欧米の検索エンジンマーケティング系の文献を読んでいると、時折、「オーソリティ・サイト」(Authority site、権威性)という言葉に触れることがあります。検索エンジン、とりわけGoogleにおいて、多数の検索キーワードで安定してランキング上位に表示されているようなサイトを指したり、外部リンク構築戦略において、優良なリンクを獲得できるソースの1つとして言及されることがあります。米Google Matt Cutts氏はかつて、オーソリティサイトからのリンクは、サイト/ページ最適化以上に価値のあるシグナルとして処理することもある、と説明しました(SES、2004)。最近では、大量のコンテンツを生産している「コンテンツ・ファーム」の対比的に、オーソリティの概念が提示されることがあります。
SEOといいつつ実質的にリンクの貼り付けしかしたことがない方や、最近SEOを勉強し始めた方はまだなじみがない言葉かもしれませんが、この「オーソリティ」 - 権威性という概念は少なくとも2003年時点で登場しています。7年以上の月日が経過した今日でも最重要として語られていることですので、SEOの究極の目標としては、自身のサイトがオーソリティ - 権威あるサイトと認められることにあると考えて差し支えないでしょう。
さて、オーソリティサイトについて、改めて定義をしておきましょう。以下の図は私が2004年に開催した某所セミナーで使用したものを、2011年にあわせて手を加えたものです。ちなみに当時「も」Googleの検索アルゴリズムの大幅変更があり、いわゆる「リンクファーム」をスパムとして排除したり、無関係なサイトからのリンク評価を調整するといったことが行われました。また、被リンクにおけるアンカーテキストの一致率が一定割合(当時は70%以上と言われた)を超える場合、検索順位が大幅低下するといった事象がありました。それを機に、検索順位の変動リスクを最小限におさえ、長期的に安定したランキングを維持するサイトとはどうあるべきか?という議論の中で参照されたのが、このオーソリティという概念でした。
Matt Cutts氏は、アルゴリズムである分野・領域ごとの、一種の権威性あるサイトを検出し、そうした(権威ある)サイトの検索順位を優遇する(ランキングブースト = 少し順位を上げる、下駄を履かせる)ような処理をしていると述べています(2013)。高品質で優れたコンテンツを発信しているサイトを検索上位に提示して発見性を高めることは、優れた検索体験にもつながりますから、合理的なアルゴリズムといえます。
権威性のあるサイトと Google に認識してもらうことは、自然検索からの継続的かつ安定的なトラフィックが望めるため、デジタルマーケティングにおいてそうしたサイト作りを目指すことは重要ともいえます。ここで、オーソリティサイトについてもう少し詳しく学んでいきましょう。
オーソリティ・サイト = ある分野で誰もが認めるサイト
簡潔に述べると、オーソリティサイトとは「ある分野において、誰もが認めるサイト」ということです。つまり、その道の権威、プロを指します。
たとえば、普段のニュース番組では決して登場しないのに、紛争・軍事関連の大きなニュースがあると、頻繁に登場する専門家や大学教授がいますね、これは、特定の話題に関することなら「その道のプロ」に聞いた方が、信頼できる情報や優れた分析、解説が期待できるからです。また、視聴者側も「専門家がいうことなら」と一定の信頼を持って耳を傾けるでしょう(※ まぁ現実にそうじゃない場合もありますが、ここは一般論として受け止めてください)。
検索エンジンの視点から見た「オーソリティ」- 権威あるサイトとは、(a) 情報が充実し、(b) 整理され、(c) 一定の頻度で情報が追加・更新されており、(d) 有益な情報源への参照リンクを適宜紹介していて、(e) オリジナリティの高い分析や調査結果などを掲載し、(f) 長年にわたり運営され、(g) 様々な形式の自然リンクによる支持を受けている、といったサイトと考えるといいでしょう。上の図は、主要なものをピックアップしていますが、もっと多岐にわたるはずですし、また"アルゴリズム的に" これらの要素を評価するために、非常に複雑な計算が行われているはずです。つまりオーソリティ・サイトになるための明確な指標はないのですが、概念的にはいま説明したような要素を兼ね備えたもので、大方、間違いはないと思います。
