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Rand Fishkinが公開した「65%がゼロクリックサーチ」の問題点

Rand Fishkin(SparkToro)が、Google検索全体の約65%がゼロクリック(検索結果を開いたが、いずれもクリックされない)だったという調査結果を発表しました。この調査について、専門家たちの間で物議を醸しています。Googleがわざわざ公式で本調査を名指しして意見を述べているほどです。


Rand Fishkinが公開した、ゼロクリックサーチのデータ(2020年版)
In 2020, Two Thirds of Google Searches Ended Without a Click 
https://sparktoro.com/blog/in-2020-two-thirds-of-google-searches-ended-without-a-click/

それに対するGoogleの意見(調査手法に欠陥があるだろうと指摘)
Google Search sends more traffic to the open web every year
https://blog.google/products/search/google-search-sends-more-traffic-open-web-every-year/

専門家たちの指摘とRandの返答
Study Says 65% Of Google Searches Do Not Click On Results But Should They?
https://www.seroundtable.com/study-65-of-searches-do-not-click-31128.html

 

Rand Fishkinは著名なSEO専門家のひとりですが、残念ながら本件の彼の主張は少し無理があります。以下、何が問題なのか解説していきます。

 

ゼロクリックサーチ=悪ではない

最初に結論から。ゼロクリックサーチ(検索結果で何もクリックされないという結果)は、必ずしも検索品質に問題を抱えているわけではありません。同様に、検索ユーザーのトラフィックがGoogleが運営するプロパティ(YouTube、Google Mapsなど)やコンテンツ(強調スニペットやナレッジパネル)に流れていることを示しているわけでもありません。しかし、Randが出した雑なデータ(自分の主張に都合よい粒度のデータ)では誤った結論を導きかねません。複雑な検索行動をデータで紐解くのであれば、詳細な内訳データを出して初めて適切な考察ができるはずです。

 

以下、背景について説明します。

もともとRandは、Googleがウェブトラフィックを独占的に支配していることを懸念しています。それを統計データで示すために、昨年も同様のデータを発表しています*1。今年はその第2弾です。ただし(理由はわかりませんが)データを投げっぱなしにしただけで、結論は識者に委ねています。

しかし彼は暗に、Googleがクリックを奪っている、検索市場で支配的立場にある会社がオープンなウェブへ流れるはずのトラフィックを奪うのはけしからん、そう主張したいのでしょう*2

こうしたRandの意図を知っていれば、彼が検索全体に占めるゼロクリックサーチのデータに拘る理由も察しがつきます。まるっとあらゆる検索まとめて65%というセンセーショナルな数字を出したほうがGoogleを悪者にしやすいからです。しかし、粒度の粗いデータだけ公開されても、私たちは何も学べません。

なぜゼロクリックは生まれるか

検索結果で何一つクリックされないゼロクリックサーチとは、たとえば次のシーンが該当します。

  • 検索結果リストをみて、語句を修正した
    より適切な語句があることに気がついた、逆に期待した結果が表示されなかったなど複数の理由があります。私は最近、ある商品が欲しくて、でも完全な商品名を覚えていなかったので一部だけ入力し、検索結果画面で正式名称がわかったので検索語句を修正(追加)したことがあります。こういった文脈が該当します。いずれにせよ検索語句の修正を行ったのであれば、ゼロクリックとしてカウントされます
  • 単純な事実を知りたいために、検索結果画面で十分に満足した
    強調スニペットの情報、スポーツの試合結果、天気、店舗の住所、漢字の確認や読みなど、検索結果画面で必要な情報を取得できた場合も、ゼロクリックになります。これは皆さん自身もよく経験する検索ではないでしょうか。
  • 検索結果からアプリに遷移した場合(モバイル)
    スマホで検索して結果をクリックすると、該当アプリが開く場合があります。SimilarWebはデータ追跡ができないので、これもゼロクリックとカウントされます。

興味のある方は、文末に参考文献として掲示したMicrosoftの論文もお読み下さい。

検索のコンテクストや内訳を出さなければデータの価値がない

つまり、ゼロクリックは、決してGoogleが検索結果で表示した情報で満足していることを示すわけではありません。しかしRandの出したデータはそういった誤った結論に誘導する可能性があります*3

また、無数のコンテクストが存在する検索利用シーンを、分類なしに単純合算されても何も読み取ることができません。データはあくまでデータにすぎず、どのように解釈するかが問題です。適切な分析を行うためには、その調査手法や項目の内訳は必須です。だからこそ専門家たちは検索クエリの内訳やコンテクストを提示するようにRandに尋ねているわけですが、彼はあまり乗り気ではないのです。

また、クリックストリームのデータソースがSimilarWebですから収集データのバイアスに注意が必要です。これは検索コンテクストの情報を一切持ちません。検索行動の調査でコンテクストがない統計データは価値がありません。

Randは統計データを雑に扱いすぎだと思います。

Scholars, economists, technologists, and hopefully a few folks in the antitrust world will likely draw their own conclusions about this data, and while I have strong opinions on the matter, I’ll let the numbers speak for themselves in this post.

 数字に委ねるのであれば、なおさら内訳を出すべきでしょう。これでは無責任すぎるし、Googleが公式で意見を述べることも納得です。

 

以下、興味のある方はお読み下さい。


参考:Learning to Account for Good Abandonment in Search Success Metrics

https://www.microsoft.com/en-us/research/wp-content/uploads/2016/10/shp0291-khabsaA.pdf


参考:Context-Aware Web Search Abandonment Prediction 

https://www.microsoft.com/en-us/research/wp-content/uploads/2016/02/sigir226-song.pdf

参考:Is This Your Final Answer? Evaluating the Effect of Answers on Go

https://www.microsoft.com/en-us/research/wp-content/uploads/2017/05/final-answer-evaluating.pdf

 

*1:ちなみに昨年はJumpshotのクリックストリームデータを使った調査、今年はSimilarWebの同データと、データソースが変更されています。理由は次の通りです。セキュリティソフトAvastが同製品で収集したユーザーデータを、その子会社であるJumpshotを通じて企業に販売していたことが問題視されました。結果、Jumpshotは2020年1月に事業を停止しました。こうした経緯でJumpshotのデータが使えなくなったので、今年はSimilarWebに変更されました。

*2:彼の近年の基調講演を聴いていれば、彼がそう言いたいことは容易に想像ができます。

*3:実際、日本のあるメディアでは「ググった結果をクリック」はもう古い!? 3分の2のユーザーはそのまま離脱することが判明」という見出し記事のなかで『検索結果画面にサマリーやWikipediaの内容を直接表示するGoogleの取り組みが功を奏しつつあるのではないかと分析しており』と誤った(Randの狙い通りの)解釈で報じている。

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