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グーグル、ソーシャル検索を日本でも提供開始

先月、米Googleはソーシャル検索が日本語を含む複数の言語に対応したと発表したことは既報の通りだが、6月13日に日本のグーグルも改めてソーシャル検索が日本でも始まったことを公式ブログで発表した。

Googleソーシャル検索とは

2011年5月下旬以降、Googleアカウントにサインインして検索しているユーザーは目にしているはずだが、検索結果に知り合いが作成・共有したページが含まれている場合に、そのリンクの下に友人の名前と写真が表示(アノテーション)されるようになっている。

ソーシャル検索はユーザーの交友関係(ソーシャルサークル=ソーシャルグラフ)を参照して、ユーザー1人1人にあわせて検索結果をカスタマイズしている。グーグルが参照するソーシャルサークルは、GmailのチャットリストやMyコンタクト、Googleリーダーやバズでフォロー(購読)している相手を自動的に認識し、ソーシャルサークルのデータとしている。また、Googleプロフィールを開設し、自分が管理しているソーシャルネットのアカウントをリンクしている場合(たとえばTwitterやFlickrなど)、それもソーシャルサークルのデータに含まれ、自分がTwitterやFlickr上で共有したリンクも友人の検索結果に表示されるようになる。

Googleが認識しているソーシャルサークルは、設定画面から確認できる。あわせて、自分と関連付けられているコンテンツ(ウェブ)も、ソーシャルコンテンツタブから閲覧できる。なお、ソーシャルサークルのデータを直接、編集することはできない。たとえば、自分の検索結果に表示させたくない(顔も見たくない!という意味)ユーザーがいた場合、Googleがそのユーザーと自分自身をつなげたパス(経路)を確認して、その経路を遮断する必要がある。たとえば、Twitterでつながっている場合、相手をフォローから外さなければならない。

ソーシャル検索の影響は

ソーシャル検索はレコメンデーション

ソーシャル検索日本語のリリース自体については5月下旬にお伝えした通りなので、ここでは今後の影響について述べておく。

まず第1に、検索エンジンマーケティングへの影響について。これはサーチエンジン情報館にソーシャル検索で本当に検索は便利になるのか?というコラムで掲載したのであわせて参照して欲しいが、現状のソーシャル検索というのは基本的にAmazonが提供しているようなレコメンデーションである。

もちろん、自分がよく知っている友人が共有したという意味付けがなされることで、情報の関連性(レリバンシー)が高まる側面はあるのであるが、ソーシャルサークルが機械的に作成されていることも考慮すると、レコメンデーションの意味合いが強い。また、よく言われるように「友だちが好きな物事を、必ずしもあなたも好きになれるわけじゃない」わけで、レコメンデーション的なものと捉えた方がいいだろう。

(ちなみに私自身のソーシャルサークルを確認してみたら、全然知らない韓国人やインド人、ロシア人あわせて100人ぐらいとつながっていた。Googleは本気でこんなデータ使う気なのか?)

理論上は、検索結果の中に自分の知人・友人が共有したリンクが含まれていれば、従来の検索より役に立つケースは確実にあるかも知れない。「かもしれない」と書いた通り、検索のタスク・目的やその複雑さによって、どれだけ役立つかは変わる。ただ、残念ながらGoogleのソーシャルサークルというのは、他のソーシャルネットをクローリングして自動的に人間関係データを作成しているという、Facebook や mixi とは性質が少々異なるグラフを有しているため、"この"ソーシャルグラフをもとにして検索結果でレコメンドされる情報がどれだけ有益なのかは人による、といえる。

Googleソーシャルサークルの問題

なぜ人によるかというと、Googleは複数のソーシャルネットをアグリゲートしてソーシャルサークルを作成してしまっているため、個々のユーザーの結び付き・関係の深さがよく言えば緩やかだし、率直にいえば無機質でレリバンシーの向上のどれだけ寄与するか見えない点もある。

TwitterやFacebookでフォロー・友だちになる相手を厳選していて、情報をある程度コントロールしているユーザーは有効に機能するケースが多いかもしれないが、とりあえず数多くのTwitterアカウントをフォローしていると、情報が邪魔なだけになったりする。

たとえば、自社のメディアで発信した全ての新着ニュースをツイートするbot系Twitterアカウントは結構ある。こうした類のものを複数フォローしていると、検索クエリによっては検索結果の大半がいずれかのbotによりシェアされたというアノテーションが表示されるようになる。この場合のアノテーションは役立つかといえばNoだし単なるノイズでしかない。だいたい、そういう類のアカウントをフォローする時は大抵、自分が興味・関心が高い分野のことも多いはずで、なおさら「邪魔」と感じる接触機会も増えてしまうはずだ。