専門性を持つオーソリティサイト
さて、オーソリティサイトといっても、Yahoo!やWikipedia のように、ジャンル全般にわたり強い、インターネットにおける「権威あるサイト」と、特定のジャンル、例えば飲食店クチコミ、旅行、医療、生命倫理、航空宇宙といった、特定分野・領域の権威あるサイトの2つに大きく分けることができます。残念ながら前者のようなサイトは、SEOというプランニングの中で考えるべきものではないですし(別にYahoo! はSEOで強くなるためにサイトが成長したわけではありません)、目指そうと思って簡単にできることではありません。対して後者、つまり特定の話題におけるオーソリティを得ようと思ったら、これは本人の頑張り次第でどうにかなるものです。
オーソリティ・サイトは一朝一夕に構築できるものではありません。検索技術的には、ネット上から得られる多様なデータを複雑に分析することで権威性を算出しようとしており、悪意ある検索エンジンスパマーが人工的に作り出すことは極めて困難です。なぜなら「世間の関心毎」「社会情勢の変化」そして「時間の流れ」という誰も操作できない物事を軸においた、データの変化によりサイトの権威性を計算しようとしているからです(だからこそ、Google は権威性という評価軸を重視している)。
たとえば当サイト(SEMリサーチ)は2003年から運営しているので、およそ8年あまりの月日を経過しています。最近は更新をさぼっていますが(汗、2009年くらいまでは比較的安定して更新してコツコツ記事を公開してきたこともあり、基本的にwww.sem-r.com 上で公開したコンテンツは検索にヒットしやすくなっています。
「SEOはコンテンツありき」「SEOで最も重要なのはコンテンツ」というのは、結局サイトは検索エンジンのためではなく、閲覧者、ユーザのためにあるべきものです。その閲覧者に対して価値ある情報を提供すること、それを継続的に行うことが究極のSEOである、と捉えて頂くといいでしょう。あるいは、SEOはやって当たり前、その上で、訪問者にとって有益な情報を発信し続けることと考えても良いかもしれません。
残念ながら日本では87%くらいが小手先のどうでもいいテクニックについてあれこれ語られることが多いのですが、そんなことはどうでもいいのです。 # 87% という数字に根拠はありません・・・
オーソリティ・サイトの構成要素
図版の中で言及している構成要素について簡単に解説します。なお、1つ1つが単独で評価されるものではなく、複合的なものであること、また、この図版では示されていない無数の要素がありますのでご注意ください。ここで述べた事柄を1つでも満たせば「良いサイト」になるわけではありません。ランキングアルゴリズムは単純なものではありません。
1. 存続及び運営期間:ホストするドメイン(サイト)の存続・運営期間を表します。一般的に、長きにわたり継続的に運営されているサイトは、相応に意味のある、利用者に有益な情報を提供しているに違いないという考え方に基づきます。
ただし、単にサイトが「そこにある」時間が長いこと自体が、そこにある情報の有用性を必ずしも示すわけではありません。例えば、社会・文化・法律が変化して求められるコンテンツにも変化が生じているにも関わらず(例 税制度、高齢化社会、環境問題)、過去のままの情報を掲載し続けるサイトが有用とは言えないでしょう。一方で、変化の少ない、普遍的な情報・事柄(例 江戸幕府の歴史など)に関しては、単純に長きにわたり情報を継続提供している、相応に権威性も高いであろうサイトを評価することは間違いも少ないでしょう。つまり、検索キーワードの傾向や性質により、時間軸という評価は相対的にポジティブにも、ネガティブにも評価されうるということです。
例) キーワードが…
1. 前方後円墳 → 古くて、かつ信頼性が高いサイトを重みづけする
