関連記事「Google、スマホ向け検索ランキング変更を発表 - 不適切な設定を行うスマホサイトが対象」もあわせてお読み頂く前提で、ここでは Google が問題視する不適切なスマートフォンサイトの定義について解説します。
本件に関してCNET Japan さんが記事にされている「グーグル、スマホ対応が不適切なサイトの検索順位を引き下げへ」の説明が適当すぎる上に見出しが誤解を与えているような印象がありますので、勘違いしている方々の助けになれば幸いです。
Googleが問題視する不適切なスマートフォン向けサイトとは
今回 Google が予定しているランキング変更により影響を受ける可能性がある"誤った設定のスマホ向けサイト"とは、具体的に次の3つのケースです。
- スマホユーザーがデスクトップ向けサイトを訪問した時に、関連性が低いページにリダイレクト設定しているサイト
- スマホユーザーがデスクトップ向けサイトにアクセスした時のみ、エラーを返すサイト
- スマホユーザーがアクセスした時のページ読込速度が著しく遅いサイト
- スマートフォンからは再生できない動画がコンテンツとして含まれている(例 Flash)
- 来訪時にアプリを勧める案内広告が表示され、それが閲覧の妨げになる(インタースティシャル広告)
- デスクトップ向けとスマホ向けで、関係ないページ同士で相互リンクしている
(※ 具体例を調べるとキリがないのですが、現時点で Evidence が得られたものを取り上げました)
つまり、技術的な設定に誤りがあるために、スマホユーザーの検索体験が著しく損なわれるケースに限定されています。ツイートを見ていると、スマホスクリーンに適したページを用意していないサイトの検索順位が落とされるとか、PC向けしか用意していないサイトの順位が落とされると勘違いされている方がいるようですが、それらは全く本件とは関係ありません。本件は、技術的な設定の誤りによりユーザーが不自由を強いられるケースに限定されています。
優れた検索体験とは:検索意図と関連性
検索体験について、少し詳しく説明しましょう。
例えば、検索キーワード「キヤノン デジカメ」と入力する人は、きっとキヤノンのデジタルカメラを探しているに違いないでしょう。同様に「Nikon D800」と検索した人は、ニコンのデジタル一眼レフでも特定機種・D800に関する情報を探していることでしょう。くどいですが「品川 マンション 購入」と検索した人は、マンション購入を検討していて、品川付近を検討しているでしょう。
検索は、何らかの情報が欲しいと思った瞬間に初めて生まれる行動ですから、いいかえれば、すべての検索には何らかの意図 -- 探している事柄・目的 -- が存在します。これを検索意図と呼ぶのですが、優れた検索エンジンは、その検索意図(検索者が手に入れたい情報)を把握して、それに合致した、関連性が高いページにユーザーを誘導することが求められます。
先の例でいえば、「キヤノン デジカメ」と検索したユーザーにはキヤノン公式サイトのデジカメ総合ページや、あるいは通販サイトのキヤノンのデジタルカメラコーナーに誘導出来ることが検索エンジンの役割です。もしも、「キヤノン デジカメ」と検索したユーザーの検索結果上位に日立の冷蔵庫やダイソンの掃除機のページといった、検索意図とかけ離れた関連性が低いページを表示しようものなら、そんな検索エンジンは”使えない”わけです。
検索意図を反映しないリダイレクトは、検索体験を損ねる
ここで本日の Google の発表の話に戻りましょう。Google が問題視しているのは、ウェブマスター側の技術的な設定不備により、「キヤノン製のデジカメを探しているユーザーを総合通販トップページに誘導してしまう」状態を招いているサイトが対象です。デスクトップ向けのあらゆるページが、スマホからアクセスするとスマホ版トップページに誘導されてしまうという状況は、キーワードの検索意図を無視して勝手にスマホ向けサイトの入り口に誘導してしまうことを意味します。こんな状況は、検索している側からすれば不満が募ると共に、"使えない検索エンジンだな" という印象を持ってしまうわけです。
