要約
- SEOのスキルをステップアップするためのアドバイス
- Googleが言うから正しいのではない。検索エンジン、検索利用者、サイト運営者 三者の立場を考えながら、何が適切か考える癖をつける
- 自分自身でサイトを運営して、学び続ける姿勢が最も大切
先日、SEOをこれから学び始める人向けの記事を公開した。
今回は、SEO上級者(以上)を目指すために私が必要だと思うことについて記述する。ここでいう「上級」とは、目安として現在(株)JADE の辻正浩氏程度の能力を想定する。ただし、毎日最低6時間の睡眠時間を確保することは私たち一般の社会人にとって考慮されるべき前提条件だと考えられるので、その睡眠時間を確保する分だけ彼の能力を40%程度割り引くものとする*1。要は、Webサイトの現状分析と課題の抽出から、戦略の立案、目標設定、施策、実装、効果測定~の一連の作業を自分で遂行できる能力や、問題発生時に原因追及と対処が行える能力と定義して話を進める。
SEOのスキルを伸ばすための最低条件
SEO業界に24年(2020年7月時点)いて、世界中の様々なSEOの専門家やSEO関連業務を行うマーケティングやWebサイト運営者たちと会ってきた。また、彼らが発信した情報に触れたり、講演を拝聴してきた。その経験を踏まえて、本当にSEOができる人というのは少なくとも次の条件は備えていると考える。
- Webがとにかく好き
- 複数のスキルを持つ/複数の業界で働いた豊富な経験がある
- 自分の頭で考える、自分で手を動かす
「Webがとにかく好き」
SEOというのは「サイトの継続的な運用と管理」に尽きるので、検索エコシステムの理解からWebサイト開発・制作・管理・運営に至る様々な技能が要求される。冒頭で触れた辻さんがかつて「SEOは雑学の集合」と表現したことがあるが(私もこの表現が好きなので拝借させて頂いている)、本当に広範囲にわたる物事の理解が要求される。だから、少なくともWebが好きで、いま何が流行しているのか、どこで炎上が起きているのか、どんなWebサービスやアプリが生まれたかなど、インターネットの流行についても敏感であることが要求される。いいかえると、Webが好きでない人、仕事だからWebに触れているような人はSEOの仕事は向かない*2。
「複数のスキルを持つ、または複数の業界で働いた豊富な経験がある」
2000年当時、「この人はすごい」という印象を受けたSEOの専門家は共通して、40~50代、前職がマーケティングまたはセールス関係、Webに携わるのがSEOが初めてという傾向があった。当時はそこに興味があり、その何人かと一緒に仕事をさせてもらったこともある。その経験で理解したことは、SEOそのものを扱うのではなく、SEOを活用してどう事業に貢献していくかという思考で一貫して仕事していたことだった。だから私も彼らに見習って、SEO以外のスキルも継続的に磨くように努力した。
要は、SEOだけを考える近視眼的な要素を排除し、自分が持つさまざまな知識や技能を応用しつつ、ビジネスを考えながらSEOの仕事に取り組む能力が求められるということだ。SEOはどうしても検索エンジンと検索順位を中心に考えてしまいがちだ。でも他の専門能力がないと、この思考から脱却するのは難しいし、成長する余地は限られる。
2020年現在もSEOの分野で活躍されている方の多くは、Web解析やWebデザインといったWeb関係の他スキル、あるいは全く別業界の専門知識を持っていると思う。
「自分の頭で考える、自分で手を動かす」
私がもっとも嫌いなウェブ関係者の1つは、Googleが○○というから○○だ、Googleが○○といったから○○が正しいんだと、思考停止してGoogleの主張をそのまま代弁している人たちだ。たとえば、GoogleがHTTPSを推進しはじめてから急に、いままで利用していた政府関係のWebサイトを見て「今時HTTPなんて怖くてアクセスできません」などと話すような人だ。Googleの発言前後で、そのサイトにアクセスすることのセキュリティリスクはいったいどれだけ変化したというのだろうか*3。
2020年現在、Googleはウェブマスターとのコミュニケーションを増やしており、皆がより良いウェブサイトを構築することを支援するためのアドバイスを提供してくれる。でも、Googleが言うから正しいのではない。検索技術関連の技術的仕様はともかく、WebサイトのUX/UIや情報設計(IA)、デザイン、コンテンツ、ナビゲーションなどに関することは、Googleがルールを決めているのではない。WebデザインやUI/UXなどインターネットの諸々の事情や背景を考えたら導き出せる複数の最適解の1つを、Googleが紹介しているに過ぎない。だから大切なことは、Googleが何を言ったかではなく、なぜその結論になるのか背景理由を自分の頭で考えて理解することだ。
