SEMリサーチ

企業で働くウェブマスター向けに、インターネット検索やSEOの専門的な話題を扱います

SEO業界25年目 1997年に描いた予想と目標と、その答え合わせ

 

最近、新しい書籍の執筆に集中している関係で、日本語文章がスラスラと書けます。そのついでに、毎年恒例の私の記録用記事も公開したいと思います。なお、次回の書籍は6~7月に出せたらいいなというスケジュールで進行中です。

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仕事としてSEOに本腰を入れ始めたのが1997年7月1日です。仕事としての取り組みにあたり、当時、2020年までのインターネット検索とSEO業界の未来予想図(展望)を描きました。

1997年当時に描いた予想(と私の展望)は次の3つです。

  1. 2005年には人々がインターネット検索でさまざまな情報にアクセスするのが日常に浸透する。そうなれば企業も必然的に検索エンジンから集客する必要性に迫られる。その時代に活躍できるようにSEOがんばる。
  2. 2010年に少なくとも日本で一番のSEOスペシャリストになる。
  3. 2020年には巨大企業でもSEOに取り組むのが当たり前になる。だから大企業でも第一線の専門家として活躍できるように、必要なスキルセットを身につける。

1997年時点で"SEO"という言葉はありませんので、一部、2021年現在の表現に置き替えています。いまの私の感覚でいうと、「よく23年先の未来を見通そうとしたな。 今(2021年)から2025年の予想することすら難しいのに!」というのが率直な感想です。

ともかく、その2020年が過ぎ去ったところで答え合わせをしたいと思います。

 

2005年に検索エンジンは日常生活に浸透したのか

1つ目。

2005年には人々がインターネット検索でさまざまな情報にアクセスするのが日常に浸透する。そうなれば企業も必然的に検索エンジンから集客する必要性に迫られる。その時代に活躍できるようにSEOがんばる。

これは、ほぼ的中と考えています。外れてたら私は生きていなかったでしょう。当時(1997年)、私は睡眠時間以外はほとんどネットで資料探索していた程度に検索を使い続けていたので、オンラインの情報が増え続ければ必然的に検索に依存しなければならない世界がやってくることは自明でした。ただタイミングだけがわかりませんでした。

日本ではADSLや光回線が普及し始めて、24時間いつでもネットにアクセスできるようになり、検索の利用者も増えはじめた時代です。2005年というと検索業界はまだ三強の時代、日本の Yahoo!検索が Yahoo! Search Technology(YST)を採用し始めたころですね。私がアイレップに正社員として入社したのも2005年です。

 2010年で日本で一番のスペシャリストになれたのか

2つ目。

2010年に少なくとも日本で一番のSEOスペシャリストになる。

個人的なある願いを叶えるための、目標設定です。「日本で一番」と呼べる(た)のかさておき、最終的に私は当初の願いを叶えることができたので満足しています。

さて、本件はまわりが客観的に評価を下せばいい話なので、私からコメントはありません。ただ、この目標のために私が25年のキャリアで一貫して大切にしてきた価値観を2つだけ紹介します。

1点目は、「お金をもらって仕事をするのがプロじゃない。この人にお金を支払ってでも仕事を頼みたい、そう思われるのがプロだ」ということ。もともと誰の言葉なのか覚えていないのですが、そうだなと思って心に留めています。

2点目は「検索順位を上げるだけなら誰でもできる。でも、検索を使って新しい価値を創造するのは誰にもできることじゃない。だから後者ができる(検索エンジンを活用してマーケティングができる)スペシャリストをめざし続ける」ということ。

1997年という時代は、基本さえ押さえれば簡単に誰でも検索順位を1位にすることができました。検索アルゴリズムが現代比できわめて単純なことに加えて、検索エンジン対策を意識するプレーヤーの絶対数が少なかったからです。

同時に、次の疑問が思い浮かびました。「もし私の目論見通り、SEOの価値が増して競合するプレーヤーが増えたらどうやって生きていこうか」。将来のキャリアパス、長く第一線で活躍する、どんな企業でもSEOの専門性を発揮するためには、ビジネス思考を持っているほうが有用に違いないと考えました。

私は世界最長キャリアと呼べるほど長くSEOの仕事をしていますが、現在も検索エンジンと向き合うという意識を可能な限り排除し続けるよう努力しています。あくまでユーザー(検索をする人々)と情報発信者をインターネット検索でマッチングさせ、どんな価値を生み出せるかを大切にしています。

社内(アイレップ、2021年現在)では「検索エンジンと向き合うな、ユーザーを見ろ」という趣旨の発言をよくしています。SEOディレクターのキャリパスを考えたら、顧客価値を大切にする、マーケティング視点を持ったディレクターの方が、将来、会社を去って別の会社で働くことになっても活躍できる可能性が高いと考えているからです。

上記の考えは、「正解の1つ」だったと考えています。私が尊敬する、グローバル企業で活躍するSEOスペシャリストはみな、ビジネスやマーケティングの枠組みのなかで検索の価値を最大限に引き出そうとする視点を持っている点で共通しているからです。

なお、正解の1つと書いたのは、2021年現在の状況を見ると、単純に検索アルゴリズムに精通した人が社内にいたほうが仕事はやっぱり捗るとも考えているからです。一方で、ユーザーと向き合うべき仕事を、SEOのためという錦の御旗のもと、検索エンジンと向き合う自分の姿勢を正当化してしまうような人は、少なくともインハウスには不要とも考えています。

2020年、大企業でSEOは一般的になったと言えるのか

最後の3つ目。

2020年には巨大企業でもSEOに取り組むのが当たり前になる。だから大企業でも第一線の専門家として活躍できるように、必要なスキルセットを身につける。

うーーん。皆さんは、これをどう考えるのでしょうか。

1990年後半は、日本企業の大半が検索エンジンの重要性を認識していないので、私は海外に本社のあるグローバル企業とSEOの取引をしていました。だから「さすがに20年も経過したら日本企業も普通にSEOやってるだろ」という発想から生まれたのがこの未来予想です。

しかし、広告代理店に身を置く立場として2021年現在の状況を考えますと、正直、SEOの扱いは低いというか、業界によって温度差がとても激しいと感じています。もちろん、マーケティングの観点から検索の重要性が低い業界がSEOに消極的なのは理解できますが、そうじゃない例が数多くあります。長い間、海外市場と日本市場の両方で仕事してきた経験からいうと、誰か悪者がいるわけではなく、日本の構造的な問題だと考えています。

なお、私は昔からUX/UI、Web解析、最近はCRO、その関連で行動科学を学ぶなど器用貧乏なところがありますが、これはSEOというコアスキルを中心に関連スキルセットを身につけていたほうが長く仕事が続けられると考えたからです。

この記事で何度も「長く仕事を続けるために~」という記述があるのは、その当時、私は大学4年で就職活動をろくにしていませんでした。だから、仕事に困らない人生にするために何をしたらいいかという考えが支配していた影響なのでしょう。

 

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