つまり、検索意図を無視してあらゆるアクセスをトップページにリダイレクトしてしまうような技術的に間違った設定をしたスマホ向けサイトを検索上位に表示してしまうことは、モバイルウェブにかかわる全ての当事者 -- 検索者、サイト運営者、そしてGoogle -- みんなが不幸な状態です。こうした状態を改善するために、Google はウェブマスターに正しい設定をお願いすると同時に、技術的に不適切なスマホ向けサイトは上位に表示しないようにしますという計画をアナウンスすることになったのです。
スマホからの訪問にエラーを出すサイトは上位に表示すべきでない
以上の話から、まず「あらゆるアクセスをスマホ向けトップページにリダイレクトしてしまう」技術的設定の不備を抱えるスマホ向けサイトを Google が嫌がる理由はおわかりいただけたでしょうか。
検索体験という観点での適切な技術的実装とは、1つ1つのページ単位で、関連性が高いページへリダイレクトすることです。先の例でいえば、デスクトップ向けのキヤノンデジタルカメラの総合ページは、(スマホからのアクセスに対し)スマホ向けのキヤノンデジタルカメラの総合ページへ転送を、同様にNikon D800 の商品詳細ページは、スマホ向けの同ページへ転送するように設定することです。もしあなたの通販サイトが1000ページで構成されていたら、1つ1つのページ毎に関連性のあるページへリダイレクトします。何度もいいますが、検索キーワードに込められた意図を汲んで、スマホユーザーが適切なページへたどり着けるようにして下さい。決して(設定面倒くさいから等の理由で)とりあえずスマホ向けトップページへリダイレクトするのはやめましょう。
もしも、デスクトップ向けで提供しているコンテンツに相当するスマホ向けのものが存在しない場合は、そのままデスクトップ向けのページをスマホユーザーに閲覧させるようにして下さい。後述しますが、Googleはスマホ未対応のサイトを問題にしているのではなく、技術的な問題によりユーザーエクスペリエンスを損ねているサイトを問題にしています。スマホユーザーにそのままデスクトップ向けバージョンを見せることは全く問題ありません。検索意図に合致した関連性が高いデスクトップ向けページが表示されるの方が、無関係なページに転送されるよりも遙かに優れた検索体験になります。
次に、エラーについてです。
私が観察する限り、通販系サイトによく見られる技術的な誤りなのですが、特に商品一覧ページなど、サイト内検索システムが絡んでいるケースにおいて、スマホからアクセスすると404 Not Found をはき出すページが少なくありません。デスクトップ向けサイトでコンテンツを動的に出力している場合に、デスクトップとスマホ間の動的URLのマッピングが適切に行われていないことが最も多い原因の1つとして挙げられます。
スマホ検索ユーザーの立場からすれば、たとえば「グッチ バッグ」と検索して、該当する検索結果をクリックしてエラーが表示されたら、当然イライラするわけです。これまた「使えない検索エンジンだな」という感想を持つでしょう。こうした理由により、技術的な不備によりスマホからのアクセス時にエラーをはき出すサイトも、検索順位が上位に表示されないようにすることで検索者の不利益を最小限に抑えようとするわけです。
この問題の対処法は、まずスマホを使って自分のサイトが問題なく閲覧できるか確認をして下さい。ここでいう確認とは、検索エンジンを経由してアクセスすることです。技術的なエラーを発見したら修正をして下さい。もし該当ページのスマホ向けページが存在しないことが起因であるなら、リダイレクトを解除してデスクトップ向けを閲覧できるようにします。
ページ読込速度が遅いスマホ向けサイト
これは6月11日(米国時間)に開催されたSMX Advanced にて発表された内容です。最近の100Mbpsを超える光ファイバー接続やCATVネット接続と比較すればまだまだ実効速度が遅いモバイル環境において、検索中にユーザーを長く待たせることは、あまり好ましいことではありません。スマホ向けサイトの設定によっては、スマホ端末からアクセスした際にページ読込がとても遅いサイトが存在するのですが、そうした快適な検索体験を提供できないサイトも、やはり検索上位に表示するのは控えるようにしましょうということです。
スマホから再生不可能な動画コンテンツ(Flashなど)
