SEMリサーチ

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海外SEO情報から学んだSEO手法を推進する時の注意点

英語圏におけるSEOのケーススタディは、様々なヒントや示唆を得ることができるという点で効果的な学習方法です。そのために海外のSEO情報にも広くアンテナを張り、自分たちのサイトでも活用できそうな手法 --- 私はこれを「SEO施策の引き出しを増やす」と言っています --- は実践してみるという姿勢は大変素晴らしいものです。

幸い海外(英語圏)では、良い意味でも悪い意味でもSEO専門家達があれこれ研究し、手法やテクニック的なものを編み出していますから、有効性はさておき「そういう発想があるんだ!」という数多くの気づきを得られるでしょう。

しかし、諸々の事情により、確かに優れた手法だけれどもここ日本で同じアプローチを試みるのは困難な施策があることもまた事実です。本記事では、そうした「海外でよく言われるけれど日本ではハードルが高いもの」について触れていきたいと思います。

cf. 海外・英語のSEO情報の読み方・選び方

英語人口と日本語人口の違い

日常的に英語を母語(第一言語)としている世界のインターネットユーザーの人口と、日本語を母語とするユーザーの人口には大きな隔たりがあります。この人口の違いは、特に外部リンクの獲得数や情報の配信・アウトリーチ(情報をより多くの人に届ける)に影響を及ぼします。

同じ1つの同等程度のコンテンツを開発・発信した場合、人口が多い英語コンテンツの方が総じてコンテンツ1つあたりが獲得する参照リンク数や言及数(サイテーション)、共有等は高くなるものです。英語圏であれば十分にペイするようなコンテンツ制作体制であっても、日本語人口という制約条件が課される日本では上手く機能しないこともあります。

一昔前、まだ Googleツールバーの PageRank(以下、TBPR) が更新されていた頃には、例えば日本語サイトにおいて PageRank が 5/10 以上のものは大手サイトに限定されるものでした(つまり 4/10 までは上昇するが、5 の壁は比較的厚かった)。しかし、英語圏では(検索キーワードにもよりますが)自然検索順位200位のページでも PageRank が 5/10 以上有することは珍しいことではありませんでした。日本語検索結果で200位程度というと、せいぜい 1/10 の値だったのです。英語ウェブページの絶対数が多いのですから、そこから発生するリンクも日本語圏より遥かに多いことは当然ですから、対数目盛で表すTBPR が高くなっていたのです。

このように英語人口と日本語人口の違いは手法のスケーラビリティに影響するため、英語圏では十分に効果的なものが日本ではそうとは限らないケースを生み出します。

文化・習慣の違い

米国と日本の文化や習慣の違いにより、米国では流行のSEO施策が日本では機能しないということもあります。例えば一昔前の相互リンク依頼を通じた外部リンク獲得施策などが代表例で、「競合のA社とB社にリンクを張っているなら、うち(C社)へのリンクも加えてください」と相手先メディアと交渉したり、積極的に企業所属の個人として関連するコミュニティで積極的に発言・興隆して、その過程でリンクを得たりといったことは、相手がどう捉えるだろうかを考えると日本ではあまり受け入れられないタイプの方法でしょう。

オンラインにおけるウェブサイトのレピュテーション(評判)構築の1つの方法としてウェビナー(インターネット上で配信するセミナー)が挙げられることがありますが、(内容によるかもしれませんが)日本では意図した通りに(間接的にSEOにプラスになるような)流れにはならないでしょう。

YouTube を積極的に活用した SEO / コンテンツマーケティング施策も、日常的に(一般企業が当たり前のように)YouTube コンテンツを活用できているわけではない現状では、米国では検索エンジン対策やコンバージョンレート最適化等の観点から効果的であっても、日本では取り組むハードルが高いと思います。

このように、ベストプラクティスとして紹介される海外のSEO施策の中には、文化の違いにより実行そのものにリスクがあるケースもあります。

テクノロジーの違い

世界共通言語の英語圏を相手にするならば、ニッチなSEO関連テクノロジーでもビジネスとして成立します。だから英語圏では多種多様なSEO関連のSaaSサービスやソフトウェア、テクノロジーが存在します。かつてはターゲットキーワードに関連するウェブページをクロールし、コンタクト情報を取得し、その宛先に相互リンク依頼メールを送り、相手が応じたかどうかをトラッキングする、この一連のプロセスを自動化するソフトウェアなどがありました。あるいは、Open Site Explorer, ahref, Majestic SEO などサードパーティーの外部リンク分析ツールも英語圏を対象とするから開発できるのであって、日本国内限定でゼロから自社開発してビジネスとして運営するとなると(そもそも日本人担当者でこうした理由を使いこなす絶対数が限られるので)厳しいことでしょう。

つまり、海外のSEO関連のノウハウは、前提として「あるプロセスを自動化するソフトウェアが存在する」ことを念頭において紹介しているものが少なくないのであり、同じことを日本国内で展開しようとすると手間暇がかかりすぎて運用に耐えられないものがあります。

海外SEOの事例を試したい時はフィージビリティの確認を

冒頭に書いた通り、海外のSEOの(施策レベルの)トレンドを追うことは勉強になるのですが、そういった情報を得たときに日本国内で実行可能であるかを常に考えるクセをつけると良いでしょう。私は年に数回、海外のカンファレンス(今年は Content Marketing World と SMX Social)に参加していますが、聴きながら「日本ではこれがネックになる」「この問題さえ解決すれば日本のSEO現場に取り入れ可能」などと常に考えています。トライアル&エラーを繰り返すことが重要であることはいうまでもありませんが、全てを試すこともまた現実的ではありませんので、日本語、文化、技術の有無の観点から一度立ち止まって検討すると良いのではないでしょうか。

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