人気≠品質問題

ユーザーがソーシャルメディアで共有・拡散する情報というのは、必ずしも品質が良いことを意味しない。アテンションが集まったもの、個々のユーザーが所属するコミュニティにおけるその時点で関心の高いものが共有されやすいという話で、品質が高いことは決して意味しない。たとえば、原発問題について科学的に極めて正確で客観的な記事よりも、少々嘘が交じっていても"ソーシャル受け"が良いタイトルの記事の方が広がってしまうことは多々ある。Twitterなどで記事を共有したけれど、実は最後までその記事を読んでいない、なんて人は意外と多かったりする。

つまり、品質というよりも、注目度や人気度を表しているのが実態。そして、「良い」の基準が皆バラバラで、しかも(検索結果における関連性という文脈における)"品質"的には良くない、役に立たないものまで評価されてしまうのが現状なので、従来のリンク解析の補完に用いること自体は可能だが、そのウエイトをどの程度にするかは慎重に判断する必要があるし、少なくとも品質を判断する代替シグナルとはなりえない。

「ソーシャルによってアルゴリズムで判断できなかったコンテンツの品質がわかるようになる」という指摘をする方を見かけるが、それは大きな勘違い。サービス設計者側の思惑通り、皆がカジュアルフィードバックを行った場合に成立するが、ソーシャルサイトでそれは無理なお話。ガチガチにルールで縛ったらだれも使わない。

オーガニック検索への影響(=SEOへの影響)

先に紹介したサーチエンジン情報館の記事を参照して欲しいが、ソーシャルサークルというのは検索インテントを把握するためのヒントの1つであるし、あくまでレコメンデーションとして「これあなたが欲しい情報でしょ?」と提示するだけの話なので、別に然したる影響はない。オーガニック検索に影響する類のサービスが出るたびに必ず「SEOが終わり」という人がいるが、もうちょっとウェブの世界や検索エンジンのことを勉強してみて欲しい。

検索エンジンはリンクグラフやドキュメントから様々なシグナル(手掛かり)を取り出して、文書の重要度や信頼度、クエリとの適合性を評価する。その上で、個々のユーザーの個人属性(たとえばソーシャルサークルや過去の検索行動)データをあわせて検索結果をカスタマイズする。つまり検索結果全体がユーザー1人1人にあわせて完全に変わるのではなく、検索結果のほんの一部がレコメンド的にアノテーション(友人の名前+写真)つきで表示されるだけなので、クリック率がちょっと上がるかもしれない?くらいの影響しかないと考えるのが妥当だ。

* 仮に、ソーシャルサークルを基準に検索結果を友人がシェアしたもの中心に変えてしまうと、交流関係によって検索品質が左右される問題が出てくるから技術的に厳しい。

ソーシャル検索の未来

別にソーシャル検索がダメといっているのではなく、上記の話は何年も前から指摘・議論されてきたことで、それを皆さんに改めて(現在の事情にあわせて)紹介しているに過ぎない。こういった問題は散々語りつくされていることをきっと知っていて、それでもソーシャル検索を投入してきているのは、将来的に必要なプロダクトだからでもある。現状では色々な課題があるけれども、1つ1つが解決されていくことで、きっと遠い将来、素敵なサービスがでてくると思う。これも昨日のエキスパートを探す検索の話でサーチエンジン情報館で書いているが、結局、検索クエリに関連する、その領域に精通しているユーザーのコンテンツやその人自身が信頼できる確率は高いので、そういったユーザーベースで検索サービスが利用できるようになるのは将来考えられる姿の1つだろう。

ソーシャルサークルの問題も、TwitterやFacebookでつながっている人と、検索している時に参照したい人は別、と考える人もきっといるはずだし、そうしないと過多なノイズでかえって検索品質が悪いと感じられるケースもあるはず。だから、検索のときに利用できるソーシャルサークルのパーティショニング(グルーピング)とかが出てくると、もう少し使いやすくなってくるはずだ。

おまけ:Google +1について

6月1日のGoogle +1 (プラスワン)の発表にあわせてSEMリサーチのサイトにも+1ボタンを設置しています。でも全く意味がないと思ってます(参照:なぜ Google +1 (プラスワン)は流行しない(と言われている)のか?)。それでも設置しているのは、一応こういう仕事をしている身分ですので、とりあえず試しているに過ぎません。皆さんに+1を設置すべきか尋ねられたら、即答で「いらない」と答えます。

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最近はこういう検索業界のお話について情報を発信してくれる方が減ってしまったので、ちょいと書いてみました。ソーシャル検索の話って、さかのぼると2000年代前半から、様々な形で出てきています。Eureksterとか、アルゴリズム vs 編集型エンジンの戦いとか、Googleキラーがらみとかね。一時期、米Yahoo!もソーシャル検索目指して色々サービス投入してましたよね、全滅しちゃいましたが。このあたりの事情を知った上でいまのソーシャル検索を眺めると、いろいろと面白いのですよ。

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