SEO初心者の多くは「○○は順位に影響がありますか?」といった質問をしてくるが、まず『順位が上がる・下がるを価値判断基準にしないこと』という原則を学べば、類似問題は自分で解決できるようになる。理由を学ばない人は、延々と「では○○すると順位が良くなりますか?」という質問を繰り返し成長出来ない。
自分で手を動かすとは、Webサイト運営の実務経験があることと、個人的にもWebサイトを運営してみることだ。SEOの情報や講演で多くの人が(私も含めて)「ユーザーにとって役立つサイト作りに徹すれば良い」と耳にタコができるほど聞かされていると思う。これは初心者を含む不特定多数の人に向けてSEOの一般的な施策方針を話すのであれば、汎用的なこの文言でしかアドバイスのしようがないという事情がある。これ以上具体的なアドバイスに触れると、そのケースにピタリと当てはまる担当者には刺さるかもしれないが会場にいる9割以上の人には何の役にも立たない情報になるか、誤解を生む可能性があるからだ。
つまり、各々にとっての最適解は自分で探すしかない。それを探すためには自分でWebサイトを運営して、様々な実験を重ねるしかないので、「自分で手を動かす」というのは大切なことだ。Webサイト運営経験がないのは論外。
SEO上級者を目指すためのアドバイス
以上を踏まえたうえで、現在SEO初心者くらいの方がスキルを伸ばすために役立つかもしれない具体的なアドバイスを、私の経験を踏まえながら述べていく。ちなみに以下に述べることは24年間一貫して守っている。「それは普通無理だろう!?」というものが含まれているのは承知のうえだ。
Googleの講演を聴いた直後に、それを再演する
最初に一番難易度が高いと同時に自分の理解力を測る方法に触れておく*4。Google主催あるいは他社主催でGoogle社員がスピーカーとして検索技術やSEOに関連する話題について講演することがある。Googleの講演は、あえて真実に触れないことはあっても嘘は言わないという特徴がある。また、一般のウェブマスターが理解しやすいように配慮してくれている。これを教材として使う。
講演を聴いたあとに、自分が講演者として同じ内容を話す訓練をする。具体的には、次のステップを行う。
- 会場あるいはYouTubeでも良いので、Googleスピーカーの講演を最初から最後まで聴く
- 終了直後(繰り返すが、直後だ)に、「そのスピーカーが急病のため代わりに自分が代役スピーカーに呼ばれた」と仮定して(別にどんな仮定でもいいが)、その講演と同じ内容を、適宜自分の頭で咀嚼しながら、同程度の時間で全部話す。直後の再演が難しすぎるのであれば、頭を整理して一晩おいてからやってみても良い。思考の瞬発力を鍛えるためにも「直後」をチャレンジしてみてほしい。
- あやふやで説明できないこと、自分でよくわからずに説明しているところなど不備があるところは適宜メモしながら、最後まで通す Googleと同等程度の品質で最後まで講演できたら合格
- わからなかったところは再度聴いて理解したうえで、翌日、もう1回チャレンジ。
Googleが話す内容は初歩的な事柄が多く、SEOの仕事をするなら十二分に理解していて当然の内容だ。だから上記のステップ(講演直後に間髪にれずに再演)で問題なく話ができるようなら、自分の頭で十分に理解できていると判断する目安になる。全然できない、つまりアウトプットできないなら何となくわかったつもりになっているだけだ。
ちなみに私はGoogleのウェブマスター向けの講演なら、初めて聴いた講演でもその直後に100%以上の精度で再演できる(断言)。100%「以上」というのは、Googleが立場的に触れられない箇所や、あえて真実を話していない箇所を補足して説明できるから。
情報を覚えるのではなく「なぜ」を常に考える
たとえば『2020年現在、画像にalt属性のテキストを記述しても自然検索順位には関係ない。無視できるほど小さな影響しかない・・・』といった情報があった時に、「altにテキストを書いても順位は改善しない」という情報を覚えるのではなくて、なぜaltのテキストを検索エンジンが無視するのかという検索エンジンの歴史的背景や理由の観点から、合理的に説明できるように理解するということだ。
これは本記事前半で触れた「Googleが言うから正しい」という思考を捨てよという話とも関係する。繰り返しになる、(技術的仕様は除いて)ビジネスやマーケティング領域のSEO関連のルールは、Googleが決めるものではない。また、その90%はGoogleに質問しなくても適切な解にたどり着ける*5。残りの10%は、Googleの仕様が明確にならないと自信を持った意志決定ができないケースがあるためだが、それは世界中の誰にもわからないので問題ない。