2. AKB48 → いろいろな話題が出てくるので、サイトの存続時間は重要ではなく、更新性や情報鮮度の方が重要になってくる
ここでは一般論として、『閉鎖もされず、長きにわたり開設・運営されているサイトは、信頼できる可能性が高いものである』という理解をしてください。
2. コンテンツボリューム(数量):ある分野について詳細に言及しているサイトであるならば、相応の品質・有用なコンテンツを保有している可能性が高いという考えに基づきます。特に Google が品質面を重要視するようになった2011年以降は、単純にページ数量が多いサイトの評価が高くなるわけではありません。薄っぺらで役に立たない情報ばかりを大量に(数十万単位というレベルで)保有しているサイトを、Google は嫌います。
一般論として『(一定の品質や有用性、専門性が伴っているという前提で)ページ数が多くコンテンツ数量も多いサイトは、ある分野について豊富な情報を提供している可能性は高い(従って優良なサイトの可能性がある)』という理解をしてください。
3. 情報鮮度・更新性:ある分野について専門的な情報を提供しているサイトであるなら、一定の更新・追加・変更を行っているはず、また、そうした更新性や鮮度をもつサイトは適切にオペレーションされているから評価すべきという考えに基づきます。
スカートやカバン、水着などのファッション系の話題は、毎年あるいはシーズンごとに流行が変わるものです。インターネット業界は毎週のように新しいサービスが登場・廃止されたり、M&Aが起きたりするものです。こうした業界の情報を扱っているサイトであれば、そのトレンドにあわせて最新の情報(=鮮度)を提供しているサイトは、ユーザーのニーズに適した情報を提示している優良なサイトであると判断する1つの材料になります。
同じく、こうした変化の激しい業界において、常に最新の情報を提供し続けるサイト(=更新性)もまた、優良なサイトが満たす条件の1つでしょう。
一般論として『変化の激しい分野においてさえ、常に最新の情報を提供し続けるサイトは、優良なサイトである可能性が高い』という理解をしてください。
4. テーマ・専門性:サイト全体、また、カテゴリにおいて、どれだけ特定のテーマや専門に特化しているのか、一定以上の情報集合が特定分野に言及しているのであれば、そのクラスターは一定の有益性を持つかもしれないという考えに基づきます。
ある専門分野に基づいて情報を継続的に発信しているサイトであれば、運営時間の増加とともに、同じく専門分野に関連する言葉をアンカーテキストとした(自然)リンクも増えていくことでしょう。サイト内の1つ1つのページの文章を解析した時にも、共通した分野の言葉を扱っていることでしょう。Google は単に公開されたページ群の共通分野や話題を分析するだけでなく、運営時間の増加に伴って増加していくであろうバックリンクの、そのリンク元ページの分野やアンカーテキスト及びその周辺のテキスト情報も組み合わせて、そのサイトは真に特定分野における権威あるサイト足りうるのかを判断しようとします。
一般論として『特定の専門分野に特化したサイトは、運営時間の増加に伴ってページ数も増加するはずであるし、同じく自然リンクも増加するはずである。その新規に増えたページやバックリンクにも同じく何らかの専門性を表す言葉が相応に出現しているはずであり、そうした条件を満たすサイトは権威あるサイトの条件の1つを満たしうる』という理解をしてください。
5. アウトバウンドリンク(外部へのリンク):本当にその分野で評価の高いサイトであるならば、自らのサイトのみならず、言及した情報に応じて適宜、適切なサイトをリンクで以て紹介しているはずである、という考えに基づきます。これはアウトバウンドリンクの集合のハブとしての品質を判断しているともいえます。
良質な論文は、同じく良質な論文を参照しているものです。すなわち、優れた研究者は、品質の判断を適切に行う能力があるからこそ、良質な論文を選択しています。その考え方をウェブサイトに適用したのが、この外部へのリンク分析です。高品質なサイトを運営しているウェブマスターは、来訪者に提供するリンクも可能な限り慎重に行うはずですから、その外部へのリンクの全体的な品質から「十分な選定作業が行われている」のであれば、そのサイトは適切に運営されている可能性は高いといえるでしょう。
