発想を捨てましょう。筆者の例はGoogle中心で動いたシンプルな行動ですが、SNSやブログ、企業サイト、テレビ、検索などが複雑に絡む行動も当然あります。また、筆者がキッチンペーパータオルを思い出したのは、 Amazon.co.jp を訪問したときに目に入ったレコメンデーションや過去の購買履歴のデータからです。つまり、検索は直接、購買に関係していません。

広告、SNS、ニュースリリース、屋外広告、テレビ番組など、ターゲットとしたいオーディエンスにあわせてメディアを選定し、接点を持ち、彼らの購買意欲が喚起される瞬間にブランドと接触する機会を増やすことで購買につなげることもできます。コンテンツを検索チャネルに限定して利用する必要性がないのです。』


結論バージョン2

※ ボツにした理由:この話は書籍内でしつこく指摘しているので、不要になりました。

『Googleアカウントでマイアクティビティを有効にしている人は、過去の検索行動が記録されているはずです。ぜひ、自分の過去の記録を見てください。「これ、何を探してたんだろ?」とか「なんでこの検索語句の次に、このサイトにアクセスしているの?」といった謎の行動がきっと見つかるはずです。

友人や家族が承諾してくれるなら、少しだけ彼らのマイアクティビティを見せてもらってください。検索の使い方は人によって違うので、他人の履歴をみると新鮮でさまざまな発見があるはずです。

さて、日時、仕様語句、アクセスしたページを時系列で並べられても、やはり検索意図を推定することは難しいことが理解できたと思います。

筆者のケースは、ことごとく定石から外れています。たとえば、検索語句「ツァイス 双眼鏡」は一般的に、ブランド+製品カテゴリと分類される語句ですから、購買系のクエリとして扱われます。しかし説明した通り、実際には「なんで双眼鏡がこんなに高いのか」という興味でしか検索していません。

同じ語句であっても検索意図は十人十色です。だからこそ、キーワードデータだけに頼らず、さまざまな情報を活用してユーザーリサーチで深く掘り下げ、ユーザーの理解に努めなければなりません。ところが、キーワードからコンテンツ作っている人はGoogleを絶対の神に祭り上げ、勝手に求められる情報を決めつけているのです。そこにユーザーは存在しません。』


結論バージョン3以降

他にもいろいろなバージョンを作っているのですが、私の頭のなかにいる「ロジック検証担当者」*1が許可せず、公開できる水準にありません。

 

www.sem-r.com

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*1:読み書きをするとき、頭のなかでリアルタイムで論理関係の妥当性を評価・検証するプロセスがバックグランドで稼働しています。特に講演のときは、このプロセスからのフィードバックを受けつつ軌道修正しています。なお、準備不足で余裕がないときは、これが動作しません。

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