先日お伝えした、Google が日本国内(www.google.co.jp)でSPYW (Search Plus Your World、サーチ・プラス・ユアワールド) の試験提供を開始した件について、「そもそも SPYW ってなーに?」という方も多いと思われるので、基本的なことについて説明します。
Google Search, plus Your World (SPYW)とは?
Google Search, plus Your World はあなたの人間関係(ソーシャルグラフ)に基づいて検索結果を個別化するパーソナライズ検索です。ここでいう「人間関係」は、Google+ のサークルに基づきます。つまり、Google+ と Google検索を融合して、あなたの知人や友人のコンテンツを発見しやすくする、あなたに最適な「パーソナル検索結果」を提供するのが SPYW です。
SPYW は2012年1月に米国でリリースされましたが、米国内から google.com にアクセスしたユーザーに限定されていました。日本では過去に何度か試験的に SPYW が日本(www.google.co.jp)でも利用出来るようになったことがあります。
サービス名称が長いので、よく SPYW と略して表記します。
Google SPYW に影響するソーシャルネットワークサイトはどれですか?
Google 独自のSNSである Google+ のみが関係します。Twitter や Facebook、LINE、mixi など他の SNS は一切、関係ありません。「Google+ としか繋がっていない検索がソーシャル検索といえるのか」「Facebook や Twitter を含まないならば全くソーシャルではない」といった批判的な意見も当初から指摘されていますが、ともかく、検索結果に直接影響を及ぼすのは Google+ のみです。
Google は独自にコントロールできる Google+ と Google検索を軸に開発していくと考えられますので、今後も他の SNS が SPYW に絡んでくる可能性は低いでしょう。
ちなみにライバルである Microsoft の検索エンジン・Bing は Facebook と組んでソーシャル検索を提供しています。米国限定になりますが、Microsoft アカウントにログインし、かつ Facebook アカウントを紐付けることにより、Facebook 上の友人や知人のコンテンツ、いいねされたコンテンツが検索結果に表示されるようになります。ソーシャル検索という点で Bing x Facebook も Google 検索 x Google+ (=SPYW) も同様です。
なぜ Google は SPYW を開発したの?
Google に限らず検索エンジンは、ユーザーが入力した検索キーワードに対して、最大公約数的に適合性の高い検索結果を返してきました。インターネット一般に公開されているコンテンツの中から、あなたは面識が全くないかもしれないけれど、純粋にアルゴリズムで関連性が高いと判断したコンテンツを検索結果に表示しています。
しかし Facebook や Twitter、LINE が人気であるように、ソーシャルが今日のウェブの中心となり、そこで様々な会話がなされ、写真や動画、コメントなどが投稿されるようになりました。このソーシャルな場には、ある地域の素敵なレストラン探しや、夏休みに計画している旅行先のおすすめスポット、家族の写真など、「あなたの世界」、面識ある人による情報だからこそ有益で、役立つ場面も多い事でしょう。
こうした、1人1人の生活空間にあわせて検索結果をパーソナライズし、身近な人々、普段かかわりのある人々のコンテンツの発見性を高めることを目指してリリースされたのが、この SPYW なのです。
また、ソーシャルの利用時間がますます増加するに従い、今後も継続して優れた検索結果をユーザーに提供して満足してもらうためには、ソーシャルの分析が欠かせないという事情もあります。先述したとおり、ユーザーが欲しい情報や検索意図を把握するヒントがソーシャルメディアでの会話の中に埋もれている可能性があるからです。検索とソーシャルを融合して更に優れた検索体験を享受できるようにすることで、ライバルである Facebook やその Facebook と提携する Microsoft (Bing) よりもリードし、検索世界の覇権を確固たるものにしたいという戦略の狙いもあるでしょう。
Google SPYW は具体的にどんな検索機能があるの?
2014年4月時点で確認できている機能は、次の通りです。
第1に、Google+ や Google+ページに投稿された情報(テキスト、動画、写真)が検索結果に表示されるようになります。あなたがフォロー(サークルに追加している)ユーザーが一般公開またはあなたに共有を許可しているコンテンツや、あなたがフォローする Google+ページに投稿されたコンテンツが対象です。
第2に、人物名で検索した時に、検索結果右側にナレッジグラフのボックスが現れ、その人物のプロフィールが表示されます。このボックスから直接、Google+のサークルに追加することも出来ます。
人物名を入力中に候補人物を検索窓内で表示する機能や、人物名での絞り込み検索もありますが、日本国内では提供されていません(2014年4月15日時点)。
SPYW の登場で、Google検索は便利になるのですか?