検索のエコシステムには「検索エンジン」「検索利用者」「Webサイト(運営者)」の三者がいる。この三者皆が幸せになることが、適切な答えだ。だから常に、この三者の利益を考慮して合理的な理由を考えるようにすると、正解に到達できるようになる。
この訓練を積み重ねると、たとえばページ読込速度がランキング要因の1つであっても微々たるものの1つでしかない理由はなぜなのか、なぜ検索エンジン各社はcanonicalという仕様を策定したのか等、1つ1つの理由を理解していくと、同様の事象や問題も自ずと自分で答えを導き出せるようになる。インターネット上のあるSEO関連の情報の信頼度や正否も、自分で瞬時に判断できるようになる。Google Webmaster Office Hour やSMX などで行われるウェブマスターとのQandAセッションが退屈だと感じられる瞬間が来たら、それが成長した証だ。
2000年前半に一緒に仕事をしていた米国のSEO専門家が、さまざまなウェブマスターからの質問にいつも丁寧に、明確な理由を説明したうえでアドバイスをしているのを見て感心したのをきっかけに私も見習っている。社内研修や勉強会、外部講演でも必ず背景と理由に触れて体系的に理解してもらうように心がけている。その方が応用力が育つからだ。
最後に注意点を挙げる。この訓練方法には欠陥が1つあり、自分で考えた理由は適切なのか判断する方法を持っていなければならない点だ。もし社内の人間や周りの知人・友人で気軽に相談できるSEOに詳しい人がいれば手伝ってもらえれば良いのだが、いない場合は・・・論理的に物事を考えることが苦手な場合は、避けたほうがいいかもしれない。Google Webmaster Office Hour (英語、ジョン・ミューラーさんが開催しているもの)は、あやしい説明も時々あるけれど参考にはなるかもしれない。
悪いSEOをしているWebサイトも研究する
SEOができる人はスパム手法にもとても詳しい。自分でやっているか否かは別として、詳しいという点でいままでの経験上、例外はない。ホワイトハットとブラックハット両方の事情に精通している方が、何が最適な施策なのか、何をどこまでやればいいのかというさじ加減を判断する能力が養われるからだ。
普通に仕事をしていれば真面目にSEOに取り組んでいるWebサイトの研究はできると思うので、問題は悪い方をどうするか、だ。繰り返すが自分でウェブスパムを実践する必要はないので、それをやっているWebサイトを見つけて監視すればよい。お行儀が悪い業界*6というのは昔から変わらないので、長期間観察するのに向いている。あるいは、ブラックハットな情報のやりとりをするアンダーグラウンドなコミュニティに参加しても良い。
無差別に(名刺交換しただけで頻繁に営業メール送ってくる会社も含む)SEO商材の売り込みメールを送ってくるSEO関連会社は、ブラックな手法で自社メディアを運営しているケースがわりとある。というか、迷惑メール送信する程度にモラルがないのでスパムに手を染めている確率はむしろ高い。迷惑メールだからと即削除せずに当該会社の運営メディアを探して定期監視するという方法もある。
私は、昔はスパムで悪名高いSEO会社が運営するメディアやその顧客企業のWebサイトを監視対象にして研究していた。最近は面倒くさくなったので代わりにブラックハット系のコミュニティを暇な時に見て勉強している。ドイツ、東欧諸国と中国のブラックハット系コミュニティがおすすめ。
様々な実験を行いながら学ぶ
SEOは正解がないので、自分がかかわるWebサイトにとって最善施策は自分で探すしかない。書籍やインターネットの情報、セミナーなどで答えを求めるという姿勢自体が間違っている。SEOはWebサイト管理と運営なのだから、そのへんに正解が転がっているはずがないのだ。
結局のところ、A/Bテストを繰り返して得られたデータから自分で学ぶことを繰り返すしかない。仮説を考えながら、Webページやサイトの一部を修正・改修して、検索流入がどのように変動するのかを探って自社データを集めながら、試行錯誤することでしか自社に適した改善施策は見つけられないのだ。
世の中に正解が出てくるのを待っていても仕方がない。
問題が発生しているWebサイトの原因探し行う
インターネットを利用していると、検索エンジンでの掲載状況に問題があるWebサイトに遭遇することがある。この時に、他人毎にしないで自分が当事者だと仮定して、原因の追及と対処方法を考えてみる。特に検索流入に直接影響がある問題が突如発生した場合は、立場(事業会社、代理店双方)を問わず速やかな対応が要求されるので、思考を鍛えるためにも練習になると思う。
これらはSEOが好きな人は無意識にやっているかもしれない(何か別のことをしていたのに、いつのまにかSEOの仕事していた、とか)。私はページの不自然な空白をみつけると無意識にキーボードの ctrl+a (全部選択)を押してしまう。
おまけ1:意味不明な専門用語を使わないこと