スマートフォンからアクセスすると動画が再生できないという技術的な問題が該当します。たとえば Flash 動画です。これも技術的にスマホに対応していないために、検索経由で訪れたユーザーが何の情報も得られずがっかりすることになる・・・という理由から、検索順位が下方修正されます。対処方法としては、(1) HTML5を使う、(2) 動画の内容の transcript を用意する、などがあります。
スマホアプリ案内による閲覧の妨げ(インタースティシャル広告)
スマホユーザーがアクセスした際に、モバイル版ではなく専用のアプリをインストールするよう勧める案内(インタースティシャル広告)を表示するサイトがあります。この案内表示の実装方法によっては、Googleのクローリングの妨げになったり、来訪者の利便性を大きく損ねることがあります。Google はこうした大きな閲覧の妨げになりかねない技術的実装を行ったサイトの検索順位を調整する可能性があります。
対処方法としては、Promoting Apps with Smart App Bannersを使う、通常のHTMLと画像を使う、などの方法があります。
スマホ向けページから、無関係なデスクトップ向けページにリンクしている
これは前半で述べた「どのデスクトップ向けページも、スマホ向けトップページにリダイレクトする」の逆バージョンですが、リダイレクトは関係ないお話です。デスクトップ向けとスマホ向けサイトをそれぞれ独立したサイトとして(別URLで)運営している場合、ページの最下部に「スマホ版ページはこちら」「デスクトップ版を見る」といった類いのリンクを設置していることがあります。これは閲覧者にどちらのバージョンで閲覧したいか選択権を与えているので(Google的に)推奨されているのですが、このリンク関係が不適切なケースがあります。
たとえば、デスクトップ向けとスマホ向けで独立したサイト(URL)で運営する新聞社のニュースサイトがあり、個別の記事(ページ A B C D E )を公開していたとしましょう。そして閲覧者にどちらのバージョンも参照できるよう最下層にリンク(PC版はこちら、スマホ版はこちら)を用意していた場合、ベストプラクティスは次の通りです。
PC版 スマホ版
記事A<-------->記事A
記事B<-------->記事B
記事C<-------->記事C
記事D<-------->記事D
記事E<-------->記事E
つまり、1つ1つの記事(ページ)単位で、該当のバージョンのページへリンクすべきです。しかし、実際にはトップページへリンクしているサイトが少なくありません。例えば、スマホ向け記事Dを閲覧していたユーザーがデスクトップ向けの方で閲覧したいと思いリンクをクリックすると、デスクトップ向けトップページに飛ばされるようなケースです(日本の某大手メディアがまさにそうですよね)。
スマホ向けサイトが用意されていないことは問題ではありません
誤解をしている方がおられるようですが、デスクトップ向けサイトしか用意していない場合、本件の影響は受けません。技術的な不備により検索意図と関連性が著しく低いページに転送されたりエラーをはき出されるページに到達するよりも、デスクトップスクリーン前提とはいえ検索の関連性が高いデスクトップ向けページにアクセスできるほうが、遙かに優れた検索体験を享受することができるからです。
スマホでタップしやすいボタンが用意されていないと検索順位が下がるということもありません。スマホ向けのサイトを別途用意していないと順位が下がるということでもありません。何度も繰り返しますが、本件は「技術的な不備により、関連性が低いページにユーザーを誘導してしまう設定が行われているスマホ向けサイト」が対象となります。
スマホ向けサイトを持つと順位が上がるの?
今回は、以上の話に該当する技術的不備を持つスマホ向けサイトは、「下方修正」という形で本来表示されるべき順位よりも下の方に表示されます。これは決して、スマホ向けサイトを持っていると順位が上がるという話ではありません。技術的に正しい設定を行っているスマホサイトは、そのサイトの評価通りの検索順位になりますが、決してプラスの加点があるわけではありません。
スマホ検索順位引き下げは、ペナルティですか?