・・・。 Google+ の使い方や、あなたの人間関係(Google+でのソーシャルグラフ)次第です。
昔からよく言われていることですが、ソーシャル検索の品質は、あなたの人間関係の品質に左右されがちです。積極的に優れた、役立つ情報発信をする人達の世界で生活しているユーザーは Google SPYW の恩恵を受けることが出来るでしょう。しかし、あまりオープンに情報を投稿しない、ちょっとアレなユーザーとのつながりが多いユーザーは Google SPYW によりかえって検索品質が悪くなった、ノイズが増えたと感じることでしょう。
一般に、Google がよく例えで出すように「世間一般の情報よりも、知人の情報の方が役に立つ」場面というのは確かにあるはずで、そういう場面では SPYW の検索結果は従来のものより関連性が高いと感じられるでしょう。
Google SPYW はパーソナライズされた検索結果が表示されるとのことだが、従来のパーソナライズとどう違うのか?
Googleが提供しているパーソナライズ検索は、検索履歴や現在位置に基づいて検索結果を個別化するものでした。今回の SYPW は、Google+ にある人間関係(ソーシャルグラフ)に基づいて検索結果をパーソナル化します。つまり、「言語」「過去の検索履歴」「過去に訪問したページ」「毎日閲覧しているページ」「現在地」など、さまざまな切り口で検索を個別化してきた Google ですが、SPYW は「交友関係」、ソーシャルを軸にした検索のパーソナライゼーションサービスになります。
Google+の月間アクティブユーザーはどれくらいですか?
Google 発表資料によると、2013年10月時点の月間インストリームユーザー(≒アクティブユーザー)が3億人です。
SPYW は Yahoo!検索など Google提携パートナーにも影響しますか?
SPYW は、Googleアカウントにログインした状態で、かつ Google検索サイト(www.google.co.jp や www.google.com など)でのみ有効な機能です。Yahoo! JAPAN を含む Googleの検索提携パートナー上では提供されません。Google+ という Googleのソーシャルネットワークサイトや Googleアカウントという Google固有の資産が絡むサービスですので、プライバシーや事業戦略上の理由から、今後も提携サイトに適用されることはないでしょう。
Google SPYW は全ての検索利用者の検索結果に反映されるのですか?
SPYW により検索結果がパーソナライズされるのは、Googleアカウントにログインして Google+ を利用しているユーザーに限定されます。
Googleアカウントにログインしていない場合は、SPYW に付随する情報自体が自然検索結果に表示されません。
Google+で投稿した全てのコンテンツが SPYW で公開されてしまうの?
SPYW で検索結果に表示されるようになるコンテンツは、あなたが一般公開したコンテンツ、または共有を許可したユーザーに対してのみです。非公開や、公開対象に設定していないユーザーの検索結果画面に、あなたの写真や動画、投稿情報が表示されることはありません。あくまでフォローされている、あなたが許可した共有相手の検索結果に限定されます。
検索結果が汚くなった。従来の(SPYWが反映されない)検索結果に戻す方法は?
検索結果画面の右上に、SPYW の有効/無効ボタンがありますので、それをクリックすることで SPYW を一時的に無効にすることができます。左側(人間のアイコン)をクリックすると、SPYW が有効に、右側(地球みたいなアイコン)をクリックすると、パーソナライズが無効になります。
右側のアイコンをクリックした時は、SPYW ではなく「パーソナライズ検索が無効」になります。つまり、SPYW に基づくソーシャルな関係も反映されなければ、ウェブ履歴など、あなたの過去の検索履歴に基づくパーソナライズといった、一切のあなた固有の情報が反映されない検索結果になります。
Google+ページを運営しています。フォロワー(サークル追加ユーザ)を増やせば増やすほど検索順位は上がりますか?
SPYW により変化することは、あなたが Google+ページに投稿したコンテンツが、あなたのページをフォローしている(Google+ページをサークルに追加している)ユーザーの自然検索結果画面に表示されやすくなるに過ぎません。つまり、標準の自然検索結果(一切パーソナライズされていない、デフォルトの検索ランキング)には一切影響しません。
たとえば、米国や中国で販売されている Google+ユーザーを大量購入して、見かけ上のフォロワー数を増やしても、自然検索のトラフィックが増加することは一切ありません。かわりに、Google からスパムアカウントを判断されるリスクが高まります。
SPYW は SEO にどんな影響があるのですか?
日本の皆さんの回りでも LINE や Twitter、Facebook を利用している人がたくさんいても、Google+ を積極的に利用している人は少数でしょう。従って、現時点で(仮に SPYW が正式に日本に展開されても)影響はそれほど大きくはないと予想されます。
ただし、今後の Google検索の進化・未来を考えたら、いずれ Google+ と密接に連携・統合されてくる可能性は高く、SEO を考える上で外せない要素になってくるでしょう。
先述した通り、人々がソーシャル上で様々な情報を投稿・共有し、情報伝播されるようになったことで、優れた検索結果を今後も提供していくためにはソーシャルの分析は欠かせないからです。Microsoft が検索エンジン・Bing において Facebook と提携し、Bing の検索結果に Facebook のソーシャルグラフや投稿を反映するように、Google も自社で構築するSNS・Google+ を使ってユーザー1人1人にカスタマイズした検索体験を提供していくことが求められるでしょう。
Google+を積極的に活用するメリットはどこにあるの?