自分が使う専門用語は、第三者に具体的な意味と定義を伝達できるか自問すること。同時に、業界で一般的に使われない独自考案の専門用語は使わないこと。他人に説明できない専門用語は、自分が具体的に理解しきれていない、ふわっとした概念を専門用語に置き換えてわかった気になっているだけの可能性が高いからだ。独自考案用語は、同業者との意思疎通に苦労するのでやめた方が良い。
たとえば「ドメインパワー」という用語を使って質問されたら、私は必ず「ドメインパワーとは何を指すのですか?」と質問で返すのだが、きちんと回答してくれる質問者はいない。
社内で新卒研修をする時、新人が専門用語を使ってきたら必ずその意味を説明するように要求するのだが、大抵は説明できない。同様に、顧客に提出する企業で見慣れない専門用語や、どうとでも解釈できる用語が出てきた時にも私は指摘するのだが、やはり説明できないことが多い。そういう経験から、専門用語を使う時は別の言葉で言い換えて説明できるか確認する習慣をつけると、個々の概念の理解や整理に役立つと思う。
おまけ2:参加者属性が制限された勉強会に参加する
前半で触れたが、SEO関係の講演者が口を揃えて「ユーザーの役立つサイトを作りましょう」という結論で話を終わらせるのは、初心者を含むイベントかつ一般的なトピックの講演においてはそれ以上のアドバイスをすると聴講者のデメリットが大きいからだ。さらに、初心者の多くは何か特定の施策によって簡単に検索順位が上がると考えている人もいるため、彼らに正しい認識を持ってもらうためにもユーザーのための~(略)~としか言いようがないという事情がある。
この初心者配慮に由来する問題は大きなイベントほど深刻になる。SMXやPubConが近年つまらないといわれるのは*7、あの規模のイベントになると毎回一定割合の初心者も参加するので、セッションやコンテンツ構成もそこに配慮せざるを得なくなり、例の結論に終始せざるを得ず、結果として業界歴が長い人ほど退屈に感じて離れてしまう。ついでに有能スピーカーからも敬遠され、かわりに能力が足りないコンサルが講演を務め~と悪循環が続いているのだ。
見方を変えると、参加者が制限されたイベント(交流会的な小規模なもの)なら案外突っ込んだ会話はされている*8。
2020年現在こうした日本国内のイベント情報を把握していないのでまったくわからないのだが、たぶん少人数の勉強会形式である程度難易度の高い話をしているグループがあると思う。なければ自分たちで作るとか*9。注意点は、参加者の要求知識経験レベルの下限(足切り)を設定することと、企業規模(事業規模)と領域(BtoC, BtoB)の対象者を揃えること。大規模サイトの運営者が、中小規模の事例を聞いても死ぬほどつまらない。旅行業界のSEO担当者が、専門通販サイトのベストプラクティスについて勉強しても活用できない。その逆もしかり。実は昨年、某イベントに参加した際にこの罠にはまってしまい3時間苦痛だったことがある。
*1:量産型辻さん・・・とはいえ、私自身も1990年代後半は1日22時間の仕事を3ヶ月連続でしていた記憶があるので・・・まぁ・・・。
*2:Webが好きじゃない時点でWebの仕事するなと言われたらその通りなのだが、仕事だからと割り切ってできる仕事と、そうでないものがある。SEOは日頃のWeb利用時間そのものがスキルに影響するので、嫌いだとどうにもならないと思う。
*3:HTTPS推進に反対しているわけではなく、「Googleが言うから従う」のは思考停止でありマーケターの仕事のあり方ではないという話をしている
*4:この話は、個人的に英語講演用のスピーキングやシャドーイングの練習目的で行っているのだが、理解力を試すうえでは日本語でやっても十分役立つと思うので紹介している
*5:私は自分の講演(社内外問わず)でGoogleの発言を引用することは、まずない。論理的に考えれば自ずと到達できる答えを説明するのに、わざわざGoogleの発言を引用する必要性がないからだ。Googleの発言を引用しながら資料作ると「専門家っぽさ」が出せるのだが、これ本当にエビデンスとして引用する必要性があるのかを立ち止まって考える癖をつけるとSEOに必要な思考力は鍛えられると思う
*6:SEOと相性が良いコンプレックス系商材のアフィリエイト界隈を観察する、など
*7:古くからの海外の友人・知人は誰もこれらのイベントに参加しなくなったし、私も大規模のSEO系カンファレンスは日本からの渡航費や宿泊費等も考慮するとまったく割に合わないので参加していない。スピーカーも高度なSEOの知識と経験を持った人が登壇しないため、品質が期待できないのだ
*8:私も参加者が限定された小規模イベントなら、突っ込んだ話をしている
*9:今年は上級者限定の小規模イベントを定期開催する準備をしていたのだが、新型コロナウイルスの影響により断念した