いいえ、Googleはこれを「ペナルティ」(制裁的な意味合い)と表現していません。Googleは、demotion (デモーション、promotion の反対の言葉で、調整、下方修正の意)と呼んでいます。
ペナルティとは、Googleが定める検索品質ガイドラインに違反して不正な行為を行っているものを指します。一方、今回(検索順位の下方修正)は、不正ではなくて、検索体験を妨げる恐れがあるので上位に表示しないようにしますね、という処理です。
いずれにせよ検索順位が下がることには変わりないのですが、別にサイト運営者の皆さんが悪者にされるわけでもありません。また、ペナルティを課された場合に通常要求される、再審査リクエストの申請も、本件は不要と思われます。
PCからの検索ではどう影響するの?
今回は、技術的に誤った設定を行っているスマホ向けサイトについては、『スマホから検索した時の検索結果画面で』順位が下がるようにします。つまり、PCから検索した時には全く関係がありません。
スマホユーザーのユーザーエクスペリエンス向上を目的としていますので、スマホからGoogle検索した時に、条件に合致する(技術的にまずいスマホ向けサイト)の順位調整を行うようにします。UXの改良の話なので、PCからのアクセス時には関係ないお話なのです。
結局、レスポンシブウェブデザインが最強なの?
対・検索エンジン(≒Google)という純粋な技術的観点から言えば、レスポンシブウェブデザインが間違いなくベストです。最強です。アノテーションやリダイレクト云々など、技術的に面倒くさい事柄を全くやらずに、今まで通りのサイト運用でSEOを遂行できるからです。また、様々なスクリーンサイズの端末が登場している今、あらゆるデバイスに1つのサイトで適応可能であり、同一性を保持したコンテンツを提供可能にする、このデザイン技術は魅力的です。
しかし、皆さんの多くが、検索エンジンのためにサイトを運営しているわけではないでしょう。サイトで販売している商品やサービスをより多くの人に利用してもらう、会社やブランドの認知度を高める、ニュースをお届けするなど、人間、来訪者のためにサイト運営をしているはずです。検索エンジンという情報流通プラットフォームを活用しているだけであり、検索エンジンそのものを相手にしているわけではないはずです。
マーケティングサイドの人間からいえば、レスポンシブウェブデザインは最適であるとは限りません。皆さんのサイトを訪問する(あるいは訪問して欲しい)オーディエンスや、ビジネスモデル、取り扱う商材など、様々な要素と実際のウェブ解析データと照らしあわせつつ、最適なモデルを選択すべきです。同じユーザーが同じサイトを訪問する場合でも、その時に利用しているデバイスと場所により、求めている事柄や最終目的が異なる場合というのは往々にしてあります。
検索マーケティングの世界を例にとれば、「マック クーポン」「渋谷 ラーメン」「液晶テレビ 価格」「バス 予約」これらのキーワードは、その時の検索者の利用デバイスによって、キーワードの検索意図が異なる場合があります。検索意図が異なるのであれば、その検索者の状況にあわせたコンテンツを提供した方が優れた体験を提供できるでしょう。つまり、このケースで対象となるウェブサイトは、レスポンシブウェブデザインよりもモバイル用に別サイトを開発するか、ダイナミックサービングにより異なるHTMLを返した方が、好ましいことがあるのです。
一部に盲目的にレスポンシブを推奨する人々がいますが、ウェブサイトは開発者やデザイナーの技術の高さを示すショーケースではありません。誰のためのウェブデザインでしょうか。上記の通り、デザインは皆さんが届けたい事柄、実際の来訪者行動データに基づいて決定すべきだと私は思います。「Googleが勧めるから」という理由で何も考えずにレスポンシブを選択するという思考停止は、避けるべきではないでしょうか。
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SEOや検索体験の観点からこんなに色々な技術的問題が発生しているんだから、そりゃ Google はレスポンシブウェブデザイン勧めたくなるよね。私も検索エンジン会社の立場だったらそういう気がする。でもマーケティングサイドの人間としては、レスポンシブウェブデザインがベストとは全く思いません。