現時点で Google+ を活用してメリットが得られるのは、Google Authorshipです。執筆者の顔写真を検索結果のスニペット(説明文)の左側に表示できます。これは SPYW とは関係なく、一般検索結果に表示されますので、特に著名な、有名な人であればクリック率を高めることが可能です。また、Google は将来的にオンラインで信頼性や評判性が高い人物が書いたコンテンツを検索上位に表示しやすくする可能性も模索していると言われていますので、Google Authorship による著者情報とコンテンツの紐付けという基本事項は行っておいても良いでしょう。
米国企業はGoogle SPYW を踏まえて SEO どう考えているの?
最近になり、ようやくStarbucks や The Economist、CBS Interactive (CNET)など Google 自然検索トラフィック獲得も念頭においた Google+(ページ)導入事例が出てくるようになりました。米国でも他のソーシャルネットワークサイトと比較すると、人がいない、ゴーストタウンな Google+ は微妙なところですが、しかし今後の Google検索の未来を考えたら Google+ は無視できないという点は多くの人が同意しています。
なお、英語を駆使する絶対人口数が多いので、英語を主言語とする市場においては(廃墟といわれる Google+でさえ)運用すればそれなりの効果は見込めるという事情がある点に留意してください。
SPYW 正式導入に備えて、いま、対策できることはありますか?
あらためて整理してみましょう。検索利用者視点で見た SPYW による影響は、「自分が繋がりを持つ Google+ユーザーや Google+ページの投稿やシェアした事柄が、検索結果に表示されやすくなる」ことです。一方、Google+ページ運営者視点で見た SPYW による影響は、「自分が投稿した情報が、フォローしているユーザーの検索結果に表示されやすくなる」ことです。
つまり、あくまでフォローしている/フォローされているアカウント間における影響に限定されますので、本質は SEO の問題ではなく、Google+を通じたユーザーとの交流・コミュニケーションをどうすべきかという問題に落ち着きます。
ところで、Twitter や Facebook、LINE を差し置いて(あるいは並行して) Google+ 運営にリソースを割くことは合理的でしょうか。ここが SPYW に限らず Google+ を扱う上で頭の痛い点です。それなりに賑わいのある場であるならまだしも、Google+ はゴーストタウンなどと揶揄されるように人がいないので、Twitter や Facebook と同じ調子で運用しても、あまり効果は芳しくありません。
従いまして『将来の Google+プラットフォームの重要性・意義を踏まえて、コミュニケーションコストは度外視して Google+ の運用を行う』という判断もありですし、『Google+ページのアカウント開設、基本情報の掲載、Google Authorship の設定など、初期セットアップ及び基本的な事柄のみ準備しておいて、しばらく様子を見つつ最低限の運用に留める』という判断もありだと思います。
個人的には、Google+のユーザー属性と被る領域(デジタルガジェットやテクノロジー系など)の事業を営んでいる企業であれば、運用することは現在でもそれなりに意味があるケースが少なくないように思えます。
Google+ページを開設すると、自分のサイトの検索順位は上がりますか?
繰り返しますが、Google+ページ開設自体は、標準の検索順位や検索結果画面に一切影響を及ぼしません。検索エンジンを開発する立場から見て「Google+ページを持っていること自体で検索順位を優遇する」ことの合理的な理由が全くありませんよね?
(上級)Google+ の、具体的に何が Google の評価対象になるのですか?
Googleサークルに追加しているユーザー、サークルに追加されているユーザー数、あなたが普段投稿しているコンテンツの傾向、投稿頻度、情報伝播・拡散性(=影響力)、交流頻度、参加しているコミュニティなど、『あなたの活動全般、興味・趣味嗜好を把握できるような』シグナルを取得して評価していると言われていますが、詳細はよく明らかにされていません。
今のうちに Google+ページへの +1 を集めておくとSEOが有利になりますか?
第1に、Googleは +1ボタンの回数を検索結果に反映していませんし、今後も反映することはないでしょう。Facebook の「いいね」など、ユーザーが簡単に操作・ねつ造できるようなフィードバックの類いは、検索アルゴリズムに組み込みにくいのです。また、中国などで販売されている「10,000 Google+ - $ 19.99」のような +1 を購入して一気に増やしても、「私はスパムをしています」と公にスピーカーで叫んでいるに等しいです。毎日10個ずつ増やすなどと小細工をしても同じです。
第2に、ここまで述べてきた通り、検索結果に影響するのはあくまで「あなたのGoogle+ページをサークルに追加しているユーザー」であって、一般的な検索結果を表示する時のランキング計算時には考慮されません。すなわち、リアルな、あなたの商品やサービス、会社に興味のある、最新情報を得たいと思ってくれるようなユーザーを築き、交流していないと意味がない、ということです。
cf.
Google - Search , plus Your World
http://googleblog.blogspot.jp/2012/01/search-plus-your-world.html
Search, plus Your World
http://www.google.com/intl/en/insidesearch/features/plus/index.html
最終更新:2014年4月15日