一般論として『権威性のある優れたサイトを運営するものは、来訪者に提示する外部へのリンクも十分な検討を重ねて選択を行っているはずだから、外部へのリンクの全体的な品質が担保されたサイトは、そのサイトの品質を判断する材料になりうる』という理解をしてください。
6. インバウンドリンク(外部からのリンク)/ダイバーシティ(リンクの多様性)/クオリティ(品質)/ コンテクスト(文脈):よく知られた「PageRank」概念ですが、多種多様なサイトから、多種多様な形式のリンクが、当該サイトの様々なコンテンツに対してリンクが貼られているような、非常に多くの自然リンクが集まっている状態のサイトは、相応のコンテンツが提供されているに違いないという考えに基づきます。テクニカルには、リンクの数量、アンカーテキスト、発信元ページのタイプ/エリア/セクション、リンククラスタ、関連性、レリバンシー、コンテンツ品質など多種類のシグナルを総合的に判断しているものと考えられます。いわゆる「外部リンク業者」には提供不可能な形式のリンクです。
7. コミュニティ: いわゆるソーシャルメディアやブログなどでも言及されているサイトは、人的評価で良いものの可能性があること、また、よく話題に上るサイトは良いサイトの資質を兼ね備えている可能性があるという考えに基づきます。
「時間経過」「ネット社会変化」も考慮して権威性を計算する
Google はインターネット上から取得できる様々な「てがかり」を元に、1つ1つのページとキーワードとの関連性や情報の重要度や品質、有用性を評価しようと試みています。しかし、単純に絶対数の増大(リンク数が多い、文字数が多い、更新頻度が高い)をポジティブに評価するわけではなく、世界の人々の検索傾向や検索結果のでの選択、ページに出現する1つ1つの単語の数量変化など、ネット社会全体によってもたらされるトレンドと照らし合わせて複雑な計算を行うことにより、権威ある、重要性のある情報を抽出しようとしているのが今日の Google です。
例えば、3.11 の地震では、夕方から夜にかけて、東北地方の津波や地震、原発についての情報量が急激に増加しました。こうしたネット社会の変化に照らし合わせれば、もっとも重みづけすべき項目は情報鮮度でしょう。しかし、紫式部や前方後円墳、白黒テレビ、二酸化炭素、明智光秀といった事柄であれば、情報鮮度ではなく、長らく運営され、かつ長期にわたり参照されてきた(権威性の高いであろう)ページを検索上位に出す方が有用です(もし仮に、明智光秀について従来の説を覆す大きな発見があった場合は、その情報を反映したサイトの方が有用という判断になってくるでしょう)。
ところで、こうしたネット社会の変化や時間経過といった要素は、悪意ある検索エンジンスパマーが集団を形成しても操作することは極めて困難です。一方で、こうした変化にあわせてサイトを運営するということは「ユーザーの方を向いてサイトを運営する」ということに等しいでしょう。だから、「まともにサイトを運営する」ことは、優れた SEO を実践するための近道と言えるのです。
結論:ユーザーのためのサイト運営の行き着く先が、オーソリティサイト
延々と述べてきましたが、要は、人間が「このサイトはすごい」と思うサイトを検索アルゴリズムで機械的に「このサイトはすごい」と判断できるようにしたいのが、Googleあるいは検索技術の目指す究極の姿です。したがって、オーソリティサイトになりたいのであれば、「ユーザーのために役立つサイトを運営せよ」につきます。きちんとユーザーに良いことを積み重ねていけば、結果的に Google が評価したくなるサイトの姿になるのです。
cf.
「ある分野で権威と認められたサイトは、より検索上位に表示される」米Google Matt Cutts氏 オーソリティに言及 SMX Advanced 2013
最終更新日:2